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「おひとりさま」万一の備え 後見・保証人の確保を

2016/2/21

 今日は新衣紗が「たいきちマネー相談所」でアルバイトをする日です。バッグの中にはバレンタインのチョコレート。「こんにちは」。ドアを開けると、部屋の中からふわっと甘い香りが漂いました。
大学で金融を勉強中の初野新衣紗(はじめの・にいさ=上)と父の藤志郎(とうしろう=中左)、母の利子(りこ=中右)、隣に住むファイナンシャルプランナー・税理士の有賀鯛吉(ありが・たいきち=下)

 にいさ いいにおいね。どうしたの?

 たいきち クッキーを焼いたんだ。おひとつどうぞ。欧米ではバレンタインデーに男性から女性にもプレゼントすることがあると聞いてね。今年は知り合いの女性全員に手作りクッキーを配ることにしたんだ。新しい恋が芽生えるかもしれない。

 にいさ 仕事をしたほうがいいような気が……。

 たいきち おひとりさまも楽しいけど、老後の備えは大変だからね。できたら結婚して子どもがほしい。

 にいさ 独身の高齢者はそんなに大変なの?

 たいきち 例えば賃貸住宅が借りづらくなるといわれているね。賃貸住宅は大抵、入居時に保証人を求められる。高齢だと家族に頼もうと思っても親や兄弟は亡くなっていることが多い。そもそも家賃の保証人は収入がないと難しい例があるし、他人にも頼みづらいよ。大病したときにも困るらしいんだ。

 にいさ 病院なら1人で行けばいいんじゃないの?

 たいきち 手術や入院のときは立ち会いや本人以外のサインを求められる場合があるんだ。本人に万一のことがあったり、トラブルが起きたりしたときに連絡できる人が必要なんだろうね。

 にいさ 言われてみれば保証人とか緊急連絡先を求められるケースは多いかも。私も両親がいなくなったら困るもの。鯛吉さんはどうするの?

 たいきち 信頼できる近くの友人に頼もうかなあ。NPO法人などのサービスを利用する方法もあるね。

 にいさ どんなサービス?

 たいきち いわゆる保証人などの代行をするんだ。例えば老人ホーム入居の保証人や海外旅行の緊急連絡先などになる契約を結ぶ。もちろん、多少お金がかかるけど。

 にいさ もし認知症になって、1人で暮らせなくなるのも心配ね。

 たいきち 認知症などで判断力が衰える場合に備えて、成年後見制度を利用する手があるよ。おひとりさまの場合は、1人で生活できなくなったら誰かに財産の管理をしてもらって、施設などに入居することを考える必要が出てくる。後見人は本人に代わって、お金の管理や契約などができるんだ。

 にいさ 後見人には誰がなるのかな?

 たいきち 大まかに言って、家庭裁判所が指名した弁護士などがなるケースと、本人が元気なうちに指名した人がなるケースがある。いずれも家裁に申し立てて、必要と認められると後見人として仕事ができる。元気なうちに信頼できる人を指名して契約するのを任意後見制度といって、自分の意思を反映しやすいんだ。任意後見を利用する人は徐々に増えているよ。

 にいさ 他人に財産を任せて大丈夫かしら?

 たいきち 後見人の仕事は家裁がチェックする仕組みになっている。任意後見の場合、どんな施設に入りたいか、後見人にいくら報酬を払うかといった内容も約束できる。

 にいさ 周りに家族がいれば、大抵のことは誰かがしてくれるものね。家族がいないおひとりさまが亡くなったら、誰が相続をするの?

 たいきち 相続は順位が決まっている。まずは親。親が亡くなっていれば、兄弟で均等に分ける。兄弟に亡くなっている人がいたら、その人の権利はおいやめいが引き継ぐんだ。

 にいさ おいやめいの立場からみたら、おじさんやおばさんの財産を相続することもあるんだ。

 たいきち これが意外とトラブルになりやすいんだ。一人暮らしの人が亡くなると相続人に連絡が行く。そのときに初めて自分が相続人だと気付く場合が多い。亡くなった人の財産の処理などは通常は相続人がするけど、その役割が突然回ってくるわけだ。年齢が高くなれば、おじさんやおばさんと付き合いが少なくなっているケースは多いし、遠方に住んでいたら負担は重くなりやすい。

 にいさ おひとりさまのなかでも、縁遠くなった親戚に面倒をかけたくないという人もいるんじゃないかしら?

 たいきち そうなんだ。遺言書や契約書をつくっておけば、まわりの人の負担を減らせる。兄弟やおい、めいには一定の遺産を相続できる権利である「遺留分」がない。きちんと遺言書を残せば、お世話になった人に渡したり、全額を寄付したりすることもできる。税理士の清田幸弘さんは「遺言は公正証書の形式でつくるのがお勧め」と話しているよ。

 にいさ どうして。

 たいきち 公正証書でつくった遺言などは無効になるといったトラブルが少ないんだ。終末期の延命治療、葬儀や遺品整理といった死後の事務についても、公正証書を作成すれば意思を反映できる。

 にいさ 私も結婚できなかったら、いろいろと用意しないといけないのね。

 たいきち 大丈夫。僕が公正証書の作成や後見人探しを手伝ってあげるよ。手数料は特別割引で。

 にいさ ……。チョコレート、あげるのやめようかな。

■緊急時の連絡先を一覧に
 NPO法人りすシステム代表理事 杉山歩さん
 公正証書による契約をもとに保証人や任意後見人、死後の事務手続きなどを引き受けるNPO法人を利用する「おひとりさま」が目立ちます。いざというとき保証人探しで困る人が多いことが背景です。例えば病院で手術を受ける際に立会人が必要になり、慌てて相談に来る人もいます。元気なうちに、心身が弱ったときや死後に頼れる人を確保するのを勧めます。
 人が亡くなったあとの事務処理は意外と手間がかかります。火葬の手続きやお墓への納骨、公共料金の支払いやクレジットカードの解約などもあります。万一のときに他人が対応しやすいよう、緊急時の連絡先は分かるようにしておきましょう。取引のある金融機関や資産を一覧にしておくのも一案です。SNSをはじめインターネットサービスはIDなどがないと死後の対応が難しくなります。(聞き手は長岡良幸)

[日本経済新聞朝刊2016年2月13日付]

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