女性活躍を阻むのは、企業の「誤った成果主義」
「女性の活躍推進」の失敗要因は4つ
女性の活躍をうまく進めることができずに悩んでいる企業は、実はとても多いです。その原因として、次の4つが考えられます。
(1) 女性を採用・育成できない
(2) 休業・時短勤務後の復職がうまくいかない
(3) 長時間残業が恒常化している
(4) 成果主義の定義を誤っている
この(1)~(4)について、順に詳しく考えていきましょう。
(1) 女性を採用・育成できない
自社をうまくPRできていないために、優秀な女性の採用ができない。優秀な女性を獲得できたとしても、社内ロールモデルが少ないために目指す方向を示せず、退社されてしまう。
(2) 休業・時短勤務後の復職がうまくいかない
産休・育休や時短勤務の制度は法定以上のレベルでしっかり整えているが、その制度を使った女性社員が、復帰後にモチベーションを落としてしまったり、辞めたりしやすい構造になっている。つまり、制度は立派だが風土がない。実はこの本当の原因が、次に挙げる(3)と(4)である。
(3) 長時間残業が恒常化している
長時間残業が当たり前になっており、重要な会議が時間外に行われることがある。会議をその時間に設定した社員に悪気がなくても、育児などの理由でその会議に出席できない人は、重要な意思決定に携わることができず、周囲から「一人前の仕事をこなせない人」という烙印(らくいん)を押されてしまう。
また、多くの企業において「この部署を経験すると出世しやすい」という重要な部署は、一般的に出張・転勤・残業が多く、それに対応できない社員はその部署に配属されず、結果、社内キャリアパスのメーンストリームからふるい落とされる。その結果、仕事に対して「投げやり・割り切り型」の態度が出てくる。
今まで女性は育児期には「子ども重視」になって、仕事はどうでもよくなるものだと言われてきたが、実際には、介護を抱えた男性にも割り切り型になるケースが増えている。時間の制約を抱えることにより、「もうキャリアアップが望めない」と、モチベーションを下げてしまうのだ。
これからの時代、育児中の女性や、親の介護中の男性管理職社員は増える一方なのに、これらの人々が皆ふるい落とされていくと、昇進・昇給などの希望を持てない社員の比率のほうが高い状態――つまり、社員の大半がモチベーションダウンしている状態になってしまう。そして、実はこの(3)の原因が(4)なのである。
(4) 成果主義の定義を誤っている
管理職への調査で「メンバーをどう評価しているか?」と聞くと、「成果主義で評価している」という回答が最も多いが、その具体的な評価方法を聞くと、「月末や年度末で締めたときに、『仕事の質×量』が高かった人から順に1位、2位、3位と順位付けしている」と回答するケースが多い。
しかし、「ある期間に築いた仕事の山」を比べるのは成果主義とは言えない。なぜなら、それでは期間当たりの成果を見ていることになり、毎日長時間残業する人に絶対的に有利になってしまうからである。それは、時間当たりの生産性が低いのに、長時間かけて山を高く積んだ人が勝つというルールだ。「人件費が中国人の8倍だと言われている日本人」がこのルールに基づいて仕事をしていると大赤字を出してしまう。
本来の成果主義はもっとシビアだ。同じ時間内で勝負して、質と量の高さを見ること――つまり、時間当たりの成果を見ることが必要だ。
本当の成果主義は、時間当たりの生産性で見るべきだ
お分かりでしょうか。日本では労働時間は高いコストなのです。先述した通り、日本人の人件費は中国人の8倍、インド人の9倍だと言われています。時間をかけた分だけ、コストもどんどんかかります。会社に利益を与えているのは「期間内のアウトプットの総量が多い人」ではなく、「時間当たりの生産性が高く、成果を出している人」だということが、お分かりいただけるでしょうか。
では、成果を期間当たりで考えていた企業が、時間当たりで見るように切り替えた場合はどうなるか見てみましょう。
メーカーのY社では、時間当たりの生産性ランキングを出してみたところ、なんと上位20位までの6割が短時間勤務中の女性だったそうです。退社時間が決まっている時短勤務者だからこそ、会社に最も大きな利益を与えることができていたのです。
上司が期間当たりの生産性で評価していると、部下は1cmでも山を高く積むために残業するようになりがちで、その結果、日本企業は人件費で赤字だらけの職場が増え、グローバル競争に勝てない構造にはまっていきます。
このように、(4)の管理職が「本当の成果主義」を運用するようにしなければ、(3)の長時間残業が恒常化していきます。せっかく育休や時短などの制度を整えても、機能しなくなってしまうのです。
また、本当の成果主義を運用するにしても、その管理職のさらに上司である部長や役員層の評価方法まで変えなければ、失敗に終わるでしょう。なぜなら、ある部署が懸命に時間当たりの生産性を上げたとしても、それを見た部長や役員が「あの部署は、みんな早く帰っていて暇そうだ。一人減らすか、仕事量を増やそう」などと言い出す可能性があるからです。
また、こうした長時間労働が前提となっている職場では、長時間働く人でなければ評価されず、結果的に「24時間型人材」しか、管理職や役員に上がっていけません。お客様は多様化しているのに、役員層が変わらずに均一なままであれば、その会社が生み出す商品やサービスは、お客様のニーズをつかむことはできないでしょう。お客様のほうが多様化しているのですから、それに合わせて意思決定層も多様化させる必要があるのです。
さらに言うと、育児中の社員だけを早く帰すようにしても意味はありません。「他の社員に追いつかないと一人前だとみなしてもらえない」という焦りから、育児中の社員たちは仕事を持ち帰って、サービス残業を始めるでしょう。これは社外への機密情報の漏洩や、コンプライアンス違反につながります。何よりせっかく帰宅した親が、会話もせずにパソコンに向かう姿は子どもたちを傷つけます。
社内人材の多様化を進め、働きやすい職場をつくるためには、管理職が部下を正しく時間当たりの生産性で評価すること。時間内に成果を上げることが評価される風土をつくることが必須です。
株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役社長。2006年、ワーク・ライフバランスを設立。900社以上にコンサルティングを提供し、残業を削減して業績は向上させるという成果を出している。2014年9月からは安倍内閣で産業競争力会議の民間議員として、政府の経済成長の方針「日本再興戦略」に長時間労働是正と女性活躍こそが日本の経済成長の鍵であることを盛り込んだ。二児の母。『残業ゼロで好業績のチームに変わる仕事を任せる新しいルール』(かんき出版)、『30歳からますます輝く女性になる方法 仕事も結婚も子育ても何もあきらめなくて大丈夫』(マイナビ)など著書多数。
[『女性活躍 最強の戦略』の内容を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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