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デビッド・ボウイ 変化し続けたロックの軌跡

2016/1/23

英国のロックアーティスト、デビッド・ボウイさんが1月10日に69歳で亡くなった。レコード店の特設売り場では一時、28枚のスタジオアルバムをはじめCDが軒並み品薄状態となった。彼は20世紀後半に生まれたロックという若い音楽を絶えず変化させ続けた。既成のスタイルに安住せず、未知の分野と交わって変わっていくことがロックだと信じていたかのようだ。

「再入荷はいつか」「全部そろえたいんですが」。東京・渋谷のタワーレコード渋谷店。デビッド・ボウイのCDやDVDの特設売り場に若者から中高年まで幅広い客層が足を運び、「再入荷待ち」の掲示を見てため息をつく。「亡くなってここまでとんでもない売れ行きを示すロックのアーティストは過去に記憶がない」と同店洋楽担当の北爪啓之氏は話す。

1960年代から半世紀にわたって活躍し、ロックをけん引したアーティストだが、音楽は時代ごとに様変わりした。それだけに、聴き手によって好き嫌いが分かれる作品は多い。「かなりのファンでも、聴き込んでいないアルバムが何枚かあったりする。デビッド・ボウイの死によって、全作品をそろえて聴きたい人が増えている」と北爪氏は言う。それがCDの売れ行きにつながっている。

作品全体の変化の軌跡を知って初めて、デビッド・ボウイの音楽の本質をつかめるのかもしれない。書籍と音楽ソフトを併売する「HMV&BOOKS TOKYO」(東京・渋谷)副店長の小原優男氏は「彼は流行に合わせてスタイルを変えたのではない。最先端にいる自分自身を変えていった」と語る。

ポップでダンサブルな「レッツ・ダンス」(1983年)が最も幅広い人気を獲得したアルバムだろう。一方で、アンビエント(環境音楽)の先駆者ブライアン・イーノと共同で作り上げた前衛的な「ロウ」「ヒーローズ」「ロジャー」(77~79年)を彼の最高傑作群に挙げる聴き手も多い。これら「ベルリン表現主義3部作」と呼ばれる3作品を好む硬派のロックファンには、「レッツ・ダンス」は軽いポップスにしか聞こえなかったりする。

ただ、音楽ライターの広瀬融氏は「表面的な変化にとらわれるべきではない」と主張する。「メロディーや詩の素晴らしさが聴き手を引き付ける」と説く。

ワーナーミュージック・ジャパンの中村真ストラテジック本部チーフ・プロデューサーによると、訃報後、ワーナー盤で最も売れているのが3枚組ベスト「ナッシング・ハズ・チェンジド」。奇抜でSF的な衣装と演出で一世を風靡したグラム・ロック時代の名盤「ジギー・スターダスト」(72年)がこれに続く。3番目が「レッツ・ダンス」。

2004年に心臓発作で活動を中止して以来、約10年ぶりに新作アルバム「ザ・ネクスト・デイ」を出して復活し、世界を驚かせた。遺作となった16年1月発売の「★(ブラックスター)」は現代ニューヨークのジャズの要素が濃厚に漂う。ロックではない音楽を限界まで取り込むことで、逆にロックの本質を浮かび上がらせようとしているかのようだ。

「ブラックスター」の最後の曲「アイ・キャント・ギヴ・エヴリシング・アウェイ」は感動的だ。たそがれのような広大な曲調の中で「……アウェイ」の言葉が何度も繰り返される。それは未知の離れた場所としての「アウェイ」に身を置いて新しい音楽を生み出し続けたデビッド・ボウイの辞世の一語にふさわしい。

映像は、デビッド・ボウイの海外でのライブに18回足を運んだ経験を持つ広瀬氏と、日本経済新聞の吉田俊宏編集委員(ポピュラー音楽担当)との対談を軸に構成した。広瀬氏が挙げた推薦CDのベスト3は、1位「ジギー・スターダスト」、2位「ステイション・トゥ・ステイション」(1976年)、3位「ロウ」。吉田編集委員はこれに「レッツ・ダンス」を加えた。人の好みはそれぞれだ。「人と違っていい。ありのままの自分でいいんだ。そう励ましてくれる音楽」と広瀬氏。デビッド・ボウイの音楽遺産は、彼の死後、いよいよ評価が高まりそうだ。

(映像報道部シニア・エディター 池上輝彦)

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