カラオケで介護予防、自治体が採用「♪パパパパ」から全身運動も、科学知見これから

カラオケの歌と音楽に合わせて簡単な運動を楽しむ介護予防教室がにぎわっている。自治体が専用のカラオケ機器を導入し、相次いで事業化している。楽しみながら続けられるため、介護予防や健康維持に加え、自宅にこもりがちな高齢者が外出するきっかけ、仲間づくりにつながると期待は大きい。

「パパパパ タタタタ カカカカカカ……」。童謡「はるよこい」の歌詞を「パ・タ・カ・ラ」の4語に置き換え、声をそろえて熱唱――。

1月中旬、東京都清瀬市のコミュニティプラザひまわりで介護予防教室「脳トレ元気塾」を開いていた。音楽療法士の小川美穂さんの呼びかけに合わせ、高齢の男女約30人が大型画面の映像を見ながら歌う。口の周りの筋肉や舌を使う「パ・タ・カ・ラ」を歌に取り込むことで、口腔(こうくう)機能の維持・向上につなげる狙いだ。

カラオケに曲に合わせて体を動かす参加者(東京都清瀬市)

教室は同市が65歳以上を対象に昨年6月から始めた。市内3か所で週1回、開く。参加費は1回200円。第一興商の通信カラオケ機器を使う。この日は機器に内蔵する約400のプログラムから、タオルを使った歌謡体操、昭和歌謡に合わせて手拍子や足踏みをするなど、約1時間半にまとめた運動をした。

2年前に大学を定年退職した斎藤博さん(67)は低下した体力の回復のため参加した。「年を取っても身の回りのことを自分でできるようにしたい。元気塾は音楽から入れるのがいいし、家族的な雰囲気もいい」と話す。又野陽子さん(81)は「歌いながら体を動かせるのが魅力。男性とデュエットできるのも楽しい」と、開始時から熱心に通う。

参加者に変化が出てきた。「歩くのにシルバーカーが必要だった人が、普通に運動ができるようになった」(同市地域包括支援センターの関口美智子さん)。市によると、プログラム終了後に参加者に聞いたところ「心身の状態が改善した」「買い物が自分でできるようになった」などの声が上がったという。

関口さんは「声を出し体を動かすことで高齢者が生き生きとしてくる。元気塾を通じて知り合った人たちの交流が生まれ、地域住民のつながりができる」と話す。

元気塾は同市の在住者が対象だが、市周辺からの申込者が出るなど、参加希望者は増えている。2016年度からは通年で開く予定。会場を5カ所に増やすよう検討中だ。

北海道伊達市ではカラオケを活用した「はつらつ元気塾」が18日から、市内2カ所のコミュニティセンターで本格的に始まった。受講対象は65歳以上の市民。3月末まで週1回、計10回開く。

教室には約40人が参加する。音楽健康指導士を中心に映像を見ながら軽い運動をしてから、カラオケ画面に流れる「北国の春」や「三百六十五歩のマーチ」などの歌謡曲、民謡の「ソーラン節」などに合わせて歌い、ハンカチを振るなど体を動かす。終了後は一緒に昼食を楽しみ、交流を深める。参加を予定している70代の男性は「頭を使いながら好きな曲を歌えて体にもいい。こんな事業を待っていた」と話す。

各回とも40人の定員は満杯だ。16年度は回数を増やし、5月~17年2月に月2回開く予定だ。

「大きな声で歌う、かっこいい自分づくりに役立ててもらおう」と、カラオケ機器を使った高齢者向け健康づくり講座を開いているのが長野県松本市だ。声帯のストレッチと腹式呼吸で、のどや腹の筋力を鍛えるプログラムで、昨年10月から市内の3会場で始めた。

対象を60歳以上の男性に限り無料。講座ではカラオケ機器から流れる大音量の音楽に合わせ、約20人の男性が発声練習をする。歌手や俳優など声を職業とする人たちのための「スポーツボイス」と呼ぶトレーニングを取り入れた。参加した70代の男性は「最初は苦しかったが、だんだんと息が続くようになった。体が活性化した感じ」と話す。

講座は各会場とも2月までの計14回を予定。同月21日に市音楽文化ホールで発表会を開き、歌声を披露する。市は講座を「女性に比べて閉じこもりがちな男性の社会参加を促し、生きがい作りに活用したい。参加者が地域の担い手になってくれれば」と期待する。

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認知機能の改善・維持と音楽の関係に詳しい三重大学大学院の佐藤正之准教授によると、認知症の非薬物療法のうち予防や進行低下の効果が医学的に立証されているのは運動療法だけ。日本神経学会の認知症疾患治療ガイドライン(2010年)では、カラオケを含む音楽療法は「科学的な根拠はないが、行うよう勧められる」という段階だ。

佐藤准教授はカラオケには(1)伴奏に合わせて歌うことで認知機能の訓練になる(2)懐かしい歌を思い出すことが記憶を刺激する回想効果がある(3)歌唱は機能回復のための有酸素運動になる――などが期待できるという。今後の研究が進めば、予防や進行低下への有効性が明らかになる可能性がある。

カラオケ機器メーカーは高齢者が好む童謡、歌謡曲などに合わせて口腔運動や脳トレ、体操などができるカラオケ機器を開発。00年代前半から介護福祉施設が導入し始めた。

自治体の介護予防教室へと広がり出したのはここ数年だ。自治体には「健康寿命を延ばす取り組みで、医療や介護の費用の削減につなげたい」との意向が強い。カラオケには集客力があり、地域のコミュニティーを生む効果があることから、介護予防教室の目玉として取り入れるようになった。茨城県つくば市、福井県坂井市、福岡市などでも事業が実施されている。

全国カラオケ事業者協会の推計によると、国内のカラオケ参加人口は約4700万人で、団塊世代の割合が高いという。今後、要介護の高齢者になる団塊世代が増えると見込まれ、自治体によるカラオケを活用した介護予防教室は増えそうだ。

(大橋正也)