輝くデキ女、俺が支える 幹部登用へ「スポンサー」奔走

2016/1/30

「スポンサーシップ・プログラム」は女性の幹部登用を進めるため、組織に影響力を持つ役員クラスが昇進実現を働きかける。マンツーマンで女性を引き上げるスポンサーを務めることで、男性役員にはどんな気づきがあるのか。その効果を探った。

営業成績を表彰されるアクサ生命保険の原田恭子さん(中央)とスポンサーを務める高橋良和上級執行役員(右)(12日、東京都港区)

アクサ生命保険で商工会議所を通じた営業部門を統括する上級執行役員、高橋良和さん(56)は昨年、多摩支社長の原田恭子さん(50)のスポンサーを務めた。高橋さんが原田さんの実力に注目したのは、4年ほど前だ。4人の子育てをしながら千葉営業所長として活躍する原田さんに、飛躍の可能性を感じた。

同社は2013年に幹部候補の女性の昇進をラインの役員が支援するスポンサーシップ・プログラムを導入した。高橋さんは当時の役員らと相談し、原田さんを対象者に選んだ。「いずれ支社長として活躍してほしい」との期待を伝えた。

強み生かせる環境整備

最も力を注いだのは、「(原田さんが)仕事しやすい環境をつくること」。マネジメントに関しては「全部自分でやると部下は育たない。任せることを大事に」と助言を重ねた。

15年1月、原田さんは多摩支社長に昇進した。高橋さんが主要取引先に原田さんの実績を広く伝えていたことで、「仕事しやすい環境を整えてもらった」と原田さんは振り返る。

就任1年目、原田さん率いる多摩支社は全国1位の営業成績で社長賞をとった。高橋さんは「部下の成長を促した結果。原田を見て、『自分も挑戦したい』という女性がどんどん出てくると思う」と話す。

「スポンサー」を務めた野村ホールディングスの木村賢治常務(右)と指導を受けた小川幸子さん(東京都中央区)

野村証券は次長相当職のエグゼクティブ・ディレクター(ED)の女性を引き上げるための「女性EDスポンサーシップ・プログラム」を10年から導入する。人事担当役員の木村賢治さん(54)は15年5月から半年間、野村ホールディングスで内部監査を担当するED、小川幸子さんのスポンサーを務めた。

最初の面談で印象的だったのは「優秀なのに、もう一歩上を目指そうという意識があまりなかったこと」と木村さん。小川さんは中途入社で、「マネジメントにかかわることを期待されていると思わなかった」。

視野広げる仕事与える

小川さんの意識が変わったのは、月1回の面談を通じて、「期待しているから頑張ってほしい」と木村さんに背中を押され続けたからだ。「どこか他人事だった会社の課題も自分事になった」(小川さん)

プログラム受講の成果発表で、小川さんは意識の変化やこの先のキャリアプランについて述べた。「さらに自分を高めていきたいという意欲や決意が見えた」と木村さんは目を細める。「会社として女性の活躍を望んでいるというメッセージを継続的に出すことが大事だと思う」

アクセンチュアは女性のマネジング・ディレクター(MD、部長相当職)を増やすため09年からスポンサーシップ・プログラムを始めた。MD候補の女性に対し当該部署の役員がスポンサーにつく。金融サービス本部で統括本部長を務める執行役員、中野将志さん(44)は複数の部下のスポンサーを務めてきた。

スポンサーとして力を注ぐのが、「その人の持っている強みを、いかに組織に広めるか」だ。手がけるプロジェクトがうまく回っていることを、本人がいない場で周囲に伝える。評価の場で強みや実績を訴えかける。「客観的な評価を発信することで、メンバーもその人の実力を実感できる。この好循環を築くことが重要」と話す。

スポンサーの経験を通じて、社員のために時間を使うことの大切さを知った。「社員にいかにチャンスを与え、働きやすい環境を整えるかが、顧客に提供する価値を高める重要な要因になる」。新たな気づきを得た。

メンターより高いスキル必要

スポンサーシップは欧米企業で主に役員クラスに女性を増やすため、活用されている。日本でも外資系を中心に、女性リーダー育成を加速するため導入する企業が出てきた。

スポンサーの役割は対象者が強みを発揮できる環境を整え、昇進につながるような仕事を与え、その実績を組織に広めること。仕事やキャリア開発の相談に乗るだけの「メンター」とは違い、対象者の昇進をゴールに、組織に積極的に働きかけるのが特徴だ。女性の登用でスポンサーシップの必要性に注目が集まる背景には、「昇進につながる大きな仕事のチャンスが、女性に回ってきづらい現状がある」とリクルートワークス研究所(東京・千代田)の石原直子さんは指摘する。

一方で、部下のリーダー資質を見抜く力や強みを伸ばす育成力、実績を効果的に訴えかける技術など、スポンサーに必要なスキルはハードルが高い。適切なスポンサーシップの実践には、組織が求めるリーダー像を明確にすることや、成功事例の共有などを通じたスキル向上への取り組みが欠かせない。

専門家「過渡期に有用な仕組み」

「両立支援制度が整っていれば女性にハンディはないという考え方が変わり、風土や働き方を改革する必要性を実感した」「目指すキャリアが見えずにいる女性には、視野や人脈が広がる仕事を与えることが重要と気づいた」。スポンサーを経験した男性役員は発見があったと口をそろえる。「スポンサーに就くと女性活躍推進に真剣に取り組むようになるのがメリット」と法政大学の坂爪洋美教授。役員クラスが女性の育成・登用スキルを高めると「組織は一気に変わる可能性がある」と話す。

日本経済新聞が昨年上場企業の女性役員を対象に行った調査では、約7割が役員になれた一番の要因に「引き立てたり機会を与えたりする上司の存在」を挙げた。「役員・部長クラスの登用では、候補者は男性ばかりになりがち。男女が同じレベルで候補にあがるようになるまでの過渡期は、女性の登用を後押しする仕組みは有用」と坂爪教授は話している。

(女性面副編集長 佐藤珠希)