新コラムを引き受けることになりました藤野英人です。これからよろしくお願いします。
さて、株式市場が下げています。実に盛大に下げています。下げていることは愉快ではないですが、25年以上投資の仕事をしていると実に様々な下落相場を体験しているので、別段パニックになるわけでもありません。もし、この程度の下げでパニックになっているならば、とっくに他の仕事に変わっています。裏を返せば、投資の世界で長くやっていくためには下げ相場に慣れる、ということが絶対的に必要ということではないでしょうか。
株式市場にとって上がることも下がることも自然なことです。それは人が呼吸をするようなものです。息を吸わなければ吐けないし、吐かなければ吸えません。人が呼吸を止めることができないように相場の上げ相場も下げ相場も受け入れなければいけないのです。
そもそも景気は循環しているので、景気が上げ潮のときも下げ潮のときもあります。株式市場もそれを単になぞっているにすぎません。つまり景気が上げ潮だと株価が上昇し、景気が下げ潮だと株価が下がります。
投資でもうける絶対の方法はありません。ただそれだけを知ることで多くの失敗を避けることができます。投資で成功するための重要なことは謙虚であることです。「自分の考え方は間違っているかもしれない」と常に疑うことは、投資で成功するために大事な思考法です。なぜなら相場はいつも同じではないし、勝ちパターンもそれによって変化をするからです。
ただ唯一絶対のもうける方法があります。それは「安く買って高く売ること」です。
なんだそれは、当たり前ですよね、と思われるかもしれません。
ただこれがなかなかに難しいのです。というのは、投資において多くの人は株価が安くなると不安になって投資したくなくなりますし、逆に株価が上がると強気になり、買いたくなるという習性を持っているからです。
本当は、安くなればなるほど、わくわくしなければいけません。こんなに安く買えるなんて私はなんてラッキーなんだと。しかし、実際には心臓がバクバクし、夜も眠れなくなり、不安にさいなまされてしまい、持ち株を手放してしまうという愚を犯してしまいます。
投資の賢人であるウォーレン・バフェット氏の先生であるベンジャミン・グレアムが「ミスター・マーケット」というたとえ話をしています。
株式市場は情緒不安定なパートナー、ミスター・マーケットのようなもの。彼らは会社を売り買いするための値段を提示しています。とんでもない値段を提示したりするけれども、何度断ってもいつも違う値段を提示してきます。機嫌のよいときは会社の将来をバラ色だといって、法外な値段をふっかけてきます。また機嫌の悪いときには会社の将来は絶望的で真っ暗闇だといって、これまたとんでもない安値で示してきます。
市場と向き合うというのは、この情緒不安定なミスター・マーケット氏と付き合う必要があるということです。彼に付き合わされると正しい意思決定ができずに、高値で買って安値で売るような損をすることをしてしまいます。
「安く買って高く売る」ということができずに、「高く買って安く売る」ということを多くの個人投資家がしてしまうのは、情緒不安定なミスター・マーケット氏に付き合わされるからです。
ミスター・マーケット氏と上手に付き合うにはどうしたらよいのでしょうか。そのためには、次の矛盾した内容を理解することが必要です。
1)「株価はついている限り正しい」
2)「株価は常に間違っている」
1についていえば、株価というのは文字通りついている限り正しいわけです。市場で提示されている値段で売り買いをすることができるし、その時点での会社の値段でもあります。だから株価には常に謙虚であるべきです。
一方で2の「株価は常に間違っている」という側面もあります。というのは値段を提示しているのは情緒不安定なミスター・マーケット氏なので、その会社の本当の価値と一致していることはほとんどなく、実際は過大評価されているのか、過小評価されているのかどちらかです。
私たち、プロの機関投資家が市場で利益を上げられることが可能になるのは、この2つの法則があるからです。もしいつも市場で正しい値段を提示されているならば、その中でもうけることは非常に難しくなります。しかし、市場は価値とかけ離れた価格を提示していることが多いので、その中できちんと価値をみつけることができたら、市場が提示した価格が割安なときに投資をして、割高なときに売却をすることで利益を上げることができます。
要するに、ミスター・マーケット氏が情緒不安定でさまざまな価格を提示してくれることが、投資家に割安に株式を買うチャンスを与えてくれたり、十分なもうけを上げるような機会も提供してくれたりするというわけです。
どうでしょうか。確かに今は株式相場が下がっていますが、ミスター・マーケット氏が提示してくれている「買うチャンス」に見えませんか? もちろん買った価格よりあすは下がってしまうかもしれませんが、株式市場と向き合うこととは情緒不安定なミスター・マーケット氏と上手に付き合うことに他なりません。