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ハーバードの学びは問題の本質を感じ取る力だ! Campus for H社長 米倉章夫氏(下)

2016/4/4

 社会人の健康づくりを支援するベンチャーを立ち上げた米倉章夫氏。ハーバードビジネススクールで学んだことがビジネスの背骨を作っているという。キャリアストーリーの後半では、最新のリーダーシッププログラムでつくられたビジネスマインドを語る。

■HBSではまた、世界中から集まった優秀なビジネスパーソンたちとの競争から、多くの刺激を受けた。

 ちょうど私たちの年から、リーダーシップを学ぶため、ケーススタディー以外の新しい授業のスタイルが導入されました。

 その授業の一環で、生徒全員が5人ずつのグループに分かれ、非先進国の企業を相手にコンサルティングのプロジェクトを進めるという授業がありました。スカイプを使って会議を重ね、最後に、現地に1週間滞在してプロジェクトをまとめるという課題が与えられます。私は、ポーランドの携帯電話会社がヘルスケアの事業を立ち上げるプロジェクトに参加しました。

 初めての土地、限られた時間という非常にストレスのかかる状況で、各自がリーダーシップを発揮してプロジェクトをまとめなければなりません。私のグループでも、我の強い人ばかりなので、しょっちゅう意見が衝突していましたが、優秀な彼らの本気の姿が見られる機会は、普段の授業ではあまりありません。そういう意味では、この授業はものすごく貴重な体験で、たくさんの刺激を受けました。

 よく、ビジネススクールでは考え方や問題解決のためのフレームワークを学ぶという言い方をする人がいますが、私自身は、HBSでフレームワークを叩きこまれたという印象はありません。むしろ、日々のケーススタディーから得たものは、問題の本質を感じ取る嗅覚のようなものだったと思います。毎日毎日2年もの間、ありとあらゆるテーマのケーススタディーを90人のクラスメートたちと本気でディスカッションし続けた結果、ある状況に対して自分がその瞬間に直感的に感じていることが、どのくらい問題の本質に近いのかが肌感覚としてわかるようになってきた気がしました。問題の本質に常にたどり着けているとは全く思いませんが、たどり着けていない時に感じる嫌なムズムズ感は、現在の会社経営における意思決定の場面でもとても大切にしています。

■卒業後、帰国してCampus for Hを立ち上げた。

 本当は、米国で就職することが決まっていました。インターンで働いたニューヨークの広告代理店から内定をもらい、卒業後は、途上国の公衆衛生問題をマーケティングの手法で解決するプロジェクトにかかわる予定でした。アパートも借りて、ビザの発行手続きも進んでいました。

 ところが、キャンサースキャンの創業仲間から、現役世代相手に健康づくりをやるビジネスを新たに立ち上げるから、一緒にやろうと連絡を受けました。キャンサースキャンの事業は現役引退世代の健康づくりがテーマでしたが、現役のホワイトカラーの健康づくりにかかわる事業を、別会社を作ってやろうという計画です。説明を聞いて面白そうだったので、一転、帰国を決めました。帰国後、私が代表取締役社長CEOとして立ち上げたのが、現在のCampus for Hです。

 キャンサースキャンとCampus for Hは、前者が後者に投資しているという関係で、役員も重なっています。私の活動はCampus for Hが主ですが、今後は、両社の事業の連携を強化していこうと考えています。

 Campus for Hの現在の主な事業は、社会人の健康作りを推進するためのコンテンツの制作です。例えば、米企業で広く利用されており、日本でも人気が出始めている「マインドフルネス」と呼ばれるストレス軽減のための瞑想習慣があります。そのマインドフルネスを実践するためのアプリを開発し、11月に発売しました。ダイエット事業者やスポーツジムを対象にした体重管理のコンテンツも作っています。

 さらに現在開発中なのが、栄養学と料理教室を一緒にしたようなコンテンツ。要は、社員に料理をすることを通じて栄養について学んでもらい、自身の健康管理や健康増進に役立ててもらう目的ですが、米国では、グーグルなどの企業で導入済みです。

 ベンチャー企業にとってアイデアは常に大切です。しかし、アイデアだけで先行者利益を享受できることは絶対にありません。そのアイデアを自分や他人のリソースを使ってどうビジネスとして確立させるかのほうが、よほど重要だし難しい。そのことは、HBSで様々なケースを通じ学んだことですし、Campus for Hを立ち上げる際にも、最も気を付けた点の一つです。

■「社会にインパクトを与える企業」を目指す。

 実は、HBSに行って一番よかったと思うのは、自分なりの「成功」の定義を見つけられたことです。何が成功かわからないと、成功に向かって進むことができないからです。

 印象に残っている授業の一つに、卒業生たちの数十年後の人生を描いたケースがありました。いずれも経済的には大成功しているのに、家庭を顧みなかった結果、離婚して孤独だとか、出世のためにライバルを蹴落としていったら、友人がいなくなっただとか、精神的に不幸のどん底にいる人ばかり。彼らのライフストーリーを見て、自分にとって成功とは何か、自分が本当にやりたいことは何かといったことを自問自答し、自分なりの成功の定義を見つけることが、この授業の狙いでした。

 これは、HBSの学生が、自分自身とじっくり向き合う時間を持つことなく、世の中がイメージする成功が自分にとっての成功だと信じたまま卒業した結果、多くの卒業生が不幸になってしまったという、HBS自身の反省の表れでもあります。

 どの教授も、最後の授業で必ず生徒にメッセージを送ります。メッセージの中身はそれぞれですが、言わんとすることは、同じでした。それは、こういうことです。「君たちは自分がやりたいと思ったことをやりなさい。誰かが定義した成功に引き寄せられるのはわかる。君たちにそれを成し遂げる力があるのもわかっている。でも、そうじゃない。自分が本当にやりたいことを見つけ、それに向かって歩き続けなさい。それが、一番幸せな人生だ」

 今の私にとっての成功とは、「自分の自由と責任を楽しめている状態」です。そこに向かって、これからも進んでいきたいと思っています。

 会社としては、成長を続け、いずれは海外に進出するのが当たり前だと思っていますが、それ以上に、会社としていかに社会にインパクトを与えられるかが重要だと考えています。そのためには、強力なチームが必要です。そしてそのためには、私自身のリーダーシップが問われると覚悟しています。

インタビュー/構成 猪瀬 聖(フリージャーナリスト)

[日経Bizアカデミー2016年1月25日付]

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