酒の分類は甘口・辛口 でも酒が「辛い」って何だ?

今年は暖冬とはいえ冬の名にたがわぬ寒い日も多い。こんな日には酒でも飲んで温まろうとある居酒屋を訪れた。店で薦められた日本酒を飲みながら「これはまろやかでおいしいなあ。甘口かな」と思いメニューを見ると「辛口」と書いてある。普段なにげなく「辛口」という言葉を使っていたが、どうも味覚の「甘い」「辛い」と酒の「甘口」「辛口」は違うようだ。

日本酒は基本的に糖が多く含まれるものを「甘口」、少ないものを「辛口」という。この糖の多寡を「日本酒度」という指標で表す。糖が少ないほど数値が大きくなるので、たとえば酒造会社の大関が製造する「上撰金冠辛口」(日本酒度+5)と「上撰金冠ワンカップ」(プラスマイナス0)は後者の方が甘く感じられるというわけだ。

ただし日本酒にはコハク酸やリンゴ酸など様々な酸も含まれており、その酸の影響も受けるため、日本酒度の値が同じでも「辛口」とされたり、「甘口」になったりもする。ただ、いずれの場合でも「辛口」の日本酒に「辛い」と感じる成分が含まれているわけではなく、「甘口ではない」ということだ。では、なぜそれを「辛口」と表現するようになったのだろうか。

すでに江戸時代にあった、酒は「から口」の表現

甘口・辛口という言葉が資料に出現するようになるのは江戸時代。たとえば1688年に刊行された井原西鶴の「日本永代蔵」には「所酒(=地酒)のから口、鱶(ふか)のさしみを好み」とあるように、当初から「辛口」ということばは日本酒の味を表す言葉だったようだ。当時日本酒を「辛口」と言った理由はいくつか考えられそうだ。

「辛口」の日本酒は人気が高い

一つは、「辛い」という言葉がそれ以前から日本酒と相性がよかったこと。平安時代の漢和辞典「新撰字鏡」にアルコール度が高い酒を「カラシ」とする記述がある。現在はアルコール度が高い日本酒を「辛口」というわけではないが、もともとある種の日本酒の味わいを「辛い」と表現する土壌があったようだ。

また、江戸時代の日本酒の味は今のものと大きく異なり、酸味が強かったこともありそうだ。酒類総合研究所の橋口知一氏によれば、「当時は精米技術が未発達でミネラルなどが多いコメで酒を造っていた。このため酵母が活発に活動して酸が多くなり、現在の日本酒に比べて全体に酸度は高かったようだ」という。糖度が低いほど酸を強く感じるようになるので、相対的に糖度が低い日本酒から感じる強い酸の刺激に対して「辛い」といったのではないかと想像することができる。

糖度と酸度による分類は明治時代以降

明治時代に入り、大蔵省醸造試験所(現・酒類総合研究所)が設立され、日本酒を科学的に分析するようになる。1907年(明治40年)から全国清酒品評会という催しが開かれるようになったが、そこで現在とほぼ同じ方法で日本酒の糖度を計測している。酸度についてはいつごろから計測するようになったか不明だが、近代になって科学的な物差しで糖度と酸度を測り、そのバランスによって酒を分類するようになる。その際、江戸時代から続く「甘口」「辛口」という言葉がそのまま使われたようだ。

一方、味覚の上での「甘い」「辛い」という言葉は必ずしも反対語の関係ではない。「酸いも甘いもかみ分ける」という慣用表現もあるし、「甘い」の反対は「苦い」だとする見方もあるだろう。

味覚表現としては平安時代にはすでに「甘し、酸(す)し、しわはゆし(しょっぱい)、苦し、辛し」が「五味」と呼ばれていた。日本語の歴史に詳しい二松学舎大の島田泰子教授は「辛いは五味のうち、甘い、酸っぱい、しょっぱい、苦いではない刺激を広く担っている」と指摘する。「甘い」と「辛い」は反対語ではないが、日本酒の味を表す「甘口」「辛口」が定着したため、味覚表現とは別にこの2つの言葉がセットで使われるようになったというのが実情のようだ。

ワインやビールで使われる「甘口・辛口」の意味

日本酒から生まれた「甘口」「辛口」はほかの酒類でも使われている。白ワインもその一つ。外国では「セック」(乾いた)や「ドライ」などと表現されるものを日本では「辛口」としている。この「甘口」「辛口」の表示は輸入業者が独自に手掛けている。輸入ワインを多く手掛けるサントリーホールディングスでは「2人のスペシャリストという役職の人物が残糖値などの値を見ながら実際にテイスティングして甘口・辛口などを決めている」(広報部)という。このワインの「辛口」についてサントリーは「甘味が控えめ・甘味がほとんどない」という意味で使っていると説明している。

1987年に発売、大ヒットしたビール「スーパードライ」を当時のアサヒビールが「辛口」と表現したことで、ビールについても「辛口」という言葉が使われるようになったが、「辛口という言葉ですっきり、さっぱりした味わいを表現した」(アサヒグループホールディングス広報)といい、「辛い」と感じる何かの成分があるからそう名付けられたわけではない。

酒の世界で広く使われる「甘口」「辛口」だが、人によって感じ方が違うのも確か。日本酒を販売する酒店では「日本酒の味わいは甘口・辛口という分類だけで表現できるものではないので、薦めるときには日本酒それぞれの味わいを表現するのに適した言葉をつかう」(日本酒を多く扱う伊勢五本店=東京・文京)という。酒好きのことを辛党といい、また辛口の日本酒はよく好まれるが、自分の舌でうまい酒を見極められるようになりたいものだ。

(桜井豪)