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カリスマの直言

マイナス金利は成長への覚醒を促す苦い薬(渋沢健) コモンズ投信会長

2016/2/15

マイナス金利ということは、預けた元本は必ず割れるということだ。「元本保証」の呪縛に長年とらわれている日本人には信じ難い、あり得ない衝撃かもしれないが、世の中には真の元本保証など存在しないという現実に目覚めなければならない。リスクを避けて、お金を大事に抱えているだけでは、むしろ違う方面からリスクが忍び寄ってくる。

日銀が大声で発信しているメッセージが日本人の耳に入らないのであれば、政策の異次元からの出口は永遠と見つかることないであろう。もともと自立的成長までの時間稼ぎであるはずの異次元政策が無期限に続くということは、我々と後世の豊かさの持続性が脅かすリスクが高まることでもある。

持続的な豊かさには成長への未来志向が不可欠だ。現状維持の延長には持続性はない。その成長とは、短期的な実りではないかもしれないし、単純な物質的な成果でもないかもしれない。しかし、世の中が求める新しい価値を創造できる主体は必ず成長する。

目先の株式市場の動きなどを見ると気持ちがひるむかもしれない。しかし、厳しい環境でも、価値の創造にひるむことがない企業の評価はいずれ好転する。株式市場が不安定で下落している時期こそ、余裕を持って、未来へコツコツと仕込む長期投資の出番である。

良くてもゼロ収入しか期待できない債券や預貯金に自分のお金を停滞させることによって忍び寄ってくるリスクを軽減するには、持続的な価値創造という成長の可能性があるところへリスク分散すべきではなかろうか。現状の維持を求めるだけでは、夜明けはこない。

最近キラキラと光っている夜明けを舞台としているドラマが人気を呼んでいる。NHKの連続テレビ小説「あさが来た」だ。新しい日本社会を切り開く主役が民間の実業、そして女性であることが心強い。短いシーンであるが、「日本の資本主義の父」といわれる渋沢栄一も登場し、商い・銀行・信用・教育という本人の思想のエッセンスを上手に描いていた。

また、私が主宰している「論語と算盤」経営塾は今年5月から第8期を迎えるが、男女・年齢問わず、栄一の思想を参考に未来のことについて精鋭がお互いに切磋琢磨しあっている。現状維持に満足せず、よりよい明日という向上心は新しい時代のために不可欠な存在だ。

渋沢栄一の故郷である埼玉県深谷市の駅前で銅像とツーショット。足利銀行深谷支店の顧客向けセミナーで現地を訪れた

資本主義とは格差を生む社会問題ではないと私は考えている。未来を開くことに挑む人類の智恵であり、この資本主義の主役は決して政府ではなく、あくまでも民間だ。一人ひとりの未来志向と行動によって、持続的な成長が可能になる。

現状維持に満足し、政府任せだけのマインドセットでは世の中が良くなるわけがない。皮肉な面はあろうが、日銀のマイナス金利は、新しい時代への目覚めと成長を促す苦い薬といえるかもしれない。

渋沢健(しぶさわ・けん) コモンズ投信会長。1961年生まれ。83年米テキサス大工学部卒。87年カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)MBA経営大学院卒。JPモルガン、ゴールドマン・サックス証券、大手米系ヘッジファンドを経て、2001年に独立し、07年コモンズ株式会社(現コモンズ投信)を創業、08年会長就任。主な著書に『渋沢栄一 愛と勇気と資本主義』 (日経ビジネス人文庫、2014年)『運用のプロが教える草食系投資』(日本経済新聞出版社、2010年)『渋沢栄一 100の訓言』(日経ビジネス人文庫、2010年)『日本再起動』(東洋経済新報社、2011年)『渋沢栄一 100の金言』(日経ビジネス人文庫、2016年)など。

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