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ライフコラム
ヒット総研の視点

「恋愛離れ」でバレンタインが様変わり日経BPヒット総合研究所 佐藤珠希

2016/2/4

ヒット総研の視点

日経BPヒット総合研究所

エンターテインメント、トレンド、健康・美容、消費、女性と働き方をテーマに、ヒット案内人が世相を切るコラム「ヒットのひみつ」。今回のテーマは、「恋愛離れで変わるバレンタイン」です。女性から男性へチョコレートを贈り、愛を告白する日だった日本のバレンタインが、「女性自身がチョコレートを楽しむイベント」へと変わりつつあります。バレンタイン商戦を通じて見えてきた、女性とチョコとの甘い関係に迫ります。

今年もやって来たバレンタインシーズン。百貨店では1月下旬からバレンタインチョコの特設コーナーがオープンし、仕事帰りの女性らでにぎわっている。毎年おなじみの光景だが、今年のバレンタイン商戦を取材すると、「女性から男性にチョコレートを贈る」という従来型のバレンタインに地殻変動が起きていることに気づく。それは、自分へのご褒美を含めた「女性による、女性のためのバレンタイン」へのシフトだ。

市場をけん引するのは、女性たちの「自分消費」

「彼には愛を、チョコは私に。」をキャッチフレーズに、ご褒美チョコ需要を掘り起こそうとするのは大丸松坂屋百貨店を展開するJ・フロントリテイリング。「昨年の動きをみると、1粒300円を超える高級チョコの売れ行きが伸びた。これは働く女性を中心とした自分へのご褒美需要とみている」(同社広報)

銀座三越のバレンタイン特設会場には70ブランドのチョコレートが並ぶ。今年のテーマは「ガールズトーク」。チョコを楽しむ3人の女性がカタログの表紙を飾る(東京都中央区)

三越伊勢丹ホールディングスも、チョコレート好きな女性たちの「自分消費ニーズ」への対応に力を入れる。「大事な人やお世話になっている人への感謝を込めて贈る従来のバレンタインチョコに加え、その時期にしか買えないチョコを自分でも楽しみたいという女性が増えている」(広報)ことを重視。カカオ豆の産地にこだわったものや、パッケージや見た目がおしゃれな個性的な商品を取りそろえ、多様化する自分消費ニーズに応える。

バレンタインチョコ売り場に体験型の要素を加えて、女性が集い、楽しむイベントとして盛り上げようとするのは新宿高島屋だ。幅広い世代の女性に人気の漫画『ガラスの仮面』(美内すずえ作)とコラボして「紫のバラチョコレート」などオリジナル商品を販売。さらに期間限定の「ガラスの仮面カフェ」を併設するなど、売り場を訪れた人しか楽しめない仕掛けを用意している。

「バレンタインはこの数年で、女性が自分のために、あるいは女性同士で楽しむイベントへと変化している」と同店広報。ご褒美需要の広がりとともに、販売単価も上昇傾向にあるといい、「自分へのご褒美チョコは、価格にこだわらず本当にいいものを買いたいという女性は多い」と話す。

一般社団法人日本記念日協会によると、今年のバレンタインの市場規模予測は、前年比7%増の1340億円。「売り上げが伸びているのは自分へのご褒美チョコ。女性には、自分に自信をつけるために高級チョコを買う動きもある」と同協会代表理事の加瀬清志さん。「SNSで自慢できる、きれいで素材や作り手に物語があるチョコレートも人気」と話す。

■女性同士でチョコを贈り合う「友チョコ」も

自分へのご褒美チョコと併せて20代女性を中心に増えているのが、女性の友人や同僚とチョコを贈り合う「友チョコ」だ。江崎グリコが実施した「バレンタイン事情2016」調査によると、15年のバレンタインに「女性の同僚からチョコレートをもらった」と答えた20代の女性は19.2%。「女性の友達からもらった」女性も15.4%いた。一方で、今年告白したい相手に贈る予定と答えたのは7.7%にとどまった。

なぜ、「女性同士」なのか。『恋愛しない若者たち』の著書があるマーケティングライターの牛窪恵さんは、「告白チョコは、相手に拒絶されるリスクがあるため、敬遠する女性が増えている」と指摘。恋人に贈る場合も「高価なものを厳選しても彼はその価値を分かってくれないケースが多く、お返しの質もあまり期待できないと考えやすい」と話す。

これに対しチョコ好きな女性同士なら、「『これ珍しいんだよね!』と価値を分かってくれたり、同じぐらいの価値のある気の利いたお返しをくれたりという期待が持てる」(牛窪さん)。リスクやコストパフォーマンスを考慮した結果、男性に贈るよりも、自分自身や友達にチョコを贈り、バレンタインを楽しむ女性が増えたと分析する。

若者の恋愛離れがバレンタイン市場を変える?

恋愛離れがバレンタインのあり方に変化をもたらしている、と指摘するのは博報堂ブランドデザイン若者研究所の原田曜平さん。「SNSの普及で人間関係が複雑になり、特定の人と恋愛関係を築くのが難しい状況は今後も続く」と指摘。「恋愛より友達が大事、みんなで楽しみたいという今の20代が盛り上がるには、男女の垣根を越えた友達同士のイベントとしてバレンタインを位置づけるなど、新しい仕掛けが必要」と指摘する。

日本経済新聞が2015年9月に働く女性を対象に行ったウェブ調査では、正社員として働くシングル女性で恋人がいるのは34.5%。恋人がいない女性のうち35.9%が、「恋人がほしいと思わない」と答えた。「仕事から帰ったあとは、自分の時間を大事にしたい」(29歳・金融・営業)、「男性といて気を使うより、女友達と過ごしたほうがラク」(36歳・小売り・販売)。仕事で忙しい日常にあって恋愛から距離を置く女性が増える一方、頑張る自分を励ますアイテムを求める傾向も強まっている。

働く女性の増加や、女性活躍推進への流れが、「女子による、女子のためのバレンタイン」へのシフトを促している面もありそうだ。

佐藤珠希(さとう・たまき)
 日経BPヒット総合研究所上席研究員、日経BP社ビズライフ局長補佐。日経WOMAN前編集長。毎日新聞社、ベネッセコーポレーションを経て、2004年日経BP社入社。『日経WOMAN』『日経EW』『日経マネー』各編集部を経て、2009年『日経WOMAN』副編集長、2012年同編集長。2015年1月から現職。
[参考]日経BPヒット総合研究所(http://hitsouken.nikkeibp.co.jp)では、雑誌『日経トレンディ』『日経ウーマン』『日経ヘルス』、オンラインメディア『日経トレンディネット』『日経ウーマンオンライン』を持つ日経BP社が、生活情報関連分野の取材執筆活動から得た知見をもとに、企業や自治体の事業活動をサポート。コンサルティングや受託調査、セミナーの開催、ウェブや紙媒体の発行などを手掛けている。
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