イラストも文字もまったく意味不明、ボイニッチ手稿

日経ナショナル ジオグラフィック社

ナショナルジオグラフィック日本版

古代から中世を経て21世紀の現在まで、世界各地で発生した人類史上の99の“未解決ミステリー事件”を、時間と空間を超えて訪ね歩き、その真相に迫る。今回は「ボイニッチ手稿」と呼ばれる古文書について。
米エール大学の蔵書数は1100万冊超で、大学図書館としては米ハーバード大学に次いで世界第2位と言われる。蔵書の約半数は、ゴシック建築様式の巨大なスターリング記念図書館に収められている

米エール大学の図書館には、世界で最も興味深い書物の一つが収蔵されている。「ボイニッチ手稿」と呼ばれるこの古文書は20世紀の初めに、稀少本を扱う古書商によって発見された。その名称はその古書商の名にちなむ。

文書には、いまだに未解読の暗号のような文字が記され、不可解な秘密めいた多数の挿絵が描かれている。でたらめな空想の産物だとする説もあれば、何か偉大な知恵が隠されているかもしれないと期待する声もある。

手稿の大きさはA5サイズより少し小さく、厚さ5センチメートルほど。ベラムという上質な羊皮紙で作られ、240ページにわたって未知の言語と思われる手書きの文字でぎっしりと埋め尽くされている。大半のページには、文章の間にたくさんの奇妙な絵や図形が描かれている。放射性炭素年代測定によると、文書は1400~1440年の間に作られたと見られる。内容は、挿絵の特徴から推測して、生物学、占星術、薬学、薬草、処方の五つの分野に区分することができる。

芳しい成果がまったく得られないことから、現在では、そもそも暗号などではないと言い切る者もある。誰かを引っ掛けようとした悪ふざけの類いだというのだ。しかし、偽造品にしてはやけに出来映えが良い。いったいなぜ、わざわざ手間と費用をかけて、21世紀の現在に至るまで専門家たちの頭を悩ませ続ける精巧な偽造品を作ったのだろうか。

薬草学などの章ではないかと見られるボイニッチ手稿の一部。解読できない文章と同様、描かれている植物(らしきもの)も、実在するものではないと言われている

数人の著名な言語学者は、統計学的な分析手法を使って、手稿の記号が既知の言語に似たパターンをもつことを発見している。記号が表しているのはまったく新しい言語なのかもしれないという。

こうして真実への探求は今後も続いていくだろうし、それがまた、ボイニッチ手稿の魅力ともなっている。少なくとも、手稿の作者(たち)が、謎を解くカギを墓場まで持っていってしまったことは間違いない。

(日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック『絶対に明かされない世界の未解決ファイル99』を再構成]

絶対に明かされない世界の未解決ファイル99

著者:ダニエル・スミス
出版:日経ナショナルジオグラフィック社
価格:2,376円(税込み)

ナショジオメルマガ