「おそ松さん」に胸キュン 赤塚漫画六つ子の成長版

赤塚漫画の名作「おそ松くん」をリメークしたアニメ「おそ松さん」にはまる若い女性が増えている。成長して大人になった六つ子が織りなす下ネタやブラックジョークを交えた笑いが受け、関連グッズの売れ行きも好調、タイアップも相次ぐ。なぜ、彼女たちは「おそ松さん」にはまるのか。

自由奔放なキャラクター、母性本能くすぐる

竹書房や小学館が発行する「おそ松くん」原作本

「カラ松ってなんか憎めない」「トド松の『あざとさ』がとにかくいい」――。東京都町田市の女子高生(16)が楽しそうに友人と話しているのはアニメ「おそ松さん」のキャラクターについて。学校で今一番盛り上がる話題らしい。「アニメ好きじゃない子もみんな見ている」。スマートフォンの待ち受け画面にするほどお気に入りだ。

1月上旬、タイアップイベントを開催中のテーマパーク「ナムコ・ナンジャタウン」(東京・豊島)には平日にもかかわらず若い女性がひっきりなしに訪れた。赤、緑、黄色――。色鮮やかなパーカーを着ている人が多く胸元には緑色の「松の木」のイラストが。入場前にコートをわざわざ脱いでパーカー姿になる様は誇らしげに見える。

六つ子にはそれぞれテーマカラーがあり、パーカーの色で誰が好きかアピールしているそう。黄色のパーカーを着た千葉県我孫子市の女性(22)は五男十四松のファン。市販のパーカーにワッペンを付けて自作した。

「わかります?」。横浜市の女子大生(20)は青色のニットに黒の革ジャン姿でかっこつけとして描かれている次男カラ松になりきる。「この年でアニメにはまるとは思わなかった」。一見普通のファッションだがファンが見ればわかる、不思議な連帯感が味わえる。

(C)赤塚不二夫/おそ松さん製作委員会

「グッズに10万使った」と話すのは神奈川県平塚市の女性会社員(19)。購入したものは妹とシェア。「同じアニメを好きになったのは久しぶり。身近な人と盛り上がれるのはいい」。ナンジャタウンで販売する一部グッズは発注してもすぐに売り切れる状態が続き全体の売り上げは想定の4.5倍となった。

「おそ松さん」はギャグ漫画の王様、赤塚不二夫氏の生誕80周年を記念して作られたオリジナルアニメ。赤塚氏の名作「おそ松くん」の六つ子が現代にいたらどうなるかを描いた。放送開始は2015年10月で、現在第2クールが放送中だ。

イベントで提供されている特別メニューも人気だ
「おそ松さん」のイベントで、姉(右)が手作りした推し松バッグを手にする双子の姉妹(東京都豊島区のナムコ・ナンジャタウン)

「おそ松くん」が初めて雑誌に連載されたのは約50年前だが、女子中高生をはじめとした若年層の心をつかんだ理由はキャラクター設定のうまさにある。横浜市の女子大生(22)は「昭和顔なのにニートというのがツボ。私が働いて養ってあげなきゃと思うくらい好き。就活も頑張れた」。

◇          ◇

神奈川県平塚市の女子高生(15)が「パステルカラーを使ったおしゃれなデザインなのに下ネタやブラックジョークの盛り込み具合がすごい」と言うように大胆な表現も売り。「(放送時間が)深夜だしなるべくチャレンジングなことがしたかった」(土方氏)

テレビ東京によると「おそ松さん」は同じ時間帯に放送されるアニメと比べ約2倍の視聴率を獲得する。東京都豊島区の女子高生(16)は「やり過ぎって突っ込みたくなる」と言い、友人とツイッターでやり取りしながら見ている。参加型のライブ感も受けている。

トド松パフェを食べる女性(東京都豊島区のナムコ・ナンジャタウン)
カメラマンの求めに応じイヤミのシェーをしてくれたファン

タイアップも相次ぐ。15年末に開かれた同人誌即売会「コミックマーケット」(コミケ)に初めて出展した丸井グループは会場限定でバッジ付きの「おそ松さんミニ門松」セット(全2種、各5000円)を販売し、初日は開場からわずか90分ほどで完売した。五男十四松が野球好きということを受け「おそ松さん」のオリジナルグッズが付いた野球日本代表の企画チケットも販売された。

主婦と生活社(東京・中央)は「おそ松さん」のポスターを付録にした月刊アニメマガジン「PASH!」(16年2月号)で発売前に重版を決めた。おそ松さんの人気は原作にも及び発行元の竹書房(東京・千代田)や小学館が重版した。

自由奔放に生きてみたいと思っても現実社会ではなかなか難しい。笑ったり、時にはハラハラしたり。好き勝手に動き回る六つ子に振り回されている感覚が新鮮でいいのかも。ファンを巻き込んで六つ子の勢いはさらに増しそうだ。

◇          ◇

「声優の性格もキャラに反映」「だんらんが若い世代に響いたかも」――制作の裏話を聞く

ブームを巻き起こし、若い女性から熱烈な支持を集める「おそ松さん」。名作アニメのリメークは昔からのファンが付いているだけに難しさもある。テレビ東京の広部琢之副参事と土方真副参事に制作の裏話を聞いた。

――「おそ松さん」はどのように作られたのでしょうか。

土方氏「おそ松さんは6つ子が成長して今の世にいたらどうなるかを描いたオリジナル作品。以前の『おそ松くん』はどちらかというと、イヤミやチビ太など脇役が主役だった。6つ子の個性を出したいと思い、人気声優6人をキャスティングした。いずれも他の作品ではヒーローやイケメンを演じる実力派だ。6つ子のキャラクターは声優同士の関係や性格を反映させて決めた。走り方や座り方もそれぞれで全くちがう」

広部氏「大きな物語を作るというより、バラエティーやコントをつくる感覚で作っている。シリーズ構成の松原秀さんは実際にコントを書く放送作家だ。ツイッターで実況やツッコミをしながら見る人が多いようで、月曜の深夜1時枠としては平均の2倍ほどの視聴率がある」

――キャラクターデザインを変えようという話はなかったのでしょうか。

土方氏「イケメン風にすらっと8頭身にする案はあった。全員ニートという設定にしたのはナンセンスでシュールな原作の雰囲気を尊重するためだ。ダメな6つ子が大人になったら立派になるかというと、やっぱりダメ人間のままなんじゃないかと」

広部氏「昭和テイストなのが若い人には目新しいのかもしれない。絵柄自体は昭和風だが、全体はパステルな色調でまとめてアートっぽい印象のときもある」

――特に女性からの人気が高いようです。

土方氏「深夜アニメはだいたいターゲットがしっかり決まっているが、おそ松さんは全世代向け。というより女性向けとはいえない内容のときもある。女性が支持する形でのヒットは予想外だった」

広部氏「『推し松』や『松ガール』といった言葉が自然発生的に生まれるとは思わなかった。いい意味で期待度が高くなかったのがよかったのかも。6人が1つの家に住み、1つのテーブルを囲むというだんらんが、若い世代に響いたのかもしれない」

(鷹巣有希、岸本まりみ)

[日経MJ2016年1月18日付]

MONO TRENDY連載記事一覧