共働きマネー戦略は「住宅」より子育てサポート

日経DUAL

認定NPO法人フローレンス代表理事・駒崎弘樹さんと、これからの社会をより住みやすい場所にしていくためにできることを考えていきます。今回は、共働き世代のマネー戦略について、駒崎さんが思うところを語ります。

何にお金をかけ、何を切り捨てているか?

こんにちは。認定NPO法人フローレンス代表理事の駒崎弘樹です。共働き育児中の世代が前向きに目の前の課題を乗り越え、将来を開いていくために大事だと僕が感じている思考や視点についてお伝えします。

今回は「オカネ」、マネーの戦略について僕の考えを述べていきたいと思います。

僕は常に、お金を支払うという行動は「投資」であると捉えています。稼いだお金を何に使うかは、そのまま「どんな人生を構築するか」という人生設計に直結し、子どもがいれば「子どもにどんな生活環境を与えるか」にダイレクトに影響するもの。だからこそ、自分で稼いだお金を何に使って、その結果、何を獲得しようとしているのか、強く意識したいと思うのです。逆に、「価値のないものには払わない」という見極めも必要です。

僕が何にお金をかけ、何を切り捨てているか、事例としてお話ししましょう。

一般的に、結婚して子どもがいる30代の大きな買い物というと「住宅」がすぐに思い浮かぶ人が多いかもしれませんね。実際、都内随所にある新築マンションのモデルルームの見学会には、まさに共働き世代の夫婦が参加する姿がよく見られます。

親世代からも「住宅ローンを組むなら早いうちがいい」とハッパをかけられ、「金利が低いうちに」という不動産業者のセールストークに機を逃してはならないと焦っている読者も多いんじゃないでしょうか。

今すぐ家を買わなければいけない何らかの理由がある方や、所有物としての家にこだわる方が住宅を買うのはまったく自然なことだと思います。

でも、僕はそうではないので買いません。というか、むしろ、買いたくありません。

なぜなら、現時点の駒崎家にとって家を買うことは、今後の選択肢を狭める“リスク”にしかならないからです。

「先の見えない時代」を家族で生き抜くために

まだ小さい子どもたちが、療育の必要な障害があると分かるかもしれません。あるいは、5年後、10年後に、僕が、妻が、まったく違うキャリアビジョンを描いて、地方で暮らしたいと思う可能性だってゼロではありません。海外に行く可能性もあります。つまり、ものすごく“変動要因”の多い状況です。

それなのに年収の数倍のローンを背負って、住む家を何十年も固定する決断をするというのは……僕は「え、ちょっと待って」と思ってしまうのです。

家を買ったことで、子どもの教育環境を考える際の選択肢が狭まったり、夫婦それぞれのキャリア面でのチャレンジがしづらくなったりするのはもったいない。家族全員が自由にアクティブに人生の選択ができるように、家を買うのは年を取ってからでいいよね、と妻とも話しています。子どもが独立して夫婦二人暮らしになってからでもいいくらいですね。もちろん、貸したり売ったりすればよいのですが、不動産購入や運用はやはり、まだ一般の方々にはハードルが高いのが現実です。

では、逆に何にお金をかけたいと思うのか。

僕はブランド物の服や高級車には興味はありませんが、一番惜しみなくお金をかけてもいいと思っていることは二つあって、一つは「子どもの可能性を開く経験や学習機会」です。

子どもがちょっとでも「読みたい」という意思を見せた絵本は冊数をあまり気にせずに買い与えるようにしていますし、習い事も本人が興味を持ったものはできるだけ体験させるようにしています。本人が「やりたい!」と言ったから入会金を払ったのに行かなくなる、というありがちなムダも生じますが、それもまた体験と理解するようにして……(苦笑)。

子どもの可能性を広げる体験や学習機会には、惜しまずお金を使っていきたいというのが僕の価値観です。

仕事を辞める人に「ちょっと待って」

お金を惜しむべきではないと考えていることのもう一つは、「子育てサポート」。僕の仕事にも通じるテーマです。

近隣に頼れる親族がいる場合は別ですが、都会で夫婦が働きながら子育てをするのは大変なハードワークです。少しでも育児に余裕を持たせるために保育施設やベビーシッターサービスを活用することは、健全な生活を維持するために不可欠だと感じています。少しでも多くの人がもっと気軽に子育てサポートを利用できる社会になるように、僕も日々、国や行政を巻き込みながら奮闘しています。

そんな活動をしながら実感するのは、世の中には「子どもを預けてまで働くことはオカネのムダ」という誤解がまだまだ多いなということです。

「保育にかかるお金を差し引いたら、収入として残るお金は微々たるもの。だったら働かないほうがいい」。そういう理由で働くことを諦めたり、キャリアを手放してしまったりする女性はまだまだ多いという現実。僕は「ちょっと待ってください」と止めたくなります。

働いて得られる収入というのは、その時点で手にする金額だけを意味するものではありません。「将来のキャリアに向けてのステップ構築」という“見えない収入”もあるのです。

法人を運営する経営者として身をもって感じるのは、「キャリアを継続する」という価値が雇用のマーケットにおいていかに重要かということ。正直、ハイパーキャリア出身で5年ブランクがある人よりも、細々とでも地道に仕事を続けてきた人のほうがずっと安心感があるのです。すぐに使える仕事感覚が維持されているからです。

例えば5年前の2010年を思い出してみてください。facebookを使っている人はほとんどいなかったですし、ましてそこからビジネスチャンスが広がるようなことはなかったですよね。特に今のビジネス環境は刻一刻と変わるものなので、「継続して現場にいる」ということがとても大事だと実感しています。

極端かもしれませんが、「保育料に給料の全額を投じてでも、就業継続したほうがいい」というのが僕の考えです。数年は家計が大変でも、長期的には大きな収入をもたらすはずですから。働く女性がお子さんを授かったら、「辞めない」という選択をするのが経済的に合理的であり、ご本人が希望するキャリアを発展させていくためにも不可欠な判断ではないかと思います。

妻の仕事継続を可能にするのが夫のミッション

とはいえ、特に初めての子育ての場合は「やっていけるかどうか分からない」とキャリア中断を考える女性はやはり少なくありません。ここで男の出番です。

キャリアの話にも通じますが、共働きの強みはダブルインカムであることです。共働き世帯のマネー戦略を考える上で、まず大事にしたいのが、この“強み”を手放さないという点です。妻が仕事を継続できるように全力を尽くすのが夫のミッションでしょう。

経験上、妊娠中や産後数カ月間の女性のメンタルは非常に不安定であると理解しています。子どもが生まれた喜びを感じながらも、常に不安で気持ちが落ちていく。「育休復帰しようと思ってたけど、やっぱり私、できそうもない。仕事、辞めようかな……」なんて虚ろな目でつぶやく妻。その言葉をすぐに真に受けて「じゃあ、辞めたら」なんて言ってはいけません。その言葉は“産後うつ”によって発せられているのではないかと、まず疑いましょう。

できればぜひ夫も育児休暇制度を利用して、妻のサポートに集中できる時間を取ったほうがいい。僕自身も2ヵ月ほど取りましたが、あのとき思い切らなければわが家はどうなっていたのかと思うほどです。

産後の最もしんどい時期に夫のサポートがあることで、妻は負担が軽減されて気持ちも安定していきます。夫のサポートなしで妻が潰れて片働きになってしまったら……そのときの損失の方が甚大です。「妻への愛のために」だけでなく「中長期マネー戦略のために」とクールに考えた上での結論として、夫の育休取得は合理的選択であると僕は思います。

「夫が育休を取ると収入が減って生活が成り立たなくなる」「仕事を休むと周囲の目線が気になるし、カンが戻らなくなる」というイイワケが通用したのも今は昔。実質、給料の8割は支給されますし、月80時間以内なら働くことができる“半育休”の制度も始まりました。こういう流れがきているときに制度はバンバン使っていかないと、世の中は変わりません。

共働き世帯のマネー戦略の最大の要は「夫婦共に働き続けること」。そのために、目の前の負担に惑わされず、中長期の視点を持ったアクションを意識していくことが大事なのだと思います。

駒崎弘樹
1979年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、2004年にNPO法人フローレンスを設立。日本初の「共済型・訪問型」の病児保育サービスを首都圏で開始、共働きやひとり親の子育て家庭をサポートする。2010年からは待機児童問題の解決のため、空き住戸を使った「おうち保育園」を展開し、政府の待機児童対策政策に採用される。2012年、一般財団法人日本病児保育協会、NPO法人全国小規模保育協議会を設立、理事長に就任。現在、厚生労働省「イクメンプロジェクト」推進委員会座長、内閣府「子ども・子育て会議」委員、東京都「子供・子育て会議」委員、横須賀市こども政策アドバイザーを務める。著書に『「社会を変える」を仕事にする 社会起業家という生き方』(英治出版)、『働き方革命』(ちくま新書)等。一男一女の父であり、子どもの誕生時にはそれぞれ2カ月の育児休暇を取得。

(ライター 宮本恵理子)

[日経DUAL 2015年11月19日付記事を再構成]