「音の職人、天才じゃない」 アーティストの個性生かす
音楽プロデューサー、本間昭光さん
今のJポップ界を代表する音楽プロデューサーの一人だ。ポルノグラフィティの「アポロ」「サウダージ」「アゲハ蝶」といったヒット曲はすべて本間昭光の作曲、編曲、プロデュースだ。いきものがかり、ももいろクローバーZ、JUJU、一青窈、広瀬香美、浜崎あゆみ……と手がけたアーティストは数知れない。
「アマチュアバンドでキーボードを弾いていた高校時代から裏方志望でした。光り輝く人を裏で支える音の職人になりたかった」。関西在住だったが、プロデューサーの松任谷正隆が主宰する東京の音楽学校に入り、毎週日曜に大阪から夜行バスで通学した。松任谷に認められて東京に移り、槙原敬之のバックなどを務めながら頭角を現した。
1999年ポルノグラフィティを担当する際に、初めて作曲に手を広げた。「調理が編曲とすれば、作曲は素材選びに当たります。30代半ばまで編曲ばかりしていたから、作曲家のデモテープを聴いた瞬間に売れる、売れないが分かるようになっていた。何千曲も編曲して分析してきた結果、自分は作曲の天才にはなれないが、職人にはなれるという手応えはありました」
いきものがかりには2009年から関わっている。ある日、後に大ヒットする「ありがとう」をメンバーの水野良樹が作ってもってきた。「ありがとう~のメロディーが印象的でしたね。編曲者としては、そのドレミファソ~の流れを生かす印象的なイントロを作らなくてはと考えた。名曲には名イントロが付き物と思っていますから」
この曲のサビに入るストリングス(弦)の美しさには、本間流アレンジの巧みさが表れている。「音楽理論上、メロディーとストリングスのラインがぶつかる部分があるんです。どうするか悩んだとき、かつて似たケースで槙原君と話し合ったのを思い出しました」
槙原は本間に「強いメロディーに対し、強いストリングスラインを付けたんだから、それでいいんだよ」と答えた。「彼はきれいな中にアンバランスな汚しを入れられる天才。僕はそれを現場で学んで経験値にして、職人技として『ありがとう』に生かしたのです」
編曲家として心がけているのは意外性だ。「僕はラテンロックが好き。それが編曲に色濃く出たのが広瀬香美さんの『promise』やポルノグラフィティの『サウダージ』『アゲハ蝶』で、本間といえばこんな感じとイメージがついてしまった。僕は職人ですから、こんな引き出しもあったのかと驚かれる音楽も作っていきたいのです」
「アーティストにとって、今一番必要なことを自然体で促す」が本間流のプロデュースだ。「食事や服装、精神的なアドバイスもします。表現力を向上させるには視野を広げてもらうのが一番。そこから生まれる自然な歌詞にこそ重みがある。音楽的なことは後から付いてくるものなんです」
「アーティストの作った曲の和音が音楽的に未熟でも、実はその方が味はあるという例も多い。それを見極めるのがプロデュース能力。個性を最大限生かしつつ、音楽を作る楽しさを感じてもらう手伝いをする。プロデューサーの役割はそこにあると思っています」
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あたたかな人柄の力
師匠に当たる松任谷正隆や武部聡志をはじめ、いきものがかり、ポルノグラフィティといった本間の手がけたアーティストが大挙して出演した「本間祭2015」は和気あいあいのコンサートだった。温かい雰囲気は本間の司会ぶりのたまもので、彼の誰からも好かれる人柄こそ、プロデューサーとしての最大の武器かもしれない。
今年、本間は新たな挑戦を始めた。東京や大阪などで公演したミュージカル「花より男子」の音楽を担当したのだ。もともとミュージカルは好きだったが、本格的に手がけるのは初めてという。ここはジャジーに、キャバレーの雰囲気で、ちょっとプレスリー風に……。演出家の注文に職人として次々とこたえ、それらしい音楽を紡いでいる。
「会場を出たときに口ずさんでもらえるくらい強い印象の残るメロディーを作りたかった」と話してくれたが、1月に見た東京・シアタークリエ公演の歌の記憶が、筆者の頭にはまだ何曲も残っている。
(編集委員 吉田俊宏)
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