地下に眠るロンドン、建設ラッシュで相次ぎ出土

日経ナショナル ジオグラフィック社

2016/1/31
ナショナルジオグラフィック日本版

ヨーロッパでも最古の都の一つである英国ロンドンには、2000年にわたり絶え間なく多くの人々が行き交い、暮らしてきた。そして時代が変わるたび、考古学的に貴重な遺物が地下に積み重なってきた。現代のロンドンはそうした歴史の上に発展している。

人口800万を超えるこの大都会で地中の遺物を調査することはきわめて困難だが、ここ最近の建設ラッシュによって、またとないチャンスが訪れている。

古代ローマ時代の街並みが出現

数年前、ロンドンが誕生して間もない頃の物語が一つ明らかになった。コードウェイナーという由緒ある地区に、経済・金融情報の配信会社ブルームバーグが、欧州本部の社屋を建てることになった。1.2ヘクタールの建設予定地を深さ12メートルまで掘削したところ、ローマ時代の貴重な遺跡が見つかったのだ。

それはロンドンが、「ロンディニウム」と呼ばれていた頃の古代ローマ時代の街並みだった。保存状態は驚くほど良好で、木造の商店や住宅、塀、庭など、紀元60年代前半の街がほぼ完璧な形で出てきたのだ。発掘調査が進むにつれ、硬貨やお守り、鋳物の皿、陶製のランプ、革のブーツやサンダル250点、陶磁器900箱以上など、1万4000点を超える出土品が見つかった。

「ロンドンの1カ所から、これほど多くの出土品が見つかった例はほかにありません」と話すのは、ロンドン考古学博物館による発掘調査を指揮した考古学者セイディ・ワトソンだ。「こうした出土品から、古代ローマ時代のロンドンの日常生活が浮かび上がってきます」

出土品のなかには、現代のメモ帳やノートのような役割の書字板が400枚近く含まれ、手紙や契約書、財務関係の内容が読み取れるものもあった。保存状態がこれほど良かったのは、かつてテムズ川に注いでいたウオールブルック川という小川のおかげだった。川岸の沼地や、水分を多く含んだ土に埋まった品々は、朽ちることなく元の姿のまま残されたのだ。

「英国のじめじめした風土のおかげです」とワトソンは笑う。「テムズ川とその支流が、遺物を保存するのに最適な環境をつくり出したのです。革や木、金属など、ほかの土地では腐ったり、さびたりしてしまうものが、ここでは当時とほとんど変わらない状態で出てきます」

ペストの猛威の謎

ロンドンの考古学に最大の成果をもたらしているのは、総工費約2兆8000億円の「クロスレール」建設計画だ。ロンドンの東西を結ぶ新しい地下鉄路線で、建設プロジェクトとしても、また考古学の発掘調査としても欧州最大級の規模だ。2009年に工事が始まって以来、全長42キロのトンネルと40カ所以上の建設現場から、数多くの出土品や、古くは7万年前にまでさかのぼる化石が続々と発掘された。

2015年春、大勢の乗降客でにぎわうリバプール・ストリート駅の目の前で、大々的な発掘調査が始まった。クロスレールの切符売り場を新設する予定の地下には、ロンドン初の公営墓地であるベドラム墓地がある。工事を進めるため、墓地に埋葬されていた3300体以上の遺骨が発掘されたのだ。

その多くは、1665年に発生したペストの大流行の犠牲者とみられている。この大流行で、ロンドンの人口45万人のうち7万5000~10万人が死亡した。

これほど多くの死者を出した強力な病原菌は、どのように進化したのか。それを探るため、遺骨の分析調査も行われる予定だ。「なぜだかわかりませんが、1665年を最後に、ロンドンではペストの大流行は起きていません」と考古学者のジェイ・カーバーは語る。「それまでは頻繁に流行していたのに、ぱたりとやんだのです。一体何が変化したのか? その答えが見つかるのではないかと期待しています」

(文=ロフ・スミス、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2016年2月号の記事を再構成]

[参考] ナショナル ジオグラフィック2月号では、今回ご紹介した特集「地下に眠るロンドン」ほか、作家ピート・ハミルが変貌する街への思いを語る「New ニューヨーク」(特製マップ付き)、目の進化/ベールを脱ぐサウジの女性/化石と絶景 カナダの国立公園/の特集5本を掲載しています。

ナショナルジオグラフィック日本版 2016年 2 月号 [雑誌]

編集:日経ナショナルジオグラフィック
出版:日経BPマーケティング
価格:1,070円(税込み)

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