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MBAはこう使う!

集中力と緊張感のハーバードという“コロシアム” Campus for H社長 米倉章夫氏(上)

2016/4/4

 生活習慣病のまん延や過度のストレスなど、働く人の健康が大きな社会問題となっている。社員の健康は今や経営問題にも直結するだけに、企業の関心も高い。そうした中、ビジネスの手法を活用して働く人たちの健康づくりに取り組むのが、ベンチャー企業のCampus for Hだ。ハーバードビジネススクール(HBS)出身の米倉章夫社長(33)は、「社会にインパクトを与えたい」と意気込んでいる。

■東京大学経済学部を卒業し、プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン(P&G)に就職した。

 高校時代、米国のカンザス州の高校に交換留学しました。地方都市でしたが、当時はドットコムバブル前夜で、IT関連企業が続々と進出。人が増え、住宅やショッピングモールが次々と建ち、街中、活気にあふれ返っていました。

 日本のバブル景気は、まだ小学校低学年の時だったので、実体験としての記憶がありません。米国で好景気というものを初めて見て、景気が良いというのはすごいことだなと思いました。経済に関心を持ったのは、この留学時の体験が大きかったと思います。

 大学ではマーケティングを専攻。就職も、マーケティングの仕事がしたかったので、P&Gの面接を受けました。P&Gはマーケティングのパイオニアです。ゼミでもよくP&Gの事例を勉強したので、マーケティングの仕事をするならP&Gと決めていました。

 P&Gには4年半いましたが、非常に勉強になりました。特に学んだのは、組織力の重要性です。製品開発から、投資、製造、営業にいたるまで、優れたリーダーシップの元、強い組織がないと、いくらアイデアがあってもライバルには勝てない。逆に組織力が互角なら、その先はアイデア勝負となる。それを身を持って学びました。

 ただ、同時に、このまま消費財のマーケティングの仕事を続けることに疑問もわいてきました。マーケティングのゲームは面白いが、同じような商品を各社が競って売ったところで、社会全体にはあまり意味がないのではないか。マーケティングの手法を使ってもっと社会的に意義のあることをしたい。そんなことを考えるようになりました。

 HBSへの留学を具体的に考え始めたのも、そのころです。明確な目的があったわけではなく、純粋な好奇心からでした。トップスクールでいったい何が行われているのか、何を体験することができるのか、ということにすごく興味がありました。

■そうした折、HBS帰りの先輩から一緒にベンチャーをやらないかと誘われた。

 今後についていろいろと考えていたころ、P&Gを辞めてHBSに留学していた先輩が帰国し、一緒にベンチャーをやろうと誘われました。ちょうどよいタイミングだと思い、P&Gを辞めて、ベンチャーの立ち上げに加わりました。それが現在のCampus for Hの母体となるキャンサースキャンです。

 設立当初の主な事業は、マーケティングの手法を使ってがん検診の受診率を上げること。具体的には、自治体相手にコンサルティングしたり、がん検診の受診率向上事業を受託したり、厚生労働省と一緒にプロジェクトを推進したりし、受診率の向上を目指しました。設立メンバーは、その先輩と、ハーバード大学公衆衛生大学院を修了した予防医学の専門家、そして私の3人。マーケティングから営業から、何でもやりました。

 転職と同時に、MBA留学の準備も始めました。しかし、キャンサースキャンを立ち上げた最初の100日ぐらいは、1日の休みもなく、両立は大変でした。しかも最近のTOEFLは日本人の苦手なスピーキングが加わったことで、日本人はより得点しにくくなり、結果的にHBSの足切りラインを超えることがさらに難しくなった。実際、英語が合格ラインに達せず、HBSをあきらめる人もとても多い。でも、周りにHBSに行くと公言していた手前、引くに引けませんでした。

 何とか無事、合格し、キャンサースキャンに籍を置いたまま留学することにしました。そのころは社員も10人ぐらいに増えていたので、私が抜けても何とかなる状況でした。留学費用も会社に出してもらいました。ただ、卒業後に会社に戻るかどうかは、私の中ではまったくの白紙状態でした。戻らない場合はお金を返せばいい。そう思っていました。

■HBSの授業の大変さは、先輩からさんざん聞かされ、心構えはできていた。だが、実際に経験した大変さは、予想以上だった。

 授業は毎日3クラス。前日までに全てのケースを読んで、臨まなければなりません。しかも、成績の半分は授業中の発言で決まるので、ケースを十分理解した上で、どのタイミングで何を話すか、入念な準備が必要です。このため、1つの授業の準備に2時間以上かかりました。3クラスあるので、全部準備すると6時間以上になります。

 ただ、6時間という勉強時間は、それまでにも経験がありますし、やってやれない時間ではありません。本当に大変なのは、毎日、3つの授業に出ることです。授業は1秒の遅刻も許されません。開始と同時に扉がパタッと閉まり、コロシアム状の教室でまさにこれから戦いが始まるという雰囲気です。

 授業では、発言するにも、90人のクラスなので、常に手を上げていないと指してもらえない。しかも、何を発言してもいいわけではなく、議論の流れに合った内容でなくてはなりません。話す内容を事前に考えて授業に臨んでも、他の人に先に言われてしまうこともあります。こうした緊張感と集中力を90分間、維持するのは並大抵ではありません。しかも、これが1日3回、月曜から金曜まで毎日あるのです。

 私の場合、多少とも幸いだったのは、P&G時代に、英語での議論を訓練されていたことです。P&Gは外国人社員が多く、会議も書類も全て英語。英語での発言は、最初の一文で、いかに簡潔にインパクトを与えられるかが勝負ですが、仕事でその訓練を受けていたことは、HBSの授業でも助けになったと思います。

インタビュー/構成 猪瀬 聖(フリージャーナリスト)

[日経Bizアカデミー2016年1月18日付]

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