カリスマ先生が保育で一番大切にしてきた「言葉」

日経DUAL

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NPO法人子育て学協会では「言葉かけ教室」を開催して、子どもの人格形成に影響を与える言葉の大切さを伝えています。同協会会長の山本直美さんに、「言葉がけ」についてお聞きしました。

パパ・ママという立場で使う「親ことば」

立場、役割によって使う言葉は変わってきます。教鞭(きょうべん)をとらせていただくときの私と、家族といるときの私とでは、使う言葉が異なります。皆さんもきっと無意識のうちに「自分の見せ方」に合わせて言葉や話し方を変えているのではないでしょうか。

では、「親ことば」は使えているでしょうか。実は、父親、母親という立場で使うべき言葉があります。そのとき、その瞬間、どんな言葉を子どもたちにかけるのか。大人が無意識にかける言葉によって、子どもたちの習慣だけでなく、人格が形成されています。

保育現場で一番大切にしてきたのは「言葉」です

「保育現場で一番大切にしてきたものは何ですか」と聞かれたら、私は「言葉です」と答えます。

例えば、イスに座らずに子どもたちが遊んでいたら、皆さんは何と声をかけるでしょうか。ついつい「あっちに座るのよ」「早く座って」と声をかけてしまいがちです。これでは子どもたちは理解ができませんから、動きません。「みんなで集まって楽しいことをしたいと思います」「今から面白いことをお話ししてもいいですか?」「順番におイスに座ってくれる人はどなたでしょう?」と言うと、慌てて子どもたちが座り始めます(笑)。

意外に忘れがちなのは、子どもたちは具体的な言葉を伝えてイメージさせてあげないと理解できないことがほとんどだということ。「あっち」「そっち」「こっち」「早く」は、3歳くらいまではピンときていないのです。だから動けない。

具体的に伝えるだけで「言うことを聞かないストレス」は減る

この「具体的に伝える」というのは、子育てにも生かせる言葉かけです。

「そんなこと、保育士さんだからできるのでは。忙しい毎日でそんなふうに丁寧な言葉かけはできない」というパパやママもいらっしゃいます。でも、「早く座りなさい」と言い続けるパワーを考えれば、実はよっぽどこちらのほうが楽に進行できますし、子どもも見通しが立つことで楽しんで動きます。

大人は、指示をして子どもを動かそうとしがちですが、モチベーションがアップする言葉を具体的にかけられた子どもは、一瞬にして生き生きした表情に変わります。

言葉には習慣があります。「気を付けて行ってらっしゃいね」と、毎日ママがパパに言う姿を見ていれば、子どももそのように言うようになります。日常生活のしつけのなかに、実は「言葉」が必要なのです。

自分の親が使っていた言葉を無意識に使っている

上司になって使う言葉、先生になって使う言葉があるように、親になってから使う言葉も存在します。その立場になったときに使っていい言葉、使わなければならない言葉があるはずなのですが、「親ことば」に関しては教えられる機会などなく、親自身の感覚や習慣で、無意識に言葉を使っていることがほとんどです。育ててくれた親が使っていた言葉にも、大きく影響を受けています。

自分が育てられた言葉のまま子どもを育てていては、育ちづらいこともあります。自身の親がどうだったかではなく、自分自身が親ことばを学び直すことが必要かもしれません。話し方、言葉遣いも、練習を重ねれば必ずできるようになります。カッとしたときでも、正しい言葉が出てくるようになります。お年寄りに自然と席を譲れる人は無意識ですよね。

言葉も同じで、考えて出てくるものではありませんから、やはりトレーニングが必要なのです。

親ことばトレーニング

Q.子どもがコップの水をこぼしたら…何と言う?

「こぼすと思ったー」「まったく、何してるの」とネガティブなことを言ってしまいがちです。が、コップがテーブルの角や手の当たる所にあり、今にもこぼれそうなことを予見できなかった親の責任もあるはず。でも、怒られるのは子どもだけ、なんてことはよくありますね。とっさに出てくるそのような言葉を、まずは置き換えてみます。

A.事前に声をかけましょう。もし、こぼしても大きく反応しない。

「あれ? 机の角にコップがある。このままだったらどうなる?」と、事前に声をかけておけば、小さな子どもでもちゃんと自分で考え、テーブルの真ん中にコップを移動させます。もしこぼしてしまった場合には、いつも言っていますが、大きく反応せず粛々と拭きましょう(笑)。「はい、拭いてくださいね」と、ふきんを渡して促してもよいですね。

Q.食べ物をぐちゃぐちゃにする赤ちゃんがいたら…何と言う?

「どうしてそんなことするの」では伝わりませんし、ママの大きな声が「遊んでもらっている」と感じてしまうこともあります。

A.自分で考えさせる言葉かけをしましょう。

「あら? ○○くん、何してるの?」「ママは食べ物をぐちゃぐちゃにされたら悲しいな」と冷静に言葉をかけます。すると、子どもは食べ物で遊んではいけないことや、ママが喜んでいないことをちゃんと感じている目をします。

NG言葉を丁寧で優しい言葉に言い換える

子どもは言葉をコントロールできませんので、私が運営している親と子の教室では、言葉遣いをとても大切にしています。

[気を付けたい言葉遣い]

×じゃあ   〇さようなら

×おはよう  〇おはようございます

×ありがとう 〇ありがとうございます

×ごめん   〇ごめんなさい

×嫌い    〇苦手

×うん    〇はい

×体言止め  ○「~ください」「~です」

親に対して、「うん」と言う子どもをよく見かけますが、私は、「はい」と言えるように教えています。以前に保護者の方が「怒っているときに子どもがハイ、と返事をしたら、その姿がかわいくて気持ちが治まった」と、伺ったことがあります。

また、言葉が短すぎると印象が悪くなることがありますから、「お茶」「コップ」といったように、体言止めは使いません。必ず「ください」とつけるように教えてみてください。

忘れがちですが、夫婦間でも、時に丁寧な言葉で話すことが大切ですね。大人同士は特に「相づち」がないがしろになります。子ども達は言葉を覚えているときですから、お互いに対しての言葉遣いもとても大切なこと。

家族で丁寧な言葉、優しい言葉で話す習慣をつけていくことで心が整ってきますから、親子でそれを感じながら楽しんでくださいね。

山本直美
チャイルド・ファミリーコンサルタント。アイ・エス・シー代表。NPO法人子育て学協会会長。1967年生まれ。日本女子大学大学院家政学研究科修士課程修了。幼稚園教諭を経て、大手託児施設の立ち上げに参画。95年にアイ・エス・シーを設立、自らの教育理念実践の場として保護者と子どものための教室『リトルパルズ』を開設。08年にはこれまで研究・実践してきた理論・プログラム普及のため、NPO法人子育て学協会を設立、キッザニアのプログラム監修やリクルート社事業所内保育施設運営の受託、子育て支援のプログラム提供などの実績がある。著書に『できるパパは子どもを伸ばす』(東京書籍)、『子どものココロとアタマを育む 毎日7分、絵本レッスン』(日東書院)など。

[日経DUAL 2015年11月18日付の記事を再構成]

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