リスとグアバと森の生きもの
前回は、落ちたグアバの実にやってくる「森の宝石」モルフォチョウを紹介したが、今回はそのグアバの実を落としていく動物、リスちゃんたちを紹介しよう。
リスといえば、ぼくには「北の国や寒いところに生息する」というイメージがあったのだが、ここ熱帯コスタリカで頻繁に見かける。コスタリカではこれまでに5種のリスが確認されていて、今回ご覧に入れるのはそのうちの4種(と3亜種)。家の周りでもよく見かける。
10月以降、グアバやヤマモガシ(マカダミアの仲間)の木々に実が成り、熟し始めると、毎日のように樹間をシュッ、シャシャシャと移動するリスたちに出会う。実りの時期ならではのことだ。
頭上からパリポリパリポリと音がするので見上げると、そこにはグアバの実を食べるリスちゃんがいる。2~3頭いることもある。
直径が3~4センチのグアバの実の皮の部分を前歯で削り取り、地上へポトポトと落としていく。半分ほど皮がむけると、今度は中身をムシャムシャ。そしてくり抜かれて器のようになった残り半分の実をボタッと地面へ落とす。
地上に落ちたグアバの実は徐々に発酵し、独特のにおいを放つ。そこにやってくるのがモルフォチョウというわけだ。ただし、このごちそうを目当てにやってくるのはモルフォチョウだけではない。
夜中にせっせとごちそうを集める生きものとは
ラボの横に、ヒメハキリアリの一種のコロナトゥスハキリアリが巣を構えていて、夜になると葉を切りに出かける。
ある夜中のこと、ぼくが行列をまたいで横切るとき、ハキリアリたちが薄いピンクの粒を運んでいることに気づいた。そのときは、花びらか何かを切り取って収穫しているのだろう、いつものことだと思ってあまり気にしなかったのだが、翌晩も同じ光景に出くわした。
あれ、なんか違う……? コツコツと運んでいるところをよく観察してみると、それはしっとりした丸い粒……もしや?
ハキリアリの列をたどってみると、そこには案の定グアバの実が。そして周辺にはハキリアリたちが一面に広がり、あちこちに落ちているグアバの破片に群がっていた。リスちゃんたちが地上に落とした「たくさんの恵み」に大喜びの様子のヒメハキリアリたち。
グアバの実から小さな粒を引きちぎるようにして収穫していた。進んで収穫するということは、グアバの果肉はコロナトゥスハキリアリのキノコの栽培に適しているのだろう。
「ヒメハキリアリたちは一晩中、この恵みの収穫の作業を続けるんやろうな……」
真っ暗な中、懐中電灯の明かりに浮かび上がる薄ピンクの丸い粒々。それらがゆらゆらと揺れながら移動していくのを眺めつつ、ぼくはそんなことを思っていた。
リスの同定の確認は、モンテベルデバイオロジカルステーションの哺乳類が専門の同僚、Raquel Boneにお願いしました。
1972年、大阪府生まれ。中学卒業後に米国へ渡り、大学で生物学を専攻する。1998年からコスタリカ大学でチョウやガの生態を主に研究。昆虫を見つける目のよさに定評があり、東南アジアやオーストラリア、中南米での調査も依頼される。現在は、コスタリカの大学や世界各国の研究機関から依頼を受けて、昆虫の調査やプロジェクトに携わっている。第5回「モンベル・チャレンジ・アワード」受賞。著書に『わっ! ヘンな虫 探検昆虫学者の珍虫ファイル』(徳間書店)など。
本人のホームページはhttp://www.kenjinishida.net/jp/indexjp.html
(日経ナショナル ジオグラフィック社)
[Webナショジオ 2015年11月24日付の記事を再構成]
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