2016年1月中旬、中川政七商店の新店舗「中川政七商店表参道店」がオープンした。中川政七商店としては初の路面店で、日本の暮らしの道具を扱う中川政七商店の商品のほか、テキスタイルの「遊 中川」、土産物の「日本市」など自社ブランド、同社主催の展示会「大日本市」のメンバーブランドの商品を集結させた旗艦店となる。
2016年が創業300周年となる中川政七商店は、現社長の中川淳氏が13代目。富士通勤務を経て家業を継ぎ、10年足らずで店舗網を広げてきた。表参道店は45店舗目となる。
若者からシニアまで、客層は広く、特に消費をリードすると言われている女性に人気が高い。表参道店のオープニングイベントでも女性誌やインテリア雑誌、ブロガーたちが招かれ、その後、大量に情報がメディアで拡散された。中川政七商店のメディア価値を象徴する事例だ。
この好調さについて中川氏は、「特に東日本大震災以降、日本のものづくりが見直され、歴史や品質、ブランド力を兼ね備え、身の丈にあった日本の工芸品を普段使いする人々が増えた。それに対して、産地の作り手の姿勢も変わり、ヒット商品も生まれてきた」とその背景を分析する。
中川氏は、「そのときどきの当主が知恵を絞り、変革してきたからこそ今がある」とも話す。自身も麻織物の伝統工芸、奈良晒(ざらし)に始まる家業を、商品開発・製造から小売りまで自社でマネージメントするSPA(製造小売り)の業態に変えた。
2007年には「日本の工芸を元気にする!」というビジョンを打ち出し、全国の工芸メーカーと組んで商品プロデュースや経営コンサルティングまで手がけている。
長崎・波佐見焼のマルヒロと立ち上げた「HASAMI」はファッション性を取り入れてヒット、その手腕が評価された。今回、表参道店では、そら植物園代表の西畠清順氏が監修する植物ブランド「花園樹斎(かえんじゅさい)」を披露。小ぶりな植物を波佐見焼の鉢と合わせ、「“お持ち帰り”したい、日本の園芸」をコンセプトに、今度は園芸文化の復活を仕掛けている。
「伝統工芸ではなく、工芸として評価されるように進化ないといけない」と中川氏。「温故知新」という言葉があるが、古いものに新しさを加えることで、日本文化を再構築し、発信する。中川政七商店の手法や取り組みが、日本の工芸の今後や地方創生において、示唆するところは多い。
ビームスや藤巻百貨店も新店舗を出店
中川政七商店のように日本の伝統文化に注目し、全国の工芸品をセレクトし、製品のプロデュースやイベントを仕掛ける生活雑貨店がトレンドになっている。
ビームスでは、2015年4月に日本のモノ、コト、ヒトをキュレートするプロジェクト「BEAMS TEAM JAPAN」を始動、新宿のBEAMS JAPANをリニューアルする。総合アドバイザーは小山薫堂氏。「伝統は革新の連続。いま、あらゆるジャンルで、日本文化や芸術を引き継ぐ挑戦が行われている。その際に必要なのは、『目利き力』と『和えるセンス』。この二つを持ち合わせたビームスというクリエイティブ集団が本気で日本をブランディングする」とメッセージを寄せる。期待させるティザーサイトが立ち上がっている。
「モノづくり」「日本のスグレモノ」をテーマに2010年に上野・御徒町に初出店した日本百貨店も首都圏で現在6店舗を展開。このほか、商業施設での催事「出張!日本百貨店」も盛況で、2016年中に出店も予定している。
「日本」をテーマにしたネット通販の藤巻百貨店も、2016年3月、東京・銀座の東急プラザ銀座に日本中から選りすぐった工芸品などを扱うリアル店舗を出店する。日本百貨店は鈴木正晴コンタン代表、藤巻百貨店は中村亮カラモ代表と、目利き力と和えるセンスを持ったカリスマ経営者がタクトを振るい、ショップ作りを進めている。
中川氏は、「同じ志を持つ事業者が増えてきた。作り手にとってショップという出口ができることはいいこと」と歓迎する。
「昨今のインバウンド需要はボーナスのようなもの」「いまだに日本の工芸は(ビジネスとして)総じて厳しい」と考えている。「日本の工芸を元気にする!」ためには、産地の作り手と消費者をつなぐショップの果たす役割は大きい。
