ライフコラム

法廷ものがたり

不妊治療のサプリ代、確定申告で認められるか

2016/2/17

裁判記録をとじた厚いファイルを開き、埋もれた事案に目を向けてみれば、当事者たちの人生や複雑な現代社会の断片が浮かび上がってくる。裁判担当記者の心のアンテナに触れた無名の物語を伝える。

不妊治療にかかった経費を医療費控除の対象として確定申告した男性が、税務署に認められず、「所得を少なく申告した」として逆に遡って追加納税まで求められた。男性は税務署の判断の取り消しを求めて提訴。焦点になったのは、不妊症の原因を改善するとされた高額なサプリメント代だった。

結婚して3年が過ぎても子供ができなかった30代の夫婦。妻の不妊症が原因とみられたが、漢方や赤外線療法を試しても効果はなかった。「薬を使わず体全体を健康にして治療する」というクリニックの評判を友人から聞き、訪問。診察した女性医師は「重度の栄養失調が原因で無月経になっている」とし、栄養状態を改善するため、市販品より人体への吸収率が高いという特殊なサプリメントを処方した。

■購入費は年間80万円、クリニックは「控除の対象」と説明

サプリは高額で、購入費は1年間で約80万円に上った。クリニックは「医療費控除の対象になる」と説明。妻は初めての確定申告に臨んだ。税務署で相談員に「治療用サプリメント」と記された領収書を示しながら、申告書の書き方を教わった。サプリ購入費を医療費に含めて申告し、約4万円の還付を受けた。

翌年以降も不妊治療は続き、2年目からは収入の多い夫が確定申告をした。ところが一転して税務署は「サプリ代は医療費控除の対象外」と指摘。控除を認めないどころか、「所得を過少に申告した」として1万7千円を追加納税するように求めてきた。

夫は不服を申し立てたが退けられ、その間に引き続き医療費として申告していた3、4年目のサプリ代についても控除を認めないとする処分を受けた。2~4年目に申告したサプリ代は計212万円。追加で納税を求められた額は計5万円になった。

「1年目は良かったのになぜ2年目からはダメなのか」と納得のいかない夫は、国を相手に課税処分の取り消しなどを求める訴訟を起こした。

医療費控除の対象について、所得税法は「治療・療養に必要な医薬品の購入」と定めている。国税庁のホームページはもう少し詳しく「病気の予防や健康増進のための医薬品の購入代金は対象外」と説明。このため、ドラッグストアなどで買える市販のサプリは対象外とされている。

この訴訟では「医師が処方した治療用サプリは市販のサプリと異なり、医薬品と同等に控除対象として扱われるべきか」が争点になった。

夫は「高額医療費の支出に伴う税負担の調整という医療費控除の趣旨からすると、対象の基準は医薬品かどうかではなく、治療・療養に必要かどうかにあるはずだ」と主張。「今回のサプリは医師の処方や管理の下で使われ、医薬品と品質も使用方法も差がないので対象になる」と訴えた。

これに対し、国側は「医師の処方がなくても買えるし、効果の科学的根拠も不十分なので市販のサプリと同様に扱うべきだ」と反論。「もし不妊症の原因が栄養失調だとしても、サプリを摂取して症状を改善するのは、『ビタミンを含む食品を多く食べろ』という医師の指示に従って症状を改善するのと変わらない」とした。

地裁の判決は国側の主張を認めた。今回のサプリが薬事法上の医薬品でなく、厚生労働大臣の販売承認も受けていない点を指摘。「医師が服用を指導したり、成分が医薬品と同等であったりという理由で医療費控除の対象とすることはそぐわない」と判断した。

■地裁判決、税務署の判断が前年と正反対でも「問題なし」

同じサプリについて、同じ税務署の判断が1年目と2年目以降で正反対になるのはおかしくはないのか。判決は「確定申告は納税者が適正な申告をするのが原則。税務署が常に調査をしなければならないものではないので、還付されたからといって申告が認められたことにはならない」とし、問題があるとは見なかった。

夫は判決を不服として控訴したが、高裁でも敗訴。最高裁に上告した。

子供がほしかった夫婦は不妊治療のため、ほかのクリニックを含めて5年間に計130回近く通院した。苦労のかいあって、2人の子供を授かった。妻は「お金はかかったがサプリのおかげ」と感じている。

クリニックはその後もホームページに「サプリ購入費は医療費控除の対象になる」と記載しているが、カッコ書きで「(税務署によって判断が異なる場合があります)」と付け加えた。

(社会部 山田薫)

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