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無縁の先にあるものは 「孤立をゼロに」奔走 130万人のピリオド(3)

2016/2/15

「どうして気付けなかったのだろう」。お年寄りが誰にもみとられずたった一人で亡くなると、発見者ら周囲の人々はこんな無念さを味わう。地縁や血縁が薄れゆくなか、激増する一人暮らしの高齢者の老後をどう支え、どうみとればいいのか。孤独死を防ごうとする取り組みも増えてきた。

東京都足立区は4日、引き取り手がなかった遺体のための追悼式を庁舎内で開いた

「孤立する人をゼロにすることを目指します」。4日、東京都足立区の区役所の大会議室で「行旅死亡人等追悼式」が開かれた。追悼の対象は昨年に区内で亡くなり、遺骨の引き取り手がなかった30人。追悼の式辞を述べた近藤やよい区長のほか、関係者が祭壇へ花を手向けた。

身元が断定できない行旅死亡人。遺体が発見された自治体が火葬の義務を負い、官報で公告を出して遺骨を保管する。足立区の場合、遺骨は5年間保管され、引き取り手がない場合は無縁仏の墓地へ合葬する。

ただ、区の担当者は「今回の追悼対象者のうち、本来の意味での行旅死亡人に該当する人はいなかった」と打ち明ける。大半が、孤独死し親族が遺体を引き取らなかった60代から80代の人たちだった。

一人暮らしの高齢者が急速に増えている。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、2035年には65歳以上の独居高齢者は762万人になる。高齢世帯の4割近くが一人暮らしになる見通しだ。

東京都監察医務院によると、東京23区だけで14年に2885人の高齢者が孤独死した。10年前の1.7倍だ。内閣府の調査では、60歳以上で一人暮らしをする人の4割が「孤独死は身近な問題」と回答した。

今後、高齢の一人暮らしが急増すれば、足立区のケースが他人事ではない未来が待つ可能性もある。こうしたなか、孤独死を地域ぐるみで防ごうとする動きが増えている。

東京都江戸川区は3月から、75歳以上の一人暮らしの人など区民約4万人を対象に、個人情報を町会などに提供する。条例に基づき高齢者ら本人の同意を得て名簿をつくり、新聞や郵便がたまっているなどの異変を早期に発見するのが狙いだ。

「孤独死の前に異常を早く見つけることが大事」。孤独死ゼロを目指して高齢者支援をするNPO法人「人と人をつなぐ会」(東京・新宿)の本庄有由会長(77)は話す。

本庄さんが住む都営住宅「戸山団地」は17棟ある。この戸山団地の大半が含まれる地区一帯の高齢化率(65歳以上人口の割合)は約40%。区の平均は約20%だからおよそ倍になる。

もともとは戸山団地で自治会の役員を務めていた。07年に解散し、同会を設立した。きっかけの一つは、役員時代に住民の代表として、衝撃的な孤独死の現場に立ち会ったことだった。「暖房がつけっ放しのまま1カ月半たち、腐敗が進んでいた」。自らと同じ間取りの部屋で、同じ部屋で寝ていたため、ショックはなおさら大きかった。

同会は一人暮らしの高齢者のリスクに備えた保険を考案し、見守りサービスやいざというときの葬儀、遺品整理などをカバーしている。

「身寄りがなくても、しっかりとした葬儀を出せたら」と語るのは、NPO法人「ストリートワーカーズコープぽたらか」(東京・墨田)の平尾弘衆代表(63)。ホームレス経験がある高齢者などを支援してきた同会は、身寄りのない人を家族などに代わって弔う助葬事業を始めた。

「一人で逝くのが怖い」と常々話していた仲間ががんで亡くなった。葬儀を自分がするつもりだったが、家族でないことを理由にできなかった悔いが、活動のきっかけになった。「仲間は誰にもみとられず火葬され、無縁仏の慰霊塔に入れられた。悔しさと無念さからこの事業を始めた」

墓地を1区画提供した水戸市の寺院の協力もあり、これまで25人を見送った。かつて尼僧だった平尾さんは「背広やドレスを着せた正装姿で棺に入れ、故人の生前を想起しやすい戒名をつけて送り出している」と話す。

■家族以外の絆づくり必要 高齢者の一人暮らし増加で

一人暮らしの高齢者は増え続けていく。みずほ情報総研(東京・千代田)の藤森克彦主席研究員は「特に今後は、頼る家族がいない未婚の一人暮らしの人が増え、老後をどう支えるかが課題になる」と話す。

藤森さんは「非正規雇用しか経験せずに高齢期を迎える人が増え、社会的に大きなリスクになる」とも指摘する。厚生年金がなく、月6万円強の基礎年金を頼りに生活するのは厳しい。介護サービスを満足に受けられない人の増加も予想される。

藤森さんによると、一人で亡くなったとき、いかに早く発見されるかは生前の人間関係が影響する。友人と連絡したり会ったりする頻度が遺体発見までの時間にも表れるという。「お金がないだけでなく、助けを求められる人間関係もないという意味での貧困は、既に現役世代にも起きている」。助け合える近所の人や相談できる友人など、家族以外の縁が必要になっている。(小柳優太)

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