マネー研究所

転ばぬ先の不動産学

家を買うなら まず考えたい3つのこと 不動産コンサルタント 田中 歩

2016/2/17

 家を買いたいというご相談で筆者のところに多くの方がいらしてくださいます。そのとき、必ず最初にお話しすることがあります。それは、「なぜ家を買うのですか?」という質問です。

 理由の多くは「今住んでる家が手狭になったから」「賃貸のままでは不安なので……」といったものです。しかし筆者は、こうした理由が、家を買う本当の理由になりうるのだろうかと、少々疑問に思うことがあります。

 こうしたお客様とお話しする際には、今後の人口推移と不動産価値について説明することにしています。

■人口減少の日本、住宅価格は3分の1程度に

 国土交通省の「国土の長期展望(中間とりまとめ)」という資料を見てみましょう。2050年の人口は推計9515万人で、04年のピーク時に比べて3000万人も人口が減少します。これは1960年代と同じくらいの水準です。

出所:国土交通省「国土の長期展望(中間とりまとめ)」より抜粋

 これだけ人口が減少するのですから、仮に新築住宅が供給されなくても、不動産は余るということがたやすく想像できると思います。シンガポール国立大学不動産研究センターの清水千弘教授は、日本の住宅価格は2040年までに、10年よりも46%下落すると推計しています。

 住宅購入の主な動機は家が手狭になったことだといっても、お子様が独立するまでの10~15年ぐらいの期間のみのニーズであれば、10~15年のためだけに不動産価格の値下がりリスクを享受する覚悟はあるのかということが論点の一つになってきます。

 さらに、不動産価格が下がるとともに、空き家が増加することも予想されています。13年時点の空き家は約820万戸(空き家率13.5%)でしたが、野村総合研究所は33年には空き家が約2150万戸(同30%)になると推計しています。

 国交省によると、首都圏における賃貸住宅の空き家率は、13年時点で既に18.5%に達しています。東京圏は17.3%、周辺4県は27.2%となっていて、将来、賃貸住宅の空き家率は相当な高水準になることが予想されます。

 「賃貸のままでは不安」というお気持ちもわかりますが、これだけ空き家が増えれば、貸したくても借り手が見つからず、貸主側が困るという“超借り手市場”の状況となる可能性もありそうです。

 家を買うのであれば、その前に住宅ローンのことも考えていただきたいです。住宅ローンは30年返済や35年返済などの長期間で借りる人が多いと思います。ローンの返済が終わる今から30年後、35年後には、不動産市場が今では想像ができないような状況になっているということです。

■「立地適正化計画」の動向に注目

 もちろん、地域によって下がり方は異なるはずです。先ほどの清水教授の推計は日本全国平均の数字ですから、価格が下がりにくい場所とそうでない場所が必ず出てきます。従って、値下がりしにくい立地、例えば利便性のよい場所や人口が減りにくい立地(特に働き手が減少しにくい地域)をどう選ぶのかということになります。その際、14年に改正された都市再生特別措置法に基づく「立地適正化計画」の動向に注目するのも一つのポイントになるでしょう。

 立地適正化計画とは、人口の急激な減少と高齢化を背景に、インフラ整備の財源を満遍なく行き渡らせることが困難となる見込みを受け、街をコンパクトにし、居住を誘導する地域とそうでない地域などの線引きをしていこうというものです。すでに220の市区町村が立地適正化計画を作成中です(15年12月31日時点)。これから家を買おうという方、そのうち売ろうとお考えの方は、立地適正化計画にも注目すべきでしょう。

 将来にはこのような予測があることを知ったうえで、購入を決断するのであれば、家を買うことについて何ら問題はないと筆者は思います。

 また、値下がりしにくい立地を選ぶのに加え、不動産価格下落の影響を少しでも緩和するために、住宅ローン控除を使う(実質的なマイナス金利を享受する)、住宅取得資金贈与を活用するなど、有利に購入できる仕組みを活用することをぜひ検討していただければと思います。

 また、家を買うことと相続の関係に留意することも意外に知られていないポイントです。特に一人っ子の方が家を買う場合、ご両親が相続評価額の高い地域に自宅を所有しているなら、注意が必要です。

■相続税節税の特例が使えなくなることも

 子供に自分の持ち家があると、親の自宅を相続する際に相続税を節税できる「小規模宅地等の特例」が使いにくくなってしまうからです。この特例を使えば、子供に持ち家がない場合、親の自宅の土地の評価額を8割減らすことができます(面積330平方メートルまで)。

 ローンを組んでマイホームを買ったうえに、相続の発生によって高額な相続税を課され、その相続税額を捻出するために、せっかく受け継いだご両親の土地を売らなくてはならないという話になりかねません。さらに、土地を売って譲渡益が出れば、譲渡所得税も課税されます。

 こうして考えると、かつてのようにマイホームの取得自体に絶対的な価値を見いだし、夢を見るというのに少々問題があるのではないかと思います。マイホームを持つことを目的にするのではなく、楽しく快適に暮らせる場所を見つけることこそが、本来の目的であるべきなのではないかと筆者は感じています。

 家の購入を検討するのであれば、その家で、その地域でどう暮らしたいかというゴールをまず設定し、そのゴールのイメージをご家族と共有してみましょう。このステップを踏んでから、家を買うのか買わないのか判断するということこそ、すてきな暮らしのスタートラインになるのではないでしょうか。

田中歩(たなか・あゆみ) 1991年三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)入行。企業不動産・相続不動産コンサルティングなどを切り口に不動産売買・活用・ファイナンスなどの業務に17年間従事。その後独立し、ライフシミュレーション付き住宅購入サポート、ホームインスペクション付き住宅売買コンサルティング仲介など、ユーザー目線のサービスを提供。2014年11月から「さくら事務所(http://sakurajimusyo.com/)」執行役員として、総合不動産コンサルティング事業の企画運営を担う。

マネー研究所新着記事

ALL CHANNEL