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「日本文化は僕の血肉」 映画監督、カルロス・ベルムトさん

2016/2/15 日本経済新聞 夕刊

映画監督 カルロス・ベルムト氏

 ネットで世界とつながる現代でも、洋画の中の日本は障子に鳥居、いかめしい武術家など定型化したイメージが少なくない。だが、この人の映画には取って付けたような日本はない。

 「格好いいからと日本文化を取り込む監督もいるが、表面をなぞる空っぽな表現には興味がない。日本の漫画や映画、小説に親しみ、自分の血となり肉となっている。自然な形で作品の中ににじみ出てくるのは当然のことなんだ」

 スペイン・マドリード生まれの35歳。少年時代、ブームを呼んだ鳥山明の漫画「ドラゴンボール」に夢中になった。そんな世代が今は創作の一線で活躍する。

 ブラックユーモアと洗練された映像に彩られた「マジカル・ガール」(日本公開は3月12日)は、劇場デビュー作だ。サン・セバスチャン国際映画祭グランプリなど、数々の映画賞を獲得した。

 病気で余命わずかな少女アリシアの夢は、日本のアニメ「魔法少女ユキコ」のドレスを着て踊ること。高価なドレスを買うため、失業中の父ルイスが犯罪に手を染めてしまう。ルイスのこの行動が引き金となり、心を病む女性バルバラと暗い過去を抱える元教師ダミアンを巻き込みながら、物語は悲劇へ向かう。

 アリシアは友だちと日本風のあだ名で呼び合い、歌手・長山洋子の楽曲でダンスを踊る。監督によれば、さらに深いところで日本と結びついているらしい。

 「自分なりのフィルム・ノワール(退廃的な犯罪映画)を目指した。古典的なフィルム・ノワールは善と悪という対立軸がはっきりしているが、実際には誰しも善と悪の部分がある。人間の光と影を描きたいと思ったんだ」。根底にあったのが、忍者を目指して学校に通うものの、落第してばかりの問題児が成長する岸本斉史の漫画「NARUTO―ナルト―」だった。

 「スペインの漫画は善悪がはっきりしている。つまり作者が判断した善と悪が描かれているんだ。ところがナルトは悪に『なぜ?』という視点を持ち込み、原因を追究する。子どもながらに感銘を受けた」

 漫画やアニメで日本文化に最初に触れ、友人たちと同時代の作品をむさぼり読んだ。手塚治虫、水木しげる、浦沢直樹らの作品に手を広げ、新藤兼人や大島渚、今村昌平、勅使河原宏らの映画にうなった。

 主人公・悟空が秘宝を求めて冒険する「ドラゴンボール」で印象深い場面がある。復活を遂げた敵が悟空と再度戦おうとする。「どんな戦いになるかとわくわくしてその場面をずっと待っていた」。ところがじらされたうえ、戦う前に敵があっさり死んでしまう。

 「次はこうなるはずと踏んでいた観客の期待を外す。でも怒りは全くなかった。むしろ驚き、すごいと感じた」。今回の映画で父ルイスが宝石泥棒を働こうとした瞬間、ある出来事で物語が一転するのも、この時の実体験が影響しているという。また映画に登場する豪邸の黒とかげのマークは江戸川乱歩の「黒蜥蜴(とかげ)」へのオマージュだ。自らを「映画オタク」と称するが、「日本オタク」とは言わない。自分にとって、日本文化は当たり前の存在だからだろう。

 あこがれ続けた日本はスペインから遠く、旅費もかかる。ようやく夢が実現したのは2008年だった。「まとまったお金が手に入り、翌日には飛行機の切符を購入。計画も立てないまま来日し、独りぼっちで浅草のとんかつ店に入ったのを覚えている」と笑う。

 「日本は第2の故郷」と語る。今では1年のうち合わせて4~5カ月は日本に滞在し、主に映画脚本を書いているという。「スペイン人は感情を表に出すと思われがちだが、必ずしもそうとは限らない。怒っていても顔にはあまり出さない日本人との接点を感じている」

 行きつけの場所という東京・新宿のゴールデン街で写真を撮影した。お気に入りの歌手・浅川マキは晩年まで新宿を拠点に活動していた。影響を受けたという日本アート・シアター・ギルド(ATG)の作品上映でにぎわったのも新宿だ。「歌手では他にちあきなおみも好き。彼女たちには“カワイイ”とは違う、力強さを感じるんだ」

(文化部 関原のり子)

[日本経済新聞夕刊2016年2月10日付]

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