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暮らしの知恵

介護離職ゼロに向けて ケアマネとどう付き合うか石山麗子さんに聞く

2016/1/13

暮らしの知恵

政府は「介護離職ゼロ」を掲げた。それには両立しやすい働き方に加え、安心できる介護サービスが欠かせない。カギを握るのは、ケアマネジャーとの連携だ。どうケアマネと付き合えばいいのか。事前の備えは何か。家族介護に詳しく、両立支援についての厚生労働省研究会委員も務めたケアマネの石山麗子さんに聞いた。

ケアマネの石山麗子さん

――なぜケアマネとよく話すことが大切なのか。

「介護保険制度の基本は『利用者本位』だ。ケアマネの研修も、ケアプランをつくる際に収集する情報も、利用者中心になっている。制度の仕組み上、家族への視点が薄い」

「家族自身に病気があったり、虐待の恐れがあったりするときは支援が必要だとすぐわかる。だが両立が大変かどうかは、外形的な事柄だけからは分からない。家族にどこまで聞いていいのか、ケアマネ自身に遠慮があることもある」

――どう話せばいいか。

「『自分は仕事を絶対に続けたい。それにはこんな難しさがある』と具体的に伝えることが大切だ。例えば『出社時間が早く、親が食事を食べたか、薬を飲んだかを確認できない』などと時間帯別、行為別に示すと伝わりやすい。仕事の内容、会社の介護への理解度など、情報が多いほうが、ケアプランに生かせる可能性が高まる」

――両立に役立つ介護保険サービスは。

「2015年度から、保険でカバーできるデイサービスの利用時間の上限が延長された。また家族の介護疲れを防ぐために、ショートステイをプランに盛り込むこともある」

「実際にどんなサービスが使えるかは高齢者の状態などで異なる。ただ制度上、突然の利用希望には対応しにくい難しさもある」

――介護保険だけでは両立が難しいのか。

「公的な制度であり、利用に様々な制約があるのは確かだ。保険外のサービスを介護保険のサービスに組み合わせることで、両立しやすくなることは多い」

「例えば高齢者がデイサービスから戻った際に、自費サービスのヘルパーが汚れ物の洗濯を始めておけば、家族の帰宅後の負担は軽くなる。配食や見守りのサービスもある」

「介護はいつまで続くか分からず、費用面の不安はあるだろう。ただ最初にしっかり体制を築くことで、長い目で見ると暮らしが安定することもある。仕事を続けるための投資と見ることができるのではないか」

――政府は育児・介護休業法を見直す方針だ。

「多くのケアマネが悩んでいるのは、働いている家族となかなか連絡が取れないことだ。見直しでは、介護休暇が半日単位で取れるようになる。ケアマネは少なくとも月1回、利用者宅を訪問している。半日の休暇があれば、落ち着いてゆっくり話ができる。高齢者本人と家族の考え方の違いも、その場で調整しやすくなる」

――「介護離職ゼロ」に向け、ケアマネも変わっていくべきでは?

「16年度からケアマネの研修が変わり、家族支援の内容が充実する。両立支援に詳しいケアマネは今後増えていくだろう。ただ、どうしても理解してくれないケアマネもいるかもしれない。その場合は事業所のトップや、地域包括支援センターに相談してはどうか」

――介護が始まる前から備えておくとよいことは。

「ひとりで抱え込んでしまうと負担が大きい。介護保険について基本的な知識を持ち、親が住む地域の地域包括支援センターの場所を知っておくと、早期に相談に行きやすくなる」

「親とも話をしてほしい。健康保険証はどこにあるか、持病の薬は何か。知らないと慌てる。延命治療への親の意向も確認しておきたい」

「大事なのは、親の地域での人間関係の情報だ。日ごろの様子を聞いたり、見守りを頼めたりすることもある。もしものときの話は切り出すのが難しいが、親が元気なうちのほうが聞いておきやすい」

 ◇   ◇

労働政策審議会は昨年12月、育児・介護休業法の改正に向けた建議をまとめた。政府は今通常国会に改正案を提出する方針だ。これまでにない抜本改正となる。

大きな柱は、介護休業の分割取得だ。今は父、母など介護が必要な人1人につき原則1回しか取ることができない。これが最大3回となる。

介護が必要になった直後、症状が進み在宅から施設に移るとき、みとりのときなど状況に応じ休みやすくなる。取得日数は計93日で変わらない。

日々の働き方も変わる。企業は短時間勤務、フレックスタイムなど4つのメニューの中から1つを設ける義務を負っている。今は休業と合わせて計93日だ。これが休業とは別の扱いになり、3年の間で少なくとも2回は利用できるようになる。

さらに、社員が申し出た場合、残業を免除する制度も新設される。育児ではすでに導入されている制度だが、育児が3歳未満までなのに対し、介護では介護終了までで期間制限がない。

別居の祖父母やきょうだいもこれらの制度の対象となる。少子化、未婚化が進み、家族の中で支え手になる人が減っていることの表れだ。政府は雇用保険からの休業中の給付も引き上げる方針だ。働きながら介護する人は今後さらに増えていくだろう。

介護のために離職する人は年間約10万人いる。働き盛りの社員が離職すれば企業にとって大きな損失だ。ただ、労務管理は容易ではない。

制度があっても取得が難しい風土であれば絵に描いた餅になる。介護中の社員が、職場で力を発揮できる仕組みをどうつくるか、制度見直しを機に、企業には一層の工夫が求められる。

いしやま・れいこ 国際医療福祉大学大学院修了、博士(医療福祉学)。東京海上日動ベターライフサービスシニアケアマネジャー。2015年6月から日本介護支援専門員協会の常任理事も務める。

(編集委員 辻本浩子)

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