就活の証明写真 「修整」どこまでなら許される?

就職活動で使う証明写真の「修整」はどこまでなら許されるのか。街中に「美肌」「男前」「小顔」などとうたった写真撮影ボックスがあふれ、スマートフォン(スマホ)で目や鼻、あごの輪郭などを手軽にいじれるアプリが次々に出てきた。採用担当者に少しでも良い印象を与えたいが、修整しすぎて別人のような写真になっては元も子もない。就活生が訪れる撮影現場をのぞいてみた。

学生たちの胸の内は……
東京外国語大学3年生、女性
メーク付きの撮影に1万円弱支払った出来栄えに不満。今度はメークを自分でやり、もっと安く上手に撮ってくれるところを探す
明治大学3年生、男性
写真撮影ボックスで900円の修整機能付き証明写真を撮った。ひげのそり残しが消されて満足
慶応大学3年生、女性
修整した写真をSNSなどに使っている。就活用は写真のプロに修整をまかせた
立命館大3年生、男性
修整なしの証明写真を貼ってエントリーシートを数社に送ったが、書類選考は全部通った
関西学院大学3年生、女性
残った2人のうち1人しか採れない場合、写真の印象が良い方を企業は選ぶと思う
神戸女学院大4年生、女性
写真スタジオで撮って希望の会社から内定。同じ店でマイナンバーの申請に使う写真も撮った

「就活に『サギシャ』は使えないから」。家電量販店内の写真撮影ボックスに就活用の証明写真を撮りに来た都内在住の女子大生(21)はこう話す。「サギシャ」とは「詐欺写真」の略で、別人のような写りのいい写真や極度に修整した写真を指すという。

幼い頃からプリントシール、通称「プリクラ」を楽しみ育った世代で、サギシャには「抵抗がない」。交流サイト(SNS)のアイコン画像にはサギシャを使う。だが就活用となると話は別だ。「どこまで修整して大丈夫なのか、境界線が分からない。大手企業がやってるボックスなら大丈夫かなと思って来た」

利用することにしたのは大日本印刷系のDNPフォトイメージングジャパン(東京・中野)の新機種「キレイ」だ。通常の証明写真(800円)や「男前プラス」(900円)などのコースの中から最も高額の「これが、キレイ最上級! エクセレントモード」(千円)を選んだ。肌の色調は5段階で2番目に明るいベージュ、背景色は淡い空色に設定した。

しめて4分強。出来上がった8枚を見るなり、驚いた。「プロにメークしてもらったみたい。肌がきめ細かい」。大日本印刷に聞くと「実際の目鼻や顔の輪郭などの修整はしていない。吹き出物やシミ、ひげそりあとなどを目立たなくする程度」(イメージングコミュニケーション事業部の高野浩本部長)との答えが返ってきた。ボックス内には「照明を写真スタジオ並みの5灯配置している」。撮影時の工夫には余念がない。

履歴書などに貼る証明写真を修整した場合、法的なリスクはあるのか。アディーレ法律事務所(東京都豊島区)の篠田恵里香弁護士によると、「履歴書に事実と異なる情報を載せると経歴詐称となり、入社後に解雇の理由になる可能性がある。だが肌の色調を整えるぐらいなら経歴詐称にはならないでしょう」。考えられるリスクは「写真で受ける印象が、面接で会った本人の容貌と著しく違った場合、違和感を与え、不適切と判断され得ることだ」という。

志望職種に合わせて助言しながら撮影するコースが人気だ(大阪市北区の写真スタジオ「セルフィット」)

JR大阪駅から徒歩5分ほどにある写真スタジオ「セルフィット」には午前11時を過ぎると、リクルートスーツ姿の学生が次々に入ってきた。撮影を終えた近畿大学経済学部3年生の池田大海さん(21)は「写真写りが悪いので、採用担当者に好印象を持ってもらえる写真を撮ってほしくて来た」と話す。

メーカー志望の池田さんが選んだのは、職種に合わせて髪形や眉などを整えて撮影に入る1万円の男性向けコースだ。「就活写真のプロが程よく修整をしてくれるから安心」とほほ笑む。

セルフィットはどこまで修整をしているのか。谷本千尋専務は「修整はシミや目の下のくまなどを目立たなくし、肌の色調を整える程度にとどめている。就活の写真の目的はあくまで採用してもらうことなので」と強調する。

過剰に修整したがる学生には「面接で会った時に写真と実物が違い過ぎて不信感や嫌悪感を抱かれては意味がない」と助言している。志望の職種などに応じた撮影が口コミで広がり、京都や名古屋のスタジオと合わせて多い時は1日300人近くの就活生が訪れる人気店になった。

では採用する企業側は証明写真をどう見ているのか。例えば、アサヒビールの採用担当者は「あくまで面接で当社が求める人物像と照らし合わせて合否を判断している。写真で合否を決定することはない」と話す。むしろ写真の添付を忘れたり、指定したサイズと違う写真だったりした場合、「決められことを決められた通りできない人なのかと推測してしまう」という。

積水ハウスの採用担当者は「好感度や清潔感をチェックしているが、エントリーシートの記載内容などを総合的に見て判断する」と話す。中途採用が中心の自動車情報サイトを運営するオートックワン(東京都港区)は「証明写真でその人らしさは分からないので、ウェブデザイナーらの面接には普段の仕事着で来てもらっている」(大石津田子副社長)という。

アナウンサーや客室乗務員など全身写真を求める職種はある。だが面接があり、総合的に適性を判断する。学生と企業の双方に就活関連で助言を続けるHRコンサルティング(大阪市)の田中克典代表は「美しさよりも自分らしさが伝わる写真を撮った方が有意義な就活ができるのでは」と指摘している。(編集委員 阿部奈美)

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