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ライフコラム
法廷ものがたり

切られたコンサル契約、相続対策深入りの末に…

2016/2/3

法廷ものがたり

裁判記録をとじた厚いファイルを開き、埋もれた事案に目を向けてみれば、当事者たちの人生や複雑な現代社会の断片が浮かび上がってくる。裁判担当記者の心のアンテナに触れた無名の物語を伝える。

若手経営コンサルタントが地方の老舗企業のオーナー社長に気に入られ、新製品やブランドの戦略立案を頼まれた。ところが当初の契約の趣旨を離れ、社長の家族問題への対処や相続対策に深入り。社長の機嫌を損ねて契約を切られた後、それまでのコンサル料と共に多額の資金の返還を求めて訴えられることになった。

大手証券会社で経験を積んだ後、経営コンサルタントとして独立した30代の男性は、結婚報告のために訪れた妻の故郷で義父の知人である60代のオーナー社長に出会った。社長は世界経済の動向やIT(情報技術)の活用法などに関心が高く、雑談の中で男性に信頼を寄せ、とんとん拍子にコンサル契約が決まった。

契約の主な内容は、新製品のマーケティング戦略と海外展開を視野に入れたブランド戦略の立案。契約料は月額31万円だった。男性はブランドを紹介する冊子案などを作り、社長と打ち合わせを重ねたが、会社が繁忙期に入ったこともあり、話はいつの間にか立ち消えになった。限定品のパッケージのデザイン案にも社長は首を縦に振らなかった。

企業の「戦略立案」から、社長の「家族問題フォロー」に

代わって相談を持ちかけられたのは社長の家族のことだった。上京した長男が大学に通わず遊び歩いているようだ。実家を出た長女は男と同居しているらしい。長男の日常生活の監督や長女の交際相手の調査を頼まれた男性は、長男を自分の会社のアルバイトとして雇って仕事をひねり出し、SNS(交流サイト)で調べた長女の交際相手のプロフィルを社長に報告した。

社長は妻と別居中で、別の女性との間に幼い子供が2人いた。長女は留学から帰ってきて初めてもう一つの「家族」の存在を知り、インターネット上のブログで社長を批判する書き込みを繰り返していた。男性は長女のブログへの対応も求められ、書き込みの削除を管理者に要請した。

社長の信頼は高まり、相談や仕事の電話は際限なく増えていった。「これではコンサルではなく便利屋だ」と不満を覚えた男性は社長と交渉。月額210万円で1年分の2520万円を一括で受け取る新たな契約を結んだ。

しかし、その後社長と男性の関係は急速に悪化する。男性の裁判での説明によると、他の仕事や体調不良で電話に即座に対応できなかったことが社長の不興を買い、ある日突然、解約通知が送られてきたという。

社長は男性を相手に訴訟を起こし、「高額な報酬に対して成果物が一切ない」として、これまでに支払ったコンサル料全額に当たる約3200万円の返還を要求。「プロの仕事に程遠く、コンサル能力がないのにだまされた」とこき下ろした。

男性が返還を求められたのはコンサル料だけではなかった。まだ社長の信頼が厚かったころ、社長と男性はコンサル契約とは別に、不可解な資金移動の契約も結んでいた。

社長は男性に7500万円を貸し付け、男性は利息を含めて毎年1600万円を社長に返済する。ただ、社長が男性に毎年1600万円を支払う業務委託契約も交わされ、委託料と貸付金は相殺される仕組みだった。あらかじめ5年後の日付で、利息を含めた8000万円の返済が完了したとする証明書も作られていた。

さらに、社長の内妻を男性の秘書ということにして年間600万円を支払う契約、まだ幼い2人の子供が19歳になったら月額20万円でアルバイトとして雇う契約も交わされていた。

社長は自分が死ねば2つの家族間で相続紛争が起きることを懸念していた。公正証書遺言も作ったが、籍を入れていない内妻と子供2人により確実に財産を残す方法を考えていた。

不可解な資金移動、6500万円の返還請求も

男性は受け取った7500万円を外貨で運用。社長に「お預かり資産のご報告」とする書面を送り、為替リスクを分散していると説明した。このうち1000万円は両者の関係が破綻する前に社長の求めに応じて返していたが、残りはそのままになっていた。

社長は訴訟で残る6500万円についても返還を請求し、「籍を入れていない家族に将来渡してくれることを前提に預けた」と強調した。これに対し男性は「内妻や子を将来雇うという条件付きで私を支援するため、贈与を受けた。税金対策で形式上、委託料と相殺する形を取っただけ」と反論した。

地裁の判決はコンサル料について「成果物はいずれも未完成だが、男性が様々な受託業務の処理に当たってきたのは明らか」とし、社長の訴えを退けた。他方、6500万円については男性が作成した「お預かり資産のご報告」の文書を重視。「男性が社長のために預かって運用していたが、自分の会社が経営不振になったため途中で横領したものだ」と認定し、男性に返金を命じた。

双方とも判決を不服として控訴。高裁で争いが続くことになった。

男性は一審の法廷で証言した際、6500万円の大半をすでに投資の失敗や生活費で使い切ってしまったことを明かし、「経営者としての能力は低いのかな」と認めた。ただ、コンサルタントとしては「時間当たり1万5千円、大体月300万円チャージするぐらいプロフェッショナルの水準でプレーしてきました」と胸を張った。

(社会部 山田薫)

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