アラフィフ主婦就活 勝つ 育児後の再挑戦で戦力に
高い意欲・経験値、中小企業が注目
「先月25日に正社員として初の給料をもらい、改めて実感がわいた」。都内に住む石井陽子さん(仮名)は派遣社員として勤めていた保険代理店で仕事ぶりを評価され、52歳で正社員になった。
1982年に大手保険会社に一般事務職として入社した。26歳で結婚退職し、2人の子育てや夫の転勤で10年以上仕事から離れていた。転機は40代後半で参加した同期会。保険業界で活躍する同期の姿に「保険の仕事をもう一度やってみたい」と考えるようになった。
2015年2月から派遣社員として今の会社で働き始めた。育児休業を取る人の仕事を引き継ぎ、保険金の支払業務を担当。「朝早く出社して元気にあいさつする、お客様には感謝を込めて丁寧に接するなど、当たり前のことを一生懸命やっていた」
加入者が増え業務量が膨れ上がる中、前任者の復帰後も派遣で業務を続けた。10月に上司から正社員にならないかと打診を受けた。「様々な人生経験を経て対応力や判断力が身についた。50代の強みを生かして貢献したい」と話す。
子育てが一段落したアラフィフ世代の主婦の再就職意欲は旺盛だ。総務省の労働力調査によると、15年(速報)の45~54歳の女性の就業率は前年より0.9ポイント高い74.8%。正社員は9万人、非正規社員は12万人増えた。背景には景気回復に伴う企業の人手不足感や、女性の活躍を後押しする機運の高まりがある。
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「活躍したいとの思いに火が付き、長期的にキャリアを考えたいという女性の相談が増えている」とパソナの常務執行役員、八木孝子さんは話す。同社の40代以上の派遣登録数(15年末)は2年前と比べて2割増の高水準で、特に45~49歳の増加が目立つという。
一方、求人件数は登録者を上回る伸びで「企業側は未経験者を育てる、業務を切り分けて働きやすい条件を提示するなど、意識を変えないと人を確保できない状況」(八木さん)だ。
「10年以上の仕事のブランクがあっても、結婚前の経験を生かした再就職を希望する女性が増えている」と指摘するのはビースタイル(東京・新宿)のしゅふJOB総研所長、川上敬太郎さんだ。
長く仕事から離れた主婦の再就職はスーパーなどのパートが多かったが、「オフィスワークで再就職できる可能性が出てきたため、仕事内容にこだわる女性が多い」と話す。同社が開く主婦向け再就職セミナーには、アラフィフ主婦の参加が増えてきた。
17日には企業向けの「アラフィフ主婦人材戦力化セミナー」を初めて開く。「企業の関心が高く、銀行や不動産、コールセンターなど幅広い業種から申し込みがある」(広報)という。
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「25年ぶりの就職活動。時間がかかりましたが採用いただきました」「ブランク15年、しかも半世紀以上の年齢で不安でしたが、手厚くフォローをしていただきました」。東京しごとセンター(東京・千代田)が14年7月に開いた「女性しごと応援テラス」の壁には、50代で再就職した女性の言葉が並ぶ。
テラスを通じて14年度に再就職を決めた女性は337人。うち17%が50代だ。都内の中小企業でパートの事務職として再就職を果たす例が多い。
「ブランクが15年、20年あっても、きちんと準備すれば再就職できる。我々にとっても発見だった」と東京しごと財団の山本麻里雄しごとセンター課長は話す。
再就職希望者は専任アドバイザーが支える。パソコンの技能やビジネスマナーを学べる無料セミナーも提供する。主婦の再就職に合う求人を探す担当者を3人配置した。「若くて技能がある人を採用したくても難しいのが現状。意欲とコミュニケーション力、人間力があれば、離職期間が長くても採用される傾向は今後も続く」と山本課長は話している。
半年前から準備、家庭経験生かす
キャリアコンサルタントの二本柳聡美さんは、再就職を希望するなら「働き始める時期の半年前には準備を始めて」という。マザーズハローワークや主婦向けサイトで求人状況を調べたり、自治体のセミナーに参加したりして情報を集める。「具体的にどんな仕事をやりたいか、今の自分に足りない技能は何か、どう身につけるのか考え、行動に移す」
事務職に人気が集中しがちだが「経理事務や医療事務など専門性を身につけると、仕事を見つけやすい」。保育や介護など需要が高く、主婦経験を生かしやすい業界の求人に注目するのもいい。
面接対策では「志望動機、過去の仕事の実績、前職を辞めた理由について自分なりの答えを用意して」。今の自分にできることを伝えるのが大切だ。「PTAや地域活動、子育てを通じて得たことも重要」。強みを丁寧に見つめ直してみよう。
(女性面副編集長 佐藤珠希)
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