香港政府、象牙取引の全面禁止へ
香港特別行政区のトップである梁振英行政長官は、先日行った2016年の施政方針演説の中で、香港での象牙取引を禁止する計画を発表した。年1回行われるこの演説は、その年の政策目標を明らかにするものだ。
梁氏は、電気自動車や廃棄物管理についても触れた2時間におよぶ演説の半ばで、「狩猟の記念品として申告される象牙の輸出入を禁じるべく、政府は可及的速やかに法的手続きに入る」と明言した。
香港政府は他の法的手段も講じて象牙の輸出入を全面的に禁じ、香港で行われている象牙取引も段階的に縮小させること、希少種の密輸や違法取引にはいっそうの厳罰を科すとしている。
香港政府のこの計画は好意的に迎えられた。香港の日刊英字紙「サウスチャイナ・モーニング・ポスト」は演説の「サプライズ」として挙げた3項目にこの政策を数えたほどだが、実際には数カ月にわたって準備が進められてきたものだ。
香港の立法機関である立法会が、行政区での象牙取引を禁止すべきという動議について議論したのは6週間前。エリザベス・クアット議員が提出したこの動議は無記名投票で可決され、議員たちが政治的立場を超えて「象牙取引禁止」で一致していることが示された。
議会のこうした動きは、世論を反映したものだ。香港大学が2015年5月に発表した調査結果では、香港市民の75%が象牙取引の禁止を強く支持していた。この結果を受け政府は、取引の禁止は議会の支持を得ると確信した。
クアット氏はナショナル ジオグラフィックに対し、「香港における野生生物の密輸と象牙取引の禁止に関する動議が議会に支持されたことで、政府はゾウなど絶滅の危機にある野生生物を守るという世界的な動きに歩調を合わせ、立法への取り組みを進めて行く自信を得たのだと思います」と話した。
この議論自体に法的拘束力はなかったが、香港環境局のクリスティーン・ロー局長代理は「政府にとって、立法会での政治的合意ができたという機運を高めるためには非常に重要でした」と指摘する。
2015年9月、オバマ米大統領と中国の習近平国家主席が首脳会談を行い、象牙の国内取引停止で合意したことも、香港の政策発表を後押ししたとみられる。梁氏は親中派で知られ、時に香港の民主化運動と対立する人物だ。それだけに、象牙取引を禁じるという習主席の動きに足並みをそろえるのは不思議ではない。香港の象牙は大半が中国本土へ密輸されているため、香港での取引が野放しなら中国側の規制は無意味になってしまう。
2015年10月、ある独立系調査員らによる潜入映像など複数の報告が、非営利の野生生物保護団体であるワイルドエイドとWWF香港に提供された。そこには、合法的に入手された個人所有の象牙と、違法ルートの象牙とを日常的にすり替える香港の業者の実態が記録されていた。「米国と中国が象牙取引を禁じるなら、香港も追随しないわけにはいきません」とワイルドエイドの活動家アレックス・ホフォード氏は語る。
野生生物保護団体は今回の発表を歓迎する一方、実際の行動が伴うよう望んでいる。クアット氏は「梁行政長官の発表を喜ばしく思います」とコメントし、「政府はこの方針を直ちに実行に移さねばなりません」と強調した。
香港で象牙取引を全面的に禁止するのには何年もかかるかもしれない。ホフォード氏は、「まずは厳罰化を進め、狩猟の記念品としての象牙輸入を禁じるという形になるのでは」とみる。現状では象牙の密輸は「微罪」だが、これが重罪に位置づけられるということだ。個人所有の象牙も一掃するといった対策は容易ではなく、実施はもっと後になるだろう。
梁氏は演説後の記者会見で、次のように述べた。「段階的に香港での象牙販売を禁止する措置を講じていき、いずれは全面禁止とします。時期については可能な限り速やかに進めますが、必要となる法改正については、立法会の決議事項となります」
「政治的意志があるなら、あとは実行する方法を見出せばいいだけです」とホフォード氏は語る。危機にある動物の象徴ともいえるゾウ。対策が実行されれば、大きな助けになるはずだ。
(文 Laurel Neme、訳 高野夏美、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2016年1月19日付]
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