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なくせ、放課後の学び格差 無料塾・助成制度広がる

2016/1/24

いよいよ受験シーズン。家庭の経済事情による子どもの教育格差に注目が集まる中、無料の学習支援など「放課後」を活用した格差解消の取り組みが各地で広がっている。

「1ドル=100円が80円になったとします。これは円高でしょうか、円安でしょうか?」。大学生の講師が子どもたちに問いかける。昨年末、NPO法人のキッズドア(東京・中央)が高校受験を控えた中学3年生向けに都内で開いた対策講座の一コマだ。

キッズドアは塾に通えない子どものために無料の学習支援などを手掛ける。理事長の渡辺由美子さんは「家庭にお金がなくて十分な教育を受けられないまま大人になれば、将来は生活保護など福祉を受ける立場に陥る可能性も高くなってしまう」と心配する。

厚生労働省の統計では、17歳以下の相対的貧困率(可処分所得が全体の中央値の半分に満たない人の割合)は上昇を続け、2012年に16.3%。子どもの6人に1人が貧困に苦しんでいる計算になる。主要国では米国とイタリアに次いで高く、また海外より上昇の進み方も急速だ。

■親の年収、学力左右

経済的困窮は子どもの学力に直結する。お茶の水女子大学が全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の結果と家庭環境の関係を調べたところ、親の年収や学歴、塾などへの支出額が低いほど子どもの学力も低かった。浜野隆教授(教育社会学)は「学力が本人にコントロールできない要因で決まってしまえば、社会の分断にもつながる可能性がある」と警鐘を鳴らす。

国や自治体も手をこまぬいているわけではない。13年に「子どもの貧困対策推進法」が成立し、14年に対策大綱を閣議決定。昨年末には教育費の負担軽減などを盛り込んだ新たな施策を決めた。東京都足立区は今年度から「子どもの貧困対策担当部」を設置。学校を軸とした放課後の学習支援の充実など19年度までの実施計画案もまとめている。

塾や習い事の費用を助成する取り組みも広がっている。

宮城県石巻市に住む小学6年の那須野優君(12)は週に2回、近所の学習塾に通っている。「勉強で理解できなかったところも塾では分かるまで教えてもらえる」と喜ぶ。

一家はもともと隣の女川町に住んでいたが、東日本大震災の津波で自宅が全壊。母親の公美さん(39)は「再建した自宅のローンもあり、助成がなければとても塾には通わせられなかった」と話す。

優君が利用するのは公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン(兵庫県西宮市)が提供する「学校外教育バウチャー(利用券)」。寄付を原資に、塾などで使える利用券を無償で配る仕組みだ。

■放置、将来の負担に

近年は自治体のレベルでも同様の試みが広がる。千葉県南房総市は今年度から、小学5~6年生の子どもがいる家庭に「塾利用助成券」を配り始めた。産業が乏しいため所得水準が低く、人口流出も激しい。三幣貞夫教育長は「子どもたちがどこへ行っても通用する力を付けてあげたい」と狙いを説明する。

ただ、同市の助成券には所得が比較的高い家庭からの申請が多く、生活保護世帯からはゼロ。本当に必要な層に支援が届いていない可能性があるという。所得が低い層ほど子どもの学習意欲が低くなる問題には、明確な処方箋が見つかっていないのが実情だ。

日本財団の推計によると子どもの貧困を放置した場合、1学年分だけでも生涯所得の合計が2.9兆円減り、税収の減少などで国の財政負担は1.1兆円増える。慶応大の中室牧子准教授(教育経済学)は「子どもの貧困対策への投資は将来、国民が支払うコストを少なくする点でも経済効果が大きい」とみる。

少子高齢化に直面する日本。子どもの貧困は自分に跳ね返ってくる問題として、社会全体で深刻に受け止める必要がありそうだ。

■学外の学習支援に賛同の一方… 「公教育の改善が先」の声

教育格差についてツイッターでも「家庭の事情で学ぶ機会を失うことは後々おとなになってからの経済格差にもつながる」「貧しい家庭に生まれても、本人の努力と才能次第で無料もしくは格安で高等教育が受けられる仕組みが必要」など対策を求める人がいた。

生活困窮世帯に現金を給付しても教育費に使われるとは限らないのに対し、学校外教育バウチャー(利用券)なら「間違いなく子供に渡る」と効果に期待する声があった。また、教材購入や資格受験などにも使えるように用途拡大を求める意見も出ていた。

「塾に行かなくても公立学校で十分な学力がつく仕組みを復活させるべし」「学校の授業を改善する方が先」と公教育のてこ入れを求める声も多かった。調査はNTTコムオンラインの分析ツール「バズファインダー」を用いた。

(本田幸久)

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