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宝塚歌劇団宙組公演「Shakespeare」 清廉でチャーミングな「劇聖」の夫婦愛

2016/1/28

宝塚歌劇団宙(そら)組の朝夏(あさか)まなとにトップスターらしい風格が備わってきた。同劇団宙組公演「Shakespeare~空に満つるは、尽きせぬ言の葉~」(作・演出は生田大和)は、英国の劇作家ウィリアム・シェイクスピアの没後400年を記念した新作ミュージカル。プレッシャーがかかる本拠地、宝塚大劇場(兵庫県宝塚市)の新年の幕開け公演を、朝夏はいい意味での緊張感を保ちつつ、清廉でチャーミングという人物像のシェイクスピアを堂々とゆとりを持って務めている。

「マクベス」などの四大悲劇を残して「劇聖」とたたえられるシェイクスピアの半生を描く。もっとも、そこは宝塚歌劇。彼の名作「ロミオとジュリエット」が18歳の時、故郷の英国ストラットフォード・アポン・エイヴォンで出会った妻アン・ハサウェイとのロマンスを下敷きに生み出されたと設定。その設定に基づき、宝塚らしいシェイクスピアとアンの夫婦愛の物語に仕立てている。

ロンドンの劇場で「ロミオとジュリエット」が初演される場面から始まる。シェイクスピア夫妻が銀橋(オーケストラピットを越えて客席側に張り出した通路状の舞台)の上で踊る様が、舞台中央で繰り広げられる劇中劇と重なる演出が凝っている。主題を強く打ち出すとともに視覚的にも楽しい。そして6年前、2人が出会う場面に遡る。朝夏は主題歌「言葉が生まれた日」を聴かせ、最大の理解者アンの存在があってこそ、この劇聖が創作に必要なひらめきを得られたことを印象づける。

朝夏は風貌でも役作りに知恵を絞ったのだろう。一つが「荒々しいポニーテール」とでもいうべき長髪を後ろで束ねた髪形。名作を次々にものする劇作家の意志の強さを、宝塚歌劇らしい美しさで表したいと考えたという。アンを演じるトップ娘役の実咲凜音(みさき・りおん)は夫の才能を信じて支え続ける妻の心情をきれいな歌声で表出させた。

物語に起伏をもたらすため、シェイクスピアの才能を見いだし、宮内大臣一座の劇作家として迎え入れるロンドンの貴族ジョージ・ケアリーを造形したのが効果をあげている。ケアリーは政敵を打ち破るために民衆の心をつかむ手段として、シェイクスピアに「ハムレット」「マクベス」など政治色の強い芝居を書かせ、ついには女王エリザベス1世の逆鱗(げきりん)に触れる。

劇中劇として「ハムレット」など7作品のハイライトシーンが披露され、舞台に彩りを添えている。当時の演劇は全ての登場人物を男性が演じるしきたりだった。それにのっとって、劇中劇の女性は娘役ではなく男役が演じる趣向を取り入れている。宝塚ならではの面白い試みであるだけに、「ロミオとジュリエット」と大団円の「冬物語」以外は一部に限られるのが惜しい。全体の上演時間との兼ね合いだと思うが、観客からすると「もう少し見たい」というのが正直なところだろう。

ケアリー役の真風涼帆(まかぜ・すずほ)は落ち着いた演技で朝夏を頼もしく支える。エリザベス1世役の美穂圭子は女王の威厳たっぷりに存在感を示し、宮内大臣一座の看板役者リチャード・バーベッジ役の沙央(さおう)くらまは役の心根を押さえた演技で舞台を引き締めた。

作・演出の生田は宝塚大劇場の上演作品を手掛けるのは2作品目だが、演劇が心底好きなのだろう。セリフにちりばめた「芝居の中だったら何だってやれる」「好きなんでしょ、演劇」などの言葉はまさに演劇賛歌といえる。劇中劇「冬物語」で八方丸く収まる締め方は夫婦愛とともに演劇賛歌をテーマにしていると思えた。

休憩を挟んでの第2部のショー「HOT EYES!!」は33年ぶりに、宝塚歌劇の名物大階段(26段)を全場に用いた演出が見どころ。稽古場に大階段の1段の踏み幅(23センチ)に相当する線を引いて稽古を重ねたと聞く。その甲斐(かい)あってスピーディーでエネルギッシュな舞台を繰り広げている。

宝塚歌劇では公演中に1回、入団7年目以下の生徒(劇団員)だけで全役を演じる「新人公演」が行われる。今回はシェイクスピアを瑠風輝(るかぜ・ひかる)、アンを遥羽(はるは)ららが演じた。2人は2012年入団の同期。共に声が奇麗でよく伸びる。声質が合っていることもあって、情感のこもったデュエットで水準の高さを印象づけた。エリザベス1世を演じた09年入団の彩花(あやか)まりも、この役を任されたのがうなずける歌声だった。

宙組は夏に、人気作品「エリザベート」の上演を予定する。美しい旋律の楽曲を連ねる構成で、出演者全員の歌唱力が問われる。新人公演で若手が存分に力を発揮したことで宙組の層の厚さを示し、「エリザベート」への期待が膨らむ。

(編集委員 小橋弘之)

本公演の所見は1月12日、新人公演は1月19日。2月1日まで宝塚大劇場、2月19日~3月27日に東京・千代田の東京宝塚劇場で上演。東京の新人公演は3月3日。

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