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 アライグマ、ハクビシンといった野生動物が大都会で目立ち始めた。山から下りてきたのか、もともとすんでいて増えたのか定かではないが、我々の暮らしに迷惑をかけるのなら困ると、自治体・住民は対策に動いている。あなたの家にもひょっとすると……。

駆除被害に保険/河川敷追放策も

「この柱にある傷と足跡はアライグマの仕業。定点観測して、柱を登り屋根裏にすみつかないか、チェックしなければ」

1月14日午前、京都市内の上賀茂神社で、関西野生生物研究所(京都市)代表の川道美枝子さん(68)は境内の重要文化財の柱を見ながら、こう話した。2日後、大きなオス1匹を捕まえた。

ハクビシンも都会の民家の屋根裏に住みつく例も増えている(日本鳥獣被害対策協会提供)

ハクビシンも都会の民家の屋根裏に住みつく例も増えている(日本鳥獣被害対策協会提供)

名古屋市内の民家の屋根裏に住み着いたアライグマ(日本鳥獣被害対策協会提供)

名古屋市内の民家の屋根裏に住み着いたアライグマ(日本鳥獣被害対策協会提供)

同研究所は市内に出没する野生動物の生態を研究しようと2002年に川道さんが設立した民間団体だ。メンバーは現在11人。市内の有名寺社がアライグマによる引っかき傷や、ハクビシンのフンで汚されているのに驚き、駆除による適正な管理が必要と思い至った。

10年から市の業務委託でアライグマの駆除を始めた。上賀茂神社などにワナを設置したり、建物のひわだぶきの屋根で傷が集中する所にトタン板を敷いたりするよう助言した。

「アライグマは外来種で、増えると生態系への影響が大きい」と川道さんは警告する。研究所がまとめた市内での捕獲は15年が59匹と、14年に比べ16%減。ここ数年はなんとか減少か横ばいで推移している。

◇           ◇

京都だけではない。「首都圏、名古屋、関西、福岡といった都会ではアライグマ、ハクビシン、タヌキ、アナグマがいるのは当たり前」。全国の鳥獣駆除業者35社が13年9月に設けた日本鳥獣被害対策協会(東京・大田)会長の服部雄二さんは言う。都会にはクマなどの大形動物がいない。特に東京は緑が多く、アライグマなどは暮らしやすいという。

協会には首都圏の住民から「(マンション2階の)ベランダに、ハクビシンが現れた」「空き家となった実家に久しぶりに入ったら、アライグマの親子がいた」「屋根裏から異臭がする。ゴソゴソと音もする」といった通報が相次ぐ。

サルやイノシシも現れる。東京海上日動火災保険は都会でも駆除業者の出番が今後増えるとみて、ハンターが誤射した場合に備える保険を16年から本格販売する。

東京都心のタヌキなどを観察する東京タヌキ探検隊!(東京・杉並)隊長で会社員の宮本拓海さん(48)は「都市住民は駆除業者任せにせず、家屋や敷地内への侵入防止を考えてほしい」と提言する。

具体的には(1)敷地内に果樹がある場合は実を早めに収穫する(2)床下や軒下の穴、通風口をふさぐ(3)個人が勝手に駆除できないので、侵入を確認したら、まずは最寄りの自治体に連絡する――などだ。

同探検隊には15年、東京23区の目撃情報としてタヌキが87件、ハクビシンが224件あった。ただ宮本さんは「庭のスズメは駆除しない。タヌキなど在来種の場合、実害がなければとりたてて対策を講じる必要はないのでは」と話す。要は見かけただけなら無視することだという。

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「共存より、すみ分け。イタチを捕まえても無用な殺生はしません」。大阪市の鳥獣対策担当者は苦笑いする。大阪市内で市や保健所に寄せられる苦情は圧倒的にイタチが多い。14年度の捕獲数は125匹と、アライグマの2匹を大きく引き離す。一般に都会ではアライグマの被害が深刻といわれるだけに、担当者は首をかしげる。

市はワナで捕まえたイタチを市内の淀川の河川敷に逃がすという独自策を講じる。河川敷は鳥獣保護区だ。「イタチは在来種で人間に迷惑をかけなければ生態系のバランスを崩さない。保護区で暮らして、人間の世界には来ないでほしい」そうだ。

「いたちごっこ」にならないように自宅や倉庫を点検し、イタチが侵入しそうな、少なくとも3センチ四方の穴があったら金網などでふさごうと市民に呼びかける。

地域によって野生動物との付き合い方は様々だ。個人が被害を受けないよう自衛するのは当然だが、地域全体で考えなければならないのはごみの管理だという。

「集合住宅のごみ捨て場でネットをかいくぐってエサをつつくカラスがいれば、その後ろにはネズミがいる。さらに、ネズミがいればハクビシンが待ち構えている」(日本鳥獣被害対策協会の服部さん)。多くの鳥獣対策関係者によると、最大の自衛策は人間界の公共空間にあふれる食べ物の管理なのだ。

(保田井建)

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