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 30代以降、職場でベテラン社員といわれ始めたら注意したいのが、「仕事の老化現象」だ。働く意欲が落ち、新しい仕事を覚える能力が衰える。職場を取り巻く環境がめまぐるしく変わる今、同僚や取引先に置いてけぼりを食わないためには、アンチエイジング(抗加齢)が必要だ。
アカデミーヒルズでは30代のビジネスパーソンに向けて蔵書を整備する(東京都港区)

アカデミーヒルズでは30代のビジネスパーソンに向けて蔵書を整備する(東京都港区)

世界的ロック歌手、デビッド・ボウイさんは若いうちにヒット曲で名声を得た後も安住せず、常に革新的なアルバムを世に出し続けた。今月69歳で病死するまで若手に負けず最前線にいた彼は、多くの名文句を残している。

「僕は何処(どこ)にも住んでいない。自分の土地を手に入れ、そこに家を建てて『これぞ我が家』なんてのは考えたこともない。そんなことをしていたら僕の世界は壊滅だったよ」(「総特集デヴィッド・ボウイ」河出書房新社より)

技術革新が進み世界は小さくなり、ビジネス情勢が刻々と変化する中、私たちも旧来の仕事のやり方に安住していたら、競争相手に置いていかれ「壊滅」しかねない。ならば、どうしたらいいのか。

東京都港区の六本木ヒルズ・森タワー49階にある有料会員制ライブラリー「アカデミーヒルズ」には、平日の夕方ともなると能力の開発に絶えず危機感を抱き、自分を磨く人が多くやってくる。歴史・文化からビジネスまで様々な書籍1万2千冊に触れ、建築家やアスリート、第一線の起業家らが登壇する講座・イベントに参加するためだ。

参加者たちは、自分の職場では得にくい刺激を浴び、「老化」を防ぐ。大手金融機関で働く持田亮さん(35)は「会社に入って10年ほどたったが、若いうちに社外に目を向け、幅広く研さんを積みたいと思った」と話す。2014年に、世界へ発信する方法を磨く対話法の半年間の集中講座に参加した。今も目に付いたイベントに顔を出す。社内の新しいプロジェクトを進める際、講座で知り合った仲間の協力を得たこともある。

画像処理の研究職に就く江崎日淑さん(31)は入社4年目に同じ集中講座を受講した。研修で米シリコンバレーを視察し、各国から集まっている女性リーダーたちの仕事ぶりに刺激を受けたのが受講のきっかけだった。

忍び寄る「勤力低下」「人脈硬化」

もっとも、目の前の仕事に追われていると、自分磨きの余裕はなかなかない。知らず知らずのうちに忍び寄る仕事の老化現象について、能力開発の専門家らの話をもとに整理すると、次のような3つの危機が浮かび上がる。

毎日同じ時間に同じ通勤路を通り、職場では上司から与えられた指示をただ作業のようにこなしていると起こるのが筋力低下ならぬ「勤力低下」だ。同じ「勤肉」しか使わずにいると、新たな仕事の段階へ上れなくなる。

教育研修を手がけるシェイク(東京・千代田)の吉田実社長は「自らの仕事の価値を見いだせないこと」が勤力低下の理由と考える。仕事向けの体幹を鍛えるには「日々できたことと改善点は何かを振り返る訓練をする。『失敗した』『なぜこうしなかったのか』とわだかまっている点を言葉にして書き出すといい。体内の不純物をはき出すデトックスのようなもの」と話す。

飲みに行く相手は毎回職場の仲間や特定の取引先で、会話といったら噂話か事務的な話のみ。これでは動脈硬化ならぬ「人脈硬化」を引き起こす。視野が狭まり、社会の変化についていけない。法政大学の宮城まり子教授は「若いうちからいろんな人に自分を知ってもらう努力が必要。30代中盤以降にこそ人脈が生かされる」と語る。

社内にも人脈を広げることは重要だ。吉田社長は「他部署と交流すると組織の全体像が見える。自分の仕事が、この部署ではこう役立っていて、あの部署ではこう受け止められていると理解できるようになる」と話す。

挑戦案件は次々否定=「NO梗塞」

勤力低下や人脈硬化が続くと、意固地になりがちで失敗を認めず、他人を批判ばかりして自分が見えなくなる。「前例踏襲で仕事を進め、変化・挑戦にNOを連発しているのは『NO梗塞』になっているのかもしれない」と話すのは経営人材の育成を支援する経営者JP(東京・渋谷)の井上和幸社長だ。

予防に向けて井上社長は「ジムに通ってストレッチをするように、料理など自分の幅を広げる勉強の習慣や、刺激を受ける旅行を定期的に計画する。凝り固まった頭を柔らかくすべきだ」と話す。仕事以外の自分磨きを優先事項として予定に組み込む。仕事が忙しいことを言い訳にして中止しない。

知らぬ間に老化が進んでいないかを確認するためには、定期的な振り返りが欠かせない。いわば健康診断や人間ドックのようなものだ。宮城教授は「5年おきに価値観や身に付けたスキルを立ち止まって振り返る。5年後の目標を改めて立て、達成するためにはどうすべきかを考える」ことを勧める。自身に向き合い、仕事力の老化にあらがう努力が重要だ。(平田浩司、小柳優太)

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