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相続トラブル百科

地方でも都市部でも広がる 実家の相続を敬遠 司法書士 川原田慶太

2016/1/15

 「実家の名義は故人のままにしています。とりあえず誰も使う予定がないので」――。いつの頃からか、相続が発生しても実家の承継を敬遠するようなケースが現場でよく見られるようになりました。高度経済成長期以降、就職や進学のために大量の人口が地方から都市部へと流入してきたのはご存じの通りです。しかし、相続などを機に、都市部から再び実家のある地方へ戻るという流れにはなっていないようです。

 高度成長期に都市部に流入した層は、そもそも実家を離れてから長い年月がたち、生活の基盤をすでに都市部に築いています。マイホームなどの資産も、都市部近郊で形成しているケースがほとんどです。さらに、不動産だけでなく、人間関係などの「見えざる資産」についても、やはり都市部に軸足があるという家庭が大半でしょう。

 都市部に住み慣れた世代からすれば、遠方にある実家は物心ともに価値を感じにくい資産となってしまったようです。かといって、すぐに売却するというのも難しく、とりあえずは名義もそのままにしたまま放置しておこうか――というのがいまの状況でしょうか。

 この状況は地方から都市近郊へと移った「第1世代」だけに特有のものではありません。都市部の中でも、第1世代の子どもの「第2世代」に実家の引き継ぎ手が現れないという問題が噴出してきています。

 高度成長期、宅地開発の華やかなりし頃に都市部へと移ってきた層にとっては「都心から少し離れた、郊外の駅に戸建てのマイホームを購入する」というのが代表的なモデルのひとつでした。都市近郊のベッドタウンのなかには、駅まで行くのにさらにバスを使うというエリアも珍しくはありません。

 そして、その後の規制緩和や駅前の再開発などによって、都市の中心部に近い、アクセスの良いエリアに次から次へとマンションが登場する時代がやってきます。郊外の戸建マイホームに住み続けることは、理想的な標準モデルとはいえなくなってきたのです。

 都心でのマンション暮らしに慣れた第2世代にとっては、もはや郊外の実家は「価値の感じにくい資産」になり、第1世代と同様に、「使いづらい郊外の戸建てをもらってもなぁ……」という感覚で、実家名義の相続を先延ばしにする傾向が広がっています。

 引き継ぎ手が現れずに放置されている家の問題については、行政側なども対策に乗り出しています。2015年の制度変更で注目された空き家対策や、政策的な整備が進む中古住宅の評価・流通システムなどに代表されるように、大きな局面では変化が起きつつあります。

 ただ、いくら制度面が整っても、「実家の不動産に価値を見いだせない」という相続人の感覚はそう簡単には変わりません。きょうあすといった短いスパンで解決する問題ではなく、不動産の流通構造そのものにも絡む根深い問題なのかもしれません。

川原田慶太(かわらだ・けいた) 2001年3月に京都大学法学部卒。在学中に司法書士試験に合格し、02年10月「かわらだ司法書士事務所」を開設。05年5月から「司法書士法人おおさか法務事務所」代表社員。司法書士・宅地建物取引主任者として資産運用や資産相続などのセミナー講師を多数務める。

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