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 「女性のみ募集します」。トヨタ自動車やデンソーなど最大手メーカーや地方の著名企業が、女性総合職や専門職に焦点を絞った中途採用を始めた。これは職場の女性の割合の低さを改善するのに、例外的に許されるポジティブアクションという手法だ。重要なポストに就く女性を増やし、多様な視点を取り込んで商品開発に生かす目的がある。転職を希望する女性が注目し、応募者は膨らんでいる。
「周囲の社員の能力が高いことに刺激を受ける」と話す上ヶ市有希さん(愛知県刈谷市のデンソー)

「周囲の社員の能力が高いことに刺激を受ける」と話す上ヶ市有希さん(愛知県刈谷市のデンソー)

2015年8月、人材サービス業界からデンソーに転職した上ヶ市有希さん(30)が驚いたのは、採用までの速さだった。2回の面接で内定が出るまでわずか1週間。前職でシンガポールや香港に勤務し、現地人材を日系企業に紹介した時は、決定まで1カ月かかることもあったという。

人事部でグローバル人事制度の企画を担当する。「社員の能力を高める責任ある仕事。国内4万人、海外とあわせ14万人の社員のモチベーションを高めたい」とやる気満々だ。

上ヶ市さんの転職のきっかけは、デンソーが14年1月に女性管理職増員を主な目的に始めたプロジェクト「DP―ダイバーシティ」にある。同推進室企画課長の北村雅美さんは「女性視点を生かした商品開発で、黒子産業脱却を目指す意図がある。そのために女性管理職を増やさねばならない」と話す。目標は14年の時点で33人だった課長級以上の女性を、20年に100人にすること。しかし社内には女性総合職が少ない。「役員が社外からの女性採用に積極的だった」

トヨタ自動車も同様だった。人材開発部第1人事室長の山門豊さんは「トヨタの課長級以上の女性管理職は全管理職の1%強、111人。20年に3倍にしたいが内部昇格では到底届かない」と話す。

両社に共通するのは、首都圏外に本社や工場が分散する製造業であること。人材として最も欲しい工学系学部卒業生の女性比率は10%で、採用自体が難しいことだ。さらにトヨタの場合「本格的に女性総合職の採用を始めたのは1992年」(山門さん)と、積極的でなかった。女子学生側にも地方を避ける気持ちがあり、これら複合要因で両社は、百貨店などに比べ女性活用が大きく後れた。

男女雇用機会均等法で
「女性のみ採用」はどう変わったか
法改正
の時期
女性のみ
採用の可否
理  由
1986年の新法施行時できる女性のみを採用することは、女性の雇用拡大につながるとされた
99年施行の改正法原則禁止女性のみ採用を逆用し女性を一般職に固める企業続出。9条(現8条)でポジティブアクション法制化、指針・通達で雇用管理区分ごとに女性が4割未満の場合だけ可能に
2007年施行の改正法原則禁止同  上
15年の指針改正原則禁止部課長など役職についても実施可能に対象拡大

候補が少ないため内部昇格で女性管理職を急に増やすのは無理で、より積極的な手立てが必要になる。「女性のみ採用」は男女雇用機会均等法で99年以降原則的に禁止しているが、総合職など雇用管理区分ごとの女性数が4割未満の場合には許される。2015年末には部長、課長など役職者の募集も対象にした。デンソーは15年春に踏み切り、技術・事務両分野で上ヶ市有希さんら十数人が入社する成果を上げた。

トヨタはデンソーのように「女性のみ採用」とは明示していないが、14年秋から自社ホームページで「ポジティブアクション募集」を始めた。人材開発部主幹の川下俊輔さんによると「中途採用で従来数パーセントにすぎなかった女性応募者を増やすキャンペーンという意味が強い」という。効果は大きく、中途採用への女性応募割合は半分まで跳ね上がった。14年に約40人が入社、15年も約20人の採用候補がいる。中心は両社とも20代後半から40歳代だ。

採用で重視するのは「課長級以上へ昇格を期待できる伸びしろ」(トヨタ)で、デンソーもほぼ同じ。専門性をそれほど重視しない点が、即戦力採用を目指す通常の中途採用と異なる点だ。特にデンソーは職務を限定しない「オープンコース」を設け、応募者の職歴などに合わせて仕事を用意している。

「女性対象求人と書いてなかったら見過ごしていた」と話す井本彩さん(熊本県御船町の熊本バス自動車学校)

「女性対象求人と書いてなかったら見過ごしていた」と話す井本彩さん(熊本県御船町の熊本バス自動車学校)

地方の著名企業でも女性のみ採用が出始めている。熊本バスは15年9月からバス運転手と自動車学校指導員という、これまで女性がほとんどいなかった専門職種で募集を始めた。井本彩さん(32)は教習所指導員の養成員として採用され、5月の資格試験に向け猛勉強をしている。「長く働くため、資格を取って仕事をしたいと思った。ハローワークで『女性対象』とある求人を見て挑戦する気になった」と振り返る。

同社の中原信一郎常務は女性限定の理由について、学生から女性指導員を求める声があること、バス運転手の求人難と高齢化を挙げる。「これらの業務は女性に開かれているとのメッセージを伝えたいと考えた」

女性のみ採用は、女性活躍推進法が成立したこと、トップ企業が踏み切ったことで、今後拡大していくだろう。しかし求人内容を細かく見ると、使い方に疑問を感じることがある。男性が多い中小事業所で昔ながらの女性事務員を採りたい場合に、男性を排除するため女性のみ採用としている例があるのだ。女性求職者は企業の本音を読み取って応募する注意が必要だろう。(礒哲司)

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