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「アンジェリカの微笑み」 101歳監督が恋愛映画

2016/2/14 日本経済新聞 夕刊

昨年4月、106歳で亡くなったポルトガル映画の巨匠マノエル・ド・オリヴェイラ監督。長く「現役最高齢」と形容されながら、最晩年まで精力的に映画を撮り続けた。101歳の時に手がけた幻想的な恋愛映画「アンジェリカの微笑み」が昨年12月にようやく日本で公開された。映画ファンの熱い支持を集め、上映を終えた主要都市5館で1万人超を動員。今後全国で順次上映を予定している。

物語の舞台は、これまでの作品でもたびたび取り上げたポルトガル・ドウロ川流域の小さな村だ。カメラが趣味の青年イザクの元に、若くして亡くなった富豪の娘アンジェリカを撮影してほしいとの依頼がくる。白い死に装束をまとい横たわる彼女にレンズを向けると、まぶたを開き、イザクにほほ笑む。翌朝、現像した写真を見直してみると、写真の中の彼女が再び彼にほほ笑みかける。

アンジェリカに恋するイザク。死んだはずの彼女が姿を現し、イザクと抱き合いながらふわりと空を舞う場面は、観客の心を揺さぶる。怪奇とロマンスが交錯し、幻想と現実を軽々と超越する。“枯れ”とは無縁のみずみずしい恋愛映画だ。

主な観客を女性と見込んでいたが、ふたを開けてみると男性が多かったという。「男性はアート系映画が好きな若い人からシニアまで幅広く、中高年の夫婦も目立った。オリヴェイラ監督の作品は必ず見る、という固定ファンが詰めかけた」と配給会社クレストインターナショナルの渡辺恵美子代表は語る。蓮實重彦氏ら批評家からの高い評価や、さまざまな媒体で昨年のベスト映画に選出され、「見に行くかどうか迷っていた観客の背中を押してくれた」という面もあったようだ。

監督は1952年に自ら執筆してそのままになっていた脚本を、現代に舞台を移して翻案した。半世紀以上を経て映画化にこぎつけた作品だ。日本公開を巡っても複雑な経過をたどった。配給の権利を取得していた会社が相次いで破産。完成から5年を経て日本公開が実現した。「監督が亡くなり、何としてでも昨年中に公開したいと思った」と渡辺代表。今年は追悼特集上映も開催されており、オリヴェイラ監督が改めて注目されそうだ。(の)

[日本経済新聞夕刊2016年2月10日付]

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