N
エンタメ!
旭山動物園、坂東元の伝える命

冬の一押し! 寒さを満喫する北海道の動物たち

2016/1/29

旭山動物園、坂東元の伝える命

日本最北の旭山動物園 マイナス20度になることもある(撮影・桜井省司、提供:株式会社LEGiON)
日本最北の旭山動物園 マイナス20度になることもある(撮影・桜井省司、提供:株式会社LEGiON)
さて冬本番ですね。相変わらず乱暴な雪の降り方、気温の変化が続いていますが……数センチ雪が積もっただけで大騒ぎになっている東京の映像を見ていると、日本は何というか環境の多様性という面でとても広いんだなと感じます。東京以南の人が北海道を異国のように感じるのも分かる気がします。

かつて冬は閉園していた

北海道はどんな大雪が降ろうがへこたれませんが、ほっておいても春になれば消えてなくなる雪に莫大な費用と労力を消費するのはどこかむなしく、しかも本州と同じ快適さや安全安心を追求する消費の仕方はどこかで歯止めが必要なのかもしれませんね。

もっとも震災以降は復興需要の影響などでトラックなどの大型重機がかり出されたため北海道でも大雪が降ると除排雪が全く追いつかずに都市機能がまひしがちですが。

僕が動物園に就職した30年前、旭山動物園は冬季閉鎖していました。10月の第3日曜日を最後に4月28日までなんと一年の半分閉園していました。当時は冬はスキー、スケート以外の屋外集客施設は成立しない、が常識でした。

冬の期間閉園しているものだから動物はどこかに引っ越して越冬させていると思われていて市民から「職員も大変だね。冬場は失業保険もらってるの? 出稼ぎに行ってるの?」とまじめな顔で声をかけられたものです。

日本最北の動物園が冬季閉鎖していること、最大の財産を負にとらえる常識。働いている僕たちの目の前には冬を満喫する動物たちがいました。今ではペンギンの散歩をはじめ冬を生き生きと過ごす動物たちを観にたくさんの方が訪れるようになりました。

冬の主役の動物紹介の前に一言。日本は四季があります。私たちの暮らしにも動物たちの暮らしにも四季それぞれの暮らし方があります。私たちは四季に左右されない、暮らす地域に左右されない、どこで暮らしていても同じような便利さ快適さを目指していますが動物たちは大昔からその土地環境の中で暮らし続けています。

日本最北の旭山動物園 マイナス20度になることもある(撮影・桜井省司、提供:株式会社LEGiON)

ニホンザルを年間2万頭処分

妊娠期間の長いニホンジカやニホンザルは秋の実りの季節に繁殖期を迎えます。厳しい冬を乗り越え緑が一斉に芽生えるころ出産をします。秋の実りが豊かな時は雌の発情、受胎率は高く、冬の厳しさの程度で出産率(母胎の栄養状態がよくないと妊娠初期に流産します)が変わります。

出産をむかえた春以降の豊かさの程度で子の成長率も変わります。冬を生き抜く生存率も変わります。それぞれがそこで暮らす環境の一部として見事な調和とバランスを保ってきました。今、ニホンザルやシカなどの野生動物と人との軋轢(あつれき)が増えています。

彼らの暮らす環境が破壊、分断されていることも原因のひとつですが、彼らの出産率、生存率が高くなっていることが大きな原因です。日本の自然の中にはなかった栄養価の高い食べ物を効率よく食べられるようになったからです。

ニホンザルが畑に出るのを防ごうと中途半端な餌付けをしたり、それを観光資源にしたりしてきました。自然の中で暮らすニホンザルは2年に1度の出産が多いのですが、人里のニホンザルは毎年出産するようになりました。

増えたニホンザルはその結果頻繁に畑や市街地に出没するようになりました。ニホンジカは牧草地をはじめ、耕作放棄地、道路脇の芝、荒れた里山などで増え続ける草地がシカにとっての豊かさにつながり、受胎率、出産率、成長率をすべて高めてきました。

加えて暖冬傾向が拍車をかけています。牧草や人工林の被害ならば自業自得ですが、不自然に増えすぎたサルやシカによる自然林の破壊や生態系への影響が急激に顕在化してきました。

人側の対策は「有害駆除」です。2014年、ニホンザルは約2万頭も駆除されています。急カーブを描いて右肩上がりです。北海道のエゾシカは狩猟も含めて目標数14万頭でした。ヒトは恐ろしい生き物です……。

増えすぎ害獣となってしまったエゾシカ(撮影・桜井省司、提供:株式会社LEGiON)

脱線が過ぎました。僕の冬の一押しはあえて言うならばシンリンオオカミとエゾシカ、オオワシ、シマフクロウ、エゾリス、ゴマフアザラシ――。

なんと北海道の動物たちばかり。シンリンオオカミは一昔前までいたエゾオオカミの印象と重なります。エゾシカはニホンジカの亜種です。花札にもなる日本を象徴する動物だと思います。

春、雄ジカの角が落ち雌は出産、夏、雑木林の揺れる木漏れ日の中で見事な保護色になる鹿の子模様の夏毛、秋、立派に成長した雄の角と山に響き渡る繁殖期のラッティングコール、冬、真っ白な雪に覆われた大地と落葉した林のモノトーンの景色に見事に溶け込む茶灰色の冬毛。

トナカイの感動的な足音

そういえば、グローバルな視点からトナカイ。極地に生息する大型草食動物。鼻鏡(鼻の頭。イヌやウシの鼻の先の黒い部分で、一般的には鼻鏡には毛が生えていません)にもびっしりと毛が生えています。

角や前足で雪を掘り地衣類などの植物を食べるため凍てつく地面につく鼻鏡にも毛が生えています。もう一つ、カチカチと音が鳴る足。雪の上を歩くと特に目立って聞こえます。蹄(ひづめ)がぶつかる音ではなくて、私たちが指を鳴らすのと同じような原理(まだ機序は解明されていない、当園では死体で球節や指関節を急激に曲げても鳴らなかった)といわれています。

極地では冬の数ヵ月は極端に太陽の昇る時間が短くなります。カチカチと音が鳴るのは暗闇で群れからはぐれないためだといわれています。土の上でなく雪の上だとはっきりと聞こえます。感動的です。

アミメキリンのペアは厳冬期も元気に放飼場に出ている(撮影・桜井省司、提供:株式会社LEGiON)

最後に、観光客の来園者からよく聞かれる言葉。「キリンやカバやライオンなど暑い所に住んでいるんでしょ、寒くてかわいそう!」。アフリカは暑い所と言いますが、雨期や干ばつ、一日の気温差は30度近くになることもあります。そのことで命を落とす動物は数知れません。

そもそも食物連鎖は非情で厳しいものです。幸せとかかわいそうの基準の持ちかたなのかと。僕は飼育下の動物は食べることと安全と健康管理上快適な住環境が保証されている点で、食っちゃ寝だけの平坦(たん)な時間の流れの中に置かれると思います。

生き生きと飼育するために、プラスのストレスや環境の変化をどうつけてやるかが大切なことだと考えています。キリンやカバ、ダチョウなど当然裸足(はだし)ですが、旭川の厳冬期の屋外でも霜焼けになることはありません。

キリンは体重の割に表面積が広いので冷えによりおなかをこわす(下痢)が一番怖いのですが、経験上、厳冬期でも日中の3時間程度は屋外で運動させることが健康を保つのに適していると考えています。キリンは明らかに好んで新雪を食べます。昔いたゾウは鼻で雪玉をつくりお客さんと雪合戦をしていました。

それに比べてヒトも同じですがサルの仲間は要注意です。四肢などの末端の細胞の必要代謝温度が高いため、低温が続くと霜焼けや、ひどい場合は凍傷になってしまいます。特に尻尾の長いサル類は、尻尾の先が霜焼けになりむずがゆくなるとかじってしまい、症状が悪化し尻尾が短くなってしまいます。また来園者から風邪やインフルエンザがうつると大変です。

坂東元(ばんどう・げん)1961年旭川市生まれ。酪農学園大学卒業、獣医の資格を得て86年から旭山動物園に勤務。獣医師、飼育展示係として働く。動物の生態を生き生きと見せる「行動展示」のアイデアを次々に実現し、旭山動物園を国内屈指の人気動物園に育てあげた。2009年から旭山動物園長(撮影・桜井省司、提供:株式会社LEGiON)

ヒトも熱帯原産です。旭川で真冬に夏と同じように子供を外遊びさせる親はいません。だからといって冬は一日中家の中で過ごさせることもよくないことです。数時間外遊びをして暖を取りまた外遊びです。動物の生理や習性を知り飼育すれば、むしろ北海道のように変化のある環境の方が動物たちの暮らしを豊かにしている一面があると思っています。

人工雪ではない天然雪の中の動物たちにぜひ会いに来てみてください。

エンタメ!連載記事一覧