漫画と音楽が通じる 浦沢直樹、創作の全容に迫る個展

創作について語る浦沢直樹氏
創作について語る浦沢直樹氏

「20世紀少年」「YAWARA!」などデビューから33年間ヒット作を描き続ける漫画家、浦沢直樹(56)。独創的な物語、卓越した画力、膨大な仕事量。創作の全容に迫る個展が開催中だ。

少年時代の漫画ノートやストーリーの構想メモ、スケッチ……。世田谷文学館(東京都世田谷区)で開かれている初の本格的な個展「浦沢直樹展」は、1000点を超す膨大な手稿を展示している。

代表作「MONSTER」の最終巻丸ごと1冊分248枚の原稿を並べた一角は圧巻だ。「1点1点ではなく、描き続けた軌跡そのものが漫画であるという浦沢先生の考えに沿った展示」と同館の中垣理子学芸課長は言う。

ギターで弾き語り

関連行事として2度開いた浦沢のトークショーではギターで自作曲を弾き語りしたり、ボブ・ディランを語ったりと、音楽への強い傾倒を前面に出していた。自ら作詞作曲して歌った12曲入りのCD「漫音」も9日に発売したばかりだ。

「作曲を始めたのは中学のころ。漫画を描くことと曲を書くことは、僕の中で通底しているんです」と浦沢が明かす。「主人公がちょっと言いよどんで沈黙。カメラが少し引いて、クローズアップする。僕の漫画のリズムや間合いの取り方は、明らかに音楽のリズムを借りているんです」

「このセリフが出るまでにコマは幾つ必要か、どんな演出ならグッと胸に迫るのか。それはどうしたらサビのメロディーや歌詞が聴き手の心に届くのかを考えるのと同じなんですよ」

仕事場には常にギターが置いてある。「描いている最中にメロディーが浮かんで慌てて自分の音楽室に入って仕上げたり、歌詞を思いついて漫画の原稿用紙の端に書き留めてみたりは日常茶飯事です。1日に1時間は音楽室でギターを弾いています」と話す。

そうして作られる漫画と音楽は根底で通じ合うことになる。「僕は結局、どの作品でも同じことを語っているようです。すべてが人の営みのなせる業として、笑いにたどり着く。そこには諦観もあり、希望もある。いつもそんなことを描いている気がします」

代表作「20世紀少年」(C)浦沢直樹・スタジオナッツ/小学館

20代以下も大歓迎

浦沢作品の特徴は「卓越した絵の力とストーリーの力が両立している」(中垣学芸課長)点にある。悪の組織の首謀者「ともだち」の世界征服計画は、主人公のケンヂたちが少年時代に遊びで作った「よげんの書」に沿って進められていた……。大ヒットした「20世紀少年」はそんなストーリーだが、奇想天外な話はどうやって生まれるのか。

「唐突にある場面が浮かぶんですよ。『20世紀少年』は国連総会で事務総長が『彼らがいなければ我々は21世紀を迎えることはなかったでしょう』と発言するシーンがまず浮かんだ。これはいったい何の場面なのだろう、と後から検証していったのです」

「今回の僕のCDに『僕の姉さんUFOにさらわれて』という曲がありますが、ジャーンとギターを鳴らしたら、そのフレーズがふいに出てきた。UFOにさらわれたら美人になって帰ってくるんじゃないか、と連想ゲームのように作っていった。漫画を描くときと同じ発想なんですよ」

「僕は今の60代から40代に向けてものを作っているつもりです。20代以下も大歓迎ですけどね。僕と同世代が育った時代は、漫画文化が最も華やかで、ロックも一番華やかな時代だった。しかし文化はどこかで古くなり、流れていって滝のように落ちていく。最近もロックスターのデビッド・ボウイやグレン・フライが亡くなりましたが、僕らの時代が終わっていくという感覚があります」

「しかし、寂しがってばかりいても仕方がないから、現在生きている僕らが最良のものを出さなくてはいけない。漫画文化やロック文化を、みんなもっと楽しもうよという思いで描いているんです」と語った。最新作は「モーニング」誌に連載中の歴史SF絵巻「BILLY BAT」。個展は3月31日まで。(編集委員 吉田俊宏)