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管理職は外部から 熱帯びる女性のヘッドハンティング

2016/2/5

女性幹部社員のヘッドハンティング熱が高まっている。大手企業が中小企業や外資系から女性管理職を引き抜くケースも増えている。役員クラスから中間管理職まで、その層は幅広い。「2020年までに指導的地位に占める女性の割合を30%に」という「202030」の目標に向けて、各社女性幹部登用に力を入れるものの、社内で人材が育っていない。そこでヘッドハンティングで女性幹部層を補強しようというのだ。しかしヘッドハンティングには、女性ならではの難しさもある。女性幹部ヘッドハンティングの裏側を探る。

「うちの会社は面白いですよ。よかったら来ませんか」

ロック・フィールドと共同開発した新商品を手にする鎌田由美子さん

2013年末、年の瀬も迫り凍てつく寒さのある日、大宮駅近くのホテルの喫茶店で、カルビーの松本晃会長はヘッドハンティングの話を切り出した。目の前に座っていたのは、JR東日本で駅ナカを立ち上げたことで知られる鎌田由美子さん。駅ナカ事業を成功に導いた後、同社の研究所副所長に就いていた。

先立つこと3年ほど前、鎌田さんはカルビーのダイバーシティ推進セミナーに招かれて講演をしていた。エネルギーあふれる鎌田さんの語り口に触れ「元気でいいな」と思った松本会長。何より「誰も考えなかった施設を生み出して、駅を活性化したのはすごいこと。何かしでかした人は偉い」と、かねてから鎌田さんを高く買っていた。

実はヘッドハンターの間で、鎌田さんは「役員候補として紹介したい女性」として知られていた。ヘッドハンティングの話を受けたのは、一度や二度ではない。ところが「JRという会社で公共性のある仕事をすることを意気に感じていたから、心が動かなかった」という。そんな鎌田さんを、松本会長の言葉が揺り動かした。

「駅ナカのようなものをカルビーで作って欲しいというつもりはない。ゼロから何かを生み出す考え方、やり方を、カルビーで生かして欲しい。カルビーの将来の核になる新しい事業を作り出して欲しい」

この言葉が決め手となった。「尊敬する経営者から、生み出す力を認めてもらえたのが嬉しかった」という。カルビーにはスナック菓子、朝食向きのシリアル「フルグラ」に続く、第三の柱が必要だという。それが何かはまだ分からない。「何か」を考えるところから、新事業を手がけて欲しいという壮大な申し出だった。

松本会長は「新商品のアイデアは社内から生み出すことができるが、新ビジネスはこれまで新しいことを手がけてきた人でないと上手くいかない」と考え社外に人材を求めていた。まさに適任だったのが、鎌田さんだという。

提示された役職は「上級執行役員」。前職のJR東日本時代、39歳の若さでJR東日本ステーションリテイリングの社長となり経営者の目線を身に着けた鎌田さんは、「ボードメンバーに入ることにも興味があった」という。社長時代は、家族も含めて従業員の幸せを考えながら、ビジネスをいかに成長させるかを必死に考えてきた。そうした経営の厳しさ、面白さを知っていたからだ。

■中小企業、外資系からの引き抜きが増えている

カルビーはいま、遅くとも2020年までに管理職比率を30%に引き上げると宣言して、女性活躍を力強く進めている。現在、生え抜きも含めて5人の女性執行役員が誕生している。その中で上級執行役員をみると、鎌田さんを迎えるまで女性はゼロという状況だった。鎌田さんを上級執行役員という役職で迎えたのは、目標の達成が念頭にあったからか。

「(駅ナカ成功という実績を考えると)仮に鎌田さんが男性であっても引き抜いていたかもしれない」と、松本会長。しかし「女性幹部を増やしたいという方向性に合致していたことは事実だ」と率直に語る。

「ゴールは社員から役員まで男女半々」というカルビーの松本会長(撮影;大高和康)

社外から女性役員、特に社外取締役を招きたいという動きは強まっている。安倍首相が、2013年春に「すべての上場企業に女性役員を最低ひとり」と発言して以来、女性役員ゼロの企業に注がれる目が厳しくなっているのだ。

女性登用の動きはヘッドハンティングの分野にも及び、役員にとどまらず課長クラスにまで広がる。ここ数年、「大手企業が、中小企業や外資の女性管理職を引き抜く事例が増えている」と、リクルートエグゼクティブエージェントのコンサルタント、渡部洋子さんは言う。女性社員の育成で遅れをとっている大手製造業などが、中小企業で既に活躍している女性マネジャーを課長や部長職で迎えて、女性管理職比率を高めようというのだ。引き抜きにあたり「できれば女性を」というケースが増えているという。

中には、社員100人に満たない外資系企業の人事部マネジャーを、従業員1万人超の大手製造業がグローバル人事を担う課長として迎えた例もある。また30歳前後まで派遣社員として働いた女性が、離婚を機に小規模な外資系企業に就職してマネジャーとなった後、東証一部上場の大手食品メーカーに課長として迎えられたというシンデレラストーリーもある。

現時点では、女性管理職を求めるポストは、広報、人事、ダイバーシティ推進、IR、経理など間接部門が大半を占める。営業や生産、開発部門などでは、女性を引き抜こうにも人材が育っていないのが現状だ。それでも、大手自動車会社が、同じ業界の中堅企業から間接部門以外で女性管理職を引き抜く事例も出てきている。

■中堅から一部上場へ、年収はほぼ倍増

非上場の中堅企業に勤めていたA子さんもまた、50代にして「長年憧れていた大手企業」から誘いを受けた。思いもかけないヘッドハンティングにより、社員6000人を超える東証一部上場の消費財メーカーへの転職を果たした。

10年ほど前、ヒット商品の開発者としてメディアに紹介された折、何社かのヘッドハンティング会社から連絡があり履歴書を託していた。しかし条件が折り合わず、転職話は立ち消えになっていた。その後、50代を迎えて勤務先の業績悪化もあり早期退職を考えていたある日、以前コンタクトをとったヘッドハンティング会社から一本の電話が入る。「同じ業界の大手企業が、40代の女性管理職を探している。一度面接をしないか」というのだ。

A子さんは年齢制限を超えているものの実績はある。「なるべく若作りをして面接に臨みましょう」というヘッドハンターの助言を受けて、エステを受けてつやつやの顔で役員面談に臨んだ。仕事面でのアピールもぬかりはない。長年の経験をもとに、「御社の商品企画で抜けている視点はここです」と企画書を用意してプレゼンテーション。経営トップとの面談は話が弾み、年収ほぼ倍増で転職が決まった。女性登用の波のなか、中堅企業で埋もれていた女性の人材が発掘され、年齢制限を突破してステップアップを果たしたのだ。

女性のヘッドハンティングのすそ野はさらに広がっている。「係長を引き抜いて、大手企業の課長とするケースも出てきている」と、ヘッドハンティング会社ジーニアスのディレクター山口由美子さんは言う。係長クラスといえば、本来ならヘッドハンティングの対象ではなく、転職マッチングサイトの案件だ。しかし大手企業、とりわけ東証一部上場企業の間で「中小企業からでもいいから、課長候補の女性が欲しい」というニーズが高まり、ヘッドハンティング会社に幅広い視点で候補者を探して欲しいと依頼するのだ。

大手企業が女性を本格的に採用し始めたのは、2000年前後からである。その頃採用した女性社員が残っていれば、ようやく30代半ばに差し掛かっている。それでもまだ課長予備軍の層は薄い。そこで、中小企業で鍛えられた女性課長およびその予備軍で補おうとするのだ。

■数字合わせでは上手くいかない

高まる女性のヘッドハンティング熱。しかし落下傘のように降りてきた幹部社員が、必ずしも受け入れ企業で歓迎されるとは限らない。女性ならではの難しさが加わることもある。

「(女性に)うちに来てもらっても重厚長大だからねえ。そもそも女性の意識が変わらないのが一番の問題だから」。打ち合わせの席で、あるヘッドハンターは人事担当の男性役員からこう言われて絶句した。「女性管理職を採りたいといいながら、心のうちでは嫌だと思っているのです」

現場で抵抗に遭うこともある。転職してきた女性管理職のことを快く思わない男性管理職が仕事を手離さず、引き抜かれたものの短期間で辞めてしまった例もある。「お姫さま扱い」されてなかなか仕事を任せてもらえず苦慮した人もいれば、「上げ底の転職組」というレッテルを貼られて辛い思いをした人もいる。

中小企業や外資の自由な風土のなか活躍してきた女性管理職の良さを生かしきれないこともある。「大手は年次にこだわる上に、自由闊達な議論をする風土がなく女性の発言を認めない傾向がある」と、ジーニアスの山口さんは指摘する。

リクルートエグゼクティブエージェントの渡部さんによると、「明確なポジションニーズがあることが、成功の決め手」だという。IR、グローバル人事など、明確に組織で「欠けていて困っている分野」があり、そこを埋められる人材がたまたま女性だったというのなら、周りも納得できる。冒頭のカルビーの鎌田さんの例でいうなら、「ゼロから新規事業を立ち上げて成功させた人」を求めるといったものだ。

さらに男女問わず、ヘッドハンティングにおいては「ひとりで力を発揮するのは無理。後ろ楯が欠かせない」と山口さんは言う。「この人にサポートされていると周りに分からせることも必要だ」という。とりわけ女性幹部の引き抜きでは「お手並み拝見」となりかねない。後ろ楯となる人が、本人を守りつつ一緒に戦う環境をつくる企業もある。

単に女性管理職を増やすためにヘッドハンティングをしても、上手くいかないのは当然だろう。社内の登用のみならず、女性のヘッドハンティングでもまた、表層的な数合わせではなく、「わが社がなぜ女性活躍推進に取り組むのか」という本質的な問いかけが求められている。

(淑徳大学教授、ジャーナリスト、野村浩子)

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