保険を知るのに専門知識はいらない保険コンサルタント 後田亨

「一生涯の保障が安心」「相談は何度でも無料」――。これらの宣伝文句は、保険の世界では当たり前のように語られています。しかし、少し考えてみると、「どれもおかしいんじゃない?」と気がつきます。専門的な知識などなくてもわかるのです。保険の相談に来られた会社員の女性Oさん(38)との会話を再現してみましょう。

O:「『そろそろ40歳なんだから、保険のことをちゃんとしなさい』と親に言われて、保険ショップに行きました。それでいくつか保険を薦められたんですけど、全部入ると月々数万円の出費になるし、『何か違うんじゃないか……』と感じて、次回の予約だけして帰ってきました。保険って難しいですよね」

後田(以下U):「保険は難しい、とよく言われます。でも、今回、判断を保留したことは正しいと思いますよ」

O:「そうなんですか?」

U:「はい。だいたい『よくわからない』と思っているにもかかわらず、長期契約を結んでお金を払い続けるとしたら、それっておかしなことですよね」

O:「そう言われるとそうなんですけどね。ただ、親に限らず、職場でも同僚から、『え、本当に何も入っていないの?』って不思議そうに言われると、プレッシャーを感じる自分もいるんです」

U:「私も最初は親に言われて保険に入りました。でも、親は保険の素人です。素朴に考えると『この人の判断はあてにならないかも』と思えますよね」

「実際、わたしは大手生保と代理店で販売業務を15年ぐらい行い、その後、著述業を中心に5年ぐらい、保険とかかわっていますが、保険会社時代に営業部門で教えられたことには間違いが多いんですよ」

O:「本当ですか?」

U:「はい。主に営業部門の研修で仕込まれるのは販売を促す情報です。だから、営業担当者経由で保険に加入する人の選択は、基本的にはマネしない方がいいでしょう。大手生保時代に営業部長が『よくわかっていない営業担当者が、もっとわかっていないお客さんに保険を売っている』と言ったことがあって、至言だなと思うんです」

O:「そんな……。保険ショップもダメですか?」

U:「ショップもあくまで代理店ですから。Oさんの場合、独身女性ということで『医療保険』や『がん保険』、それから老後資金準備のためにと『終身保険』なんかを提示されませんでしたか?」

O:「はい……」

U:「それに、薦められた医療保険やがん保険は10年で更新するものではなくて、一生涯の保障がある終身型ですよね?」

O:「そうです……」

U:「終身型を薦める理由は、老後になったときに保障が切れてしまうような保険は安心できないし、保険料が10年ごとに値上がりするのも困りますよね、と」

O:「そのまんまですね」

U:「お金が殖やせる保険は、長期的には預金より有利だとも言われませんでしたか?」

O:「そうです、よくわかりますね」

U:「わたし自身、営業時代に同じ説明をしていたからです。『死亡・医療・貯蓄など目的別に加入しましょう』と言い続けていました。でも、今から考えると、ほとんど間違っていました」

O:「え!? 何も間違っていないように思いますよ」

U:「むしろ、しっくりくるでしょう。だから怖いんです」

O:「じゃあ、どうしたらいいんですか?」

U:「いったん、立ち止まってみればいいんです。当たり前のように語られていることが、実は違う、ということが意外に簡単にわかるんです。保険の素人である周囲の人たちの言うことを聞いてもしょうがない、ということはもうわかりましたよね?」

O:「まあ、そうですね(苦笑)」

U:「特別な知識はいらないというのがポイントです。『保険のことをちゃんとする』というのは、何かの保険に入ることではなくて、素直に、普通に、保険について考えてみることだと思います。次回から、より具体的に常識を覆していきましょう」

本連載では、一般のお客様との対話を通して「実は間違っている保険の常識」について再考していきます。専門的な知識を持たない一般の読者のみなさまが容易に理解でき、視界がクリアになるような内容を目指します。よろしくお願いいたします。
後田亨(うしろだ・とおる) 大手生命保険会社や乗り合い代理店を経て2012年に独立。現在はバトン「保険相談室」代表理事として執筆やセミナー講師、個人向け有料相談を手掛ける。著書に「生命保険の『罠』」(講談社+α新書)や「がん保険を疑え!」(ダイヤモンド社)、「保険会社が知られたくない生保の話」「保険外交員も実は知らない生保の話」(日本経済新聞出版社)など。公式サイトはhttp://www.seihosoudan.com/とhttp://www.yokohama-baton.com/

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