マイナス金利は成長への覚醒を促す苦い薬(渋沢健)コモンズ投信会長

2016/2/15

カリスマの直言

「預けていれば金利を取られるマイナス金利は『元本保証』の呪縛に長年とらわれている日本人には衝撃かもしれないが、世の中には真の元本保証など存在しないという現実に目覚めなければならない」

世界景気への不透明感からマーケットの動きが不安定になるなか、国内でちょっと気になる現象が起きている。ここ数カ月、日銀券(お札)の発行残高の増加ペースが上昇しているのだ。電子マネー、クレジットカードやネット決済が一般的になり、お札や硬貨を日常生活で使うことは以前と比べると減る傾向であるはずだが、なぜなのか。

およそ1年前の2015年1月の日銀券の発行残高は前年同月比3.5%増であったが、直近の2016年1月は6.2%増に上昇している。増加率は15年10月に6%に乗せた。同年12月は日銀の見込みの5.8%増に対して、実績は6.1%増と上振れした。

この発行残高の上昇は、日銀券の需要が増えていることを示す。どうして日銀券が求められるかといえば、例えば、金利が異常に低いために、国債や預金という形で資産を保有するのとキャッシュで持つのと大差ないからであろう。しかも国債にマイナス金利がつくような状況では、投資すると損をするだけである。

もしかすると今年から始まった「マイ・ナンバー」制度であろうか。この制度の導入に不信感を覚える人々が、金融機関に保有している預金や資産を引き落として、タンス預金として手元に置いている現象が日本社会で広まっているのかもしれない。

このように日銀券が経済社会で増えている状況の最中、日銀は「マイナス金利」政策の導入に踏み切った。実際にマイナス金利が適応されるのは銀行など金融機関が日本銀行に預けている当座預金の一部になるが、2月9日には10年物国債の利回りが0%を下回り、初めてマイナスをつけた。自分の預金までマイナス金利になるのではないかという連想が一般市民へ広がっても不思議ではない。

愛媛経済同友会の「10年ビジョンづくり」の委員会に招かれて、多様性を取り込む価値創造について持論を述べる機会を頂戴した

銀行に預金しながら金利を取られるのであれば、タンス預金の方が良かろうと思う人々が少なくないだろうが、火災・盗難などから生じるリスクを逆に高めているだけで、決して合理的な判断とはいえない。しかし、人々は合理的な判断ではなく、精神的な思惑で行動することが少なくない。日銀が2月に見込む日銀券の増加率6.2%と比べて実績が上振れするか注目したい。

もし、上振れするようであれば、日本国民は日本銀行が発信している懸命なメッセージに耳を傾けていないということになる。日銀のメッセージは明快だ。(1)円金利の債券の運用は控えろ(2)現金の保有を減らせ、という2点だ。

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