ツタンカーメンのひげ、修復でわかった新事実
ツタンカーメン王のひげの破損をめぐって、エジプト考古学博物館の職員8人が起訴された。
ツタンカーメン王の黄金のマスクのひげが折れたのは、2014年8月のこと。さらにエポキシ系接着剤を使ってこれを接着していたことが発覚し、2015年末に専門家が再度接着剤を取り除き、代わりに蜜ろうを使う方法で修復が行われた。
英BBCの報道によると、ひげが折れた時の状況については、「誤って折れてしまった」「もともと緩くなっていたのでわざと取った」など、博物館の修復管理者の間で証言が食い違っているという。地元の新聞は、黄金のマスクの運搬がずさんだったことがそもそもの原因であるという、政府調査団の調査結果を報じた。価値の高い遺産であるにもかかわらず、適切な取り扱いを怠ったとして、政府は博物館の修復作業員2人、修復専門家4人、元修復責任者、元博物館長を訴えている。
修復でわかった新たな事実
この修復に伴い、マスクの本格的な分析調査も初めて行われた。
ツタンカーメン王のひげ問題は、王の墓が発見された1922年にさかのぼる。修復後のマスク公開と同時に開かれた記者会見で、修復チームを指揮したドイツの専門家クリスチャン・エックマン氏は次のように述べた。「分析の結果、マスクは発見当時、すでにひげが取れた状態で、そのまま1946年まで修復されていなかったことがわかりました」。エックマン氏は、黄金のマスクの主な素材であるガラスや金属の保存の専門家で、これまでにもペピ1世の像2体やホルス神の黄金の頭部像など、エジプトの考古品を複数、修復・保存した経験がある。
修復はまず、パターン光投影法を用いた3Dスキャナーで全体をスキャンし、マスクの状態を記録。次に、ずさんに塗布された接着剤をはがしに取りかかった。その際は化学薬品を一切使用せず、マスクを温めながら、木の道具を使って接合部を1ミリずつはがしていった。この作業だけで4週間以上かかったという。
「作業中、二つの発見がありました。一つ目は、ひげの内部に管が入っていて、これであごに取り付けていたということ。二つ目は、1946年の修復の際に軟質はんだが使われていたということです」と、エジプト考古相のマムドゥフ・アル・ダマティ氏は語る。
修復チームは今回、古代エジプトで一般に使われていた蜜ろうを接着剤として使用した。蜜ろうは自然素材なので、マスクの金属を傷める危険が少ないからだ。
注目を集めるエジプト王
マスクにはひげがついているが、実際のツタンカーメン王が同じ形のひげをたくわえていたわけではない。古代エジプトでは、偽物のひげは、冥界の神オシリスとエジプト王が同一であることを示す重要なシンボルと考えられていた。当時、ひげを生やすことは社会的に地位が低いことを意味していたが、ツタンカーメン王のように、先端が上を向いた偽物のひげを付けることは、神性を表していたのだ。
修復中、博物館ではマスクの3Dホログラムが展示されていたが、2015年12月17日から本物のマスクの展示が再開され、それから1カ月間は、博物館の全展示物とともに写真撮影も許可された。
ツタンカーメン王は、最近新たな注目を浴びている。2015年夏に、ナショナル ジオグラフィック協会の助成を受けたニコラス・リーブス氏が、王の墓の奥にさらに空間があり、そこに王妃ネフェルティティの墓が眠っているのではないかと考え、スキャン調査を行ったのだ。その結果、確かに壁の向こうに二つの部屋が隠されていることを突き止めた。調査は引き続き進められている。
(文 National Geographic編集部、Khaled El Samman、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2016年1月28日付]
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