仕事を辞めたい…決断を下すその前に考えるべきこと
そもそも、子育てしながら仕事をするとやるべきことがあまりにも多く、どんなに頑張ろうと思っても完璧にはできないもの。「全部自分でやらなきゃ」という目標は、時間的に、体力的に達成するのは難しいのです。
まずは、子育てをしながら働くことのいい面について目を向けてみませんか。子どもがいることの誇り、頑張っているからこそ収入があること、収入があるからこそ、子どもに与えてあげられるチャンス…。そう考えると、少し元気が出てきませんか。
それでも自分がダメになりそうなときは、「過労」という理由で思い切って有休を取り、自宅で1日ゆっくり休みましょう。お金を出して子どもを1日預かってもらい、気分転換に出かけてリフレッシュするのもいいでしょう。
夫に比べて私だけ大変? ぶつかり合うことも必要
子どもを預けて働き始めると、保育園のお迎えや熱が出たときの呼び出しは、ママが対応することが増えます。家事の割合もママが多くなるので「夫に比べて、私は何倍も大変!」とイライラしてしまうこともあるでしょう。
でも、この傾向はどの家庭でもあるもの。家事や育児が夫婦でどれくらいの割合であれば納得がいくのか、具体的に考えてみましょう。極端ではありますが、例えば子育てと家事のすべてを夫がしてくれて、自分は仕事だけすることが幸せだと感じるでしょうか。もしそうでなければ、子育てと家事のどれくらいの割合を分担したらいいのか、具体的な内容に落とし込んで夫と話し合ってみてはいかがでしょうか。
ひざとひざを突き合わせて、ときには夫婦でぶつかることも大事なことです。忙しくてすれ違ってばかりでは改善しません。夫は「妻はいろいろあって大変そうだな…」と思っていても、妻の何がどのくらい大変で、自分がどのように手助けしたらいいのか、などということまでは考えが及ばないもの。
「相談したいことがあるんだけど…」と夫婦の話し合いの時間を設けましょう。子どもが寝静まった夜などに、お互いの顔を見ながら、話し合いましょう。今自分がどれだけ大変なのか、どこをどのように手伝ってほしいのかを伝えて、お互いが納得のいくスタイルを見つけていきましょう。
ただ、結論が出なくても、話し合っただけで(自分の思いを吐き出しただけで)スッキリしたという人も少なくありません。
辞めるのはいつでもできる 続ける方法を模索して
仕事を頑張りたくても、出産前のように時間が潤沢にあるわけではありません。仕事のやり方を変える必要があります。どうしても仕事がうまく進まないときは、何が難しいのかを考えて、職場のメンバーにサポートを求めましょう。思い切って職場や仕事内容を変えてもらうというのも一案です。
「もうスッパリ仕事を辞めてしまいたい」と思い詰めたときは、一旦立ち止まって冷静に考えてみることにしましょう。なぜなら、子どもがいる人が一度仕事を辞めてしまうと、再雇用などの必要性が騒がれているとはいえ、再び正社員として(前職と同じ条件で)希望の勤め先に就職することは、まだまだ現実には厳しい状況にあるからです。
辞めることはいつでもできます。生涯にわたって働かなくてもいい状況の人、子どもや自分自身の体調などで難しい人、子育ての価値観から続けていくのが精神的に難しい人、会社を辞めてやりたいことが明確にある人(転職先が決まっている人)は別ですが、そうでなければ、仕事を辞めずに続ける方法はないか、最後まで模索していきたいものです。
精神的に追い込まれるのは、充実させようと思う証拠
過去の自分を振り返ると、精神的に追い込まれた経験はありませんか。学生時代を思い出してみても、受験直前の勉強や部活の試合前などは、時間と自分の能力との戦いになったのではないでしょうか。
苦しく、辛い状況というのは、誰でも通る道。
逆に、子育てと仕事と家事を抱えていて、追い込まれないほうが珍しいといってもいいかもしれません。精神的に追い込まれてしまうのは「子育ても仕事も家事も充実させよう」と向上心があることの証拠ともいえます。
どれも充実させようと思うと時間が必要になり、その時間はどうしても限られてしまうため、うまく回らない気がします。その場合は、目標を数段階下げてみませんか。
仕事も育児も家事も高い目標を立てず、ある程度の目標がクリアできたら「よくやった!」と自分を褒めてあげる。この積み重ねで、少しずつ前に進めるかもしれません。
「質」を重視して、メリットとデメリットを考える
仕事をしながら子育てをすると、仕事を持っていないママに比べて、子どもと過ごす時間は確実に短くなります。でも、子どもとのコミュニケーションは、「時間」と「質」の両方で考えるようにしましょう。
短い親子の時間の中で、どうやってクオリティーを高くするか、また、子どもからの様々な信号をしっかり受け取ることができるか。子どもが小さいうちだけではなく、小学校に入ってからも、これらは、働くママにとって永遠のテーマになるでしょう。
保育園に行くと、子ども達は早い段階から集団生活に慣れます。小さいうちから集団生活を始めることで、社会性が身につくともいわれています。友達同士のけんかもあるかもしれませんが、子どもの成長にとっては貴重な経験になるでしょう。
また、園での集団生活により、自宅で母と1対1の時間では得られにくい、様々なことを身につけることができます。絵本や手遊びなどの幅も広がりますし、運動会やお遊戯会、クリスマス会などの発表の場もあります。
共働きはスタンダードの時代に
共働き世帯のほうがシングルインカム世帯より多くなり、「共働き家庭」がスタンダードになってきています。これからの時代は、「お母さん、仕事してるの?」ではなく、「お母さん、どんな仕事してるの?」という子どもが増えてくるのではないでしょうか。
右肩上がりに給与が上がった時代と違い、今は子どもを希望の大学に進学させたり、留学させたりしようと思えば、ダブルインカムのほうが経済的な余裕があります。今は「保育」でてんやわんやかもしれませんが、後に「教育」にもお金とパワーが必要な時期がきます。塾や予備校、習い事などに通わせるにしても、収入が増えればそれだけ選択の幅が広がるでしょう。
子どもは小さいながらに、子育てをしながら働く親の後ろ姿を見ています。今は大変でも、決して後ろめたい思いをする必要はありません。少しずつ、ゆっくりと、そして堂々と、自分に誇りを持って「ライフと仕事」の欲張りな人生を送ってくださいね。
(ライター 西山美紀)
人材育成コンサルタント。株式会社キャリアン代表取締役。公益財団法人日本生産性本部 ダイバーシティ推進センター所長。神奈川県教育委員。メーカー入社後、1989年にキャリアに関する事業を中心とした人材育成子会社を立ち上げ常務、社長、会長。早期よりキャリアアドバイスを普及した経験を生かし、2013年に一人ひとりの生涯キャリアを支援するキャリアンを設立。現在は、「管理職からのキャリアデザイン」「ダイバーシティ・マネジメント」「DEWKS(Double Employed with Kids)のキャリアデザイン」などのセミナーに加え、仕事と結婚・出産・育児・教育に悩むワーキングマザーはもちろん、男性管理職や両親(祖父母)からの相談も増えている。
[日経DUAL 2015年11月25日付の記事を再構成]
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