土地の遺産分割、評価額で兄弟対立 尺度は多様

Aさんは同居していた母を亡くし、弟と遺産分割協議を始めた。遺産は家の不動産くらい。家は住み続けたいAさんが相続し、その代わり、不公平になる分は現金で弟に償うことにした。問題は土地の評価額。Aさんは2000万円とみるが、弟は3000万円はすると譲らない。高く見積もるほど弟の取り分は多くなる。こんな場合どうすればいいのだろう。

不動産は金額換算する時の尺度がいくつもあり、遺産分割の協議が難航しやすい一因です。主な公的評価だけでも国土交通省の「公示地価」、国税庁の「相続税の路線価」、市町村の「固定資産税の路線価(固定資産税評価額)」があります。通常はこれらに取引事例に基づいた「時価(実勢価格)」も加わります。

相続税や固定資産税の納税ではどの評価額を使うかは決まっていますが、「遺産分割協議ではどんな評価を使っても自由」とみずほ中央法律事務所の弁護士、三平聡史さんは話します。特に時価は複数の相続人がそれぞれ異なる不動産会社などに依頼し、自らに都合の良い評価額を主張し合う例も多くあるそうです。

評価額で対立が起きるのは通常、不動産をもらう相続人ともらわない相続人がいる場合です。不動産をもらわない分を金銭などで補ってもらう立場の人は評価額が高い方が実入りが多くなりますし、反対に不動産をもらう人は評価額は低い方が不動産の代償に払う額を少なくできます。互いの利害が真っ向から対立する格好です。

一方、不動産を各相続人が同じ割合で共有するなら評価額を巡る争いはあまり起きません。ただ、後に一部の相続人が持ち分処分などを考えた時、評価額を巡る対立が改めておきる可能性は十分にあります。共有にしても結果的に問題の先送りにしかならない例も多くあるわけです。

相続人同士の話し合いでは評価額の折り合いがつかないなら、通常は家庭裁判所での調停、さらには本格的な裁判と同様の審判へと発展していきます。こうした場では最終的に裁判所が評価額を決めます。「裁判所が選んだ中立の不動産鑑定士の鑑定が参考にされるので、それぞれの相続人が主張した額がそのまま認められることはまずない」と三平弁護士はいいます。

不動産評価額を巡る争いは未然に防ぐのが難しい点もやっかいです。仮にAさんの母が遺言で「Aさんに不動産を」と書いていたとしても、弟に認められる最低限の相続分である「遺留分」はなくなりません。結局、不動産評価額は弟が遺留分として求める額に影響する構図となるので、兄弟間のトラブルを完全に防げるとは限りません。

どうしても手放したくない不動産があるなら、相続の発生前に話し合いの場をつくり、時間をかけてみなが納得できる分割方針を定めておきたいところです。

[日本経済新聞朝刊2016年2月17日付]

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