1日3食の場合と、もっと多くの回数に分けて食べる場合では、どちらが健康にいいのか。「そんなの3食に決まっている」、と思う人が多いのではないか。
しかし、1日に食べる回数が多い人のほうが総摂取カロリー量は少なくなり、肥満度(体格指数BMI)も低いという報告がある。米国と英国の40代・50代の男女約2385人を対象にした研究で、1日の食事回数が4回未満の人と比較し、6回以上の人では総摂取カロリーが14%低下し、BMIは6%低かった[注1]。
もう少し若い、豪州の26歳から36歳の男女2775人で食事の頻度が健康に及ぼす影響を調べた研究では、男性では食事頻度が1日4~5回を超えると、ウエストが細くなる傾向があり、それに伴って空腹時血糖値や中性脂肪値が低下傾向を示した。女性では男性ほどの変化が見られなかったが、総コレステロール値が低下した[注2]。
さらに、いくつかのヒト介入試験をもとに食事回数と冠動脈疾患のリスクを検証したところ、食事回数が増えると総コレステロール値などの脂質関連指標が下がる傾向が確認された。特に低下したのは、1日6回以上に分けて食事を摂取したときだ。その理由について、研究班は次のような仕組みではないかと考察している。
1.食事1回あたりの糖質摂取量が減るため、血糖値の急上昇が避けられ、血中の糖を処理するために分泌されるホルモンであるインスリンの量が減る
2.脂質合成量を増やすインスリン量が少なくなることで、肝臓のコレステロール合成量が減る[注3]
[注2] Br J Nutr.;108,1086-1094,2011
[注3] Nutr Rev.;67,10,591-598,2009
ドカ食いや極端な空腹避ける効果
インスリンが大量に分泌されると、血中を流れる糖や脂肪が脂肪組織にたまりやすくなり、同時に血糖値も急降下するためすぐにお腹が減るという悪循環に陥る。
「食事と食事の間が長く空くと、脂肪から遊離脂肪酸が大量に出てくる。この遊離脂肪酸は空腹信号となるため次の食事での食べ過ぎを招き、また食べたものを筋肉でエネルギーとして使う機能を鈍らせて太りやすい状態にする危険性がある。これを防ぐために間食は有効」と大妻女子大学家政学部の青江誠一郎教授は話す。
確かに、食事の回数を増やすことで、ドカ食いや極端な空腹を避ける食生活には一理ありそうだ。では実際に、上記の研究が挙げている「1日6回食」をするにはどうしたらいいか。一般的な食生活を考えると、朝昼晩の3食をやや軽めにし、間食を2~3回加えるといったパターンになるだろう。
「正しい間食習慣によるダイエットや健康の管理、つまり健康的なsnacking(スナッキング)が米国で話題を呼んでいる。スーパーなどにおける売り場もこの1年で倍以上の大きさに拡大しているところが多い。メディアで、セレブが好む健康的な間食の種類やブランドが報道されるたびに話題になる」と、米国の流通事情に詳しいエムディ・ソリューションズの大橋和幸社長。
「トレイルミックス」と呼ばれるナッツ、ドライフルーツやチョコをミックスした商品、チーズやカットフルーツといった自然素材のスナックが人気だという。
求められる「正しい間食」
「健康的な間食習慣=ヘルシー・スナッキング」は、今の日本にも必要な考え方だろう。
なぜなら、日本の2人以上の世帯における菓子の購入金額は1987年以降主食であるコメの購入額を上回り、2014年では菓子が月平均5157円、コメが1995円と、2.6倍もの差がついているからだ(家計調査より)。
健康的な食生活のためにはコメを中心とした伝統的な食事スタイルの立て直しも必要だが、ここまで購入金額が大きくなった菓子の機能性を高め、健康的な食べ方を広げるというのも一策ではないか。前述の豪州で行われた研究でも、研究班は4回以上の食事回数になるときに最も大きな比率を占めるのはスナック類だとしている。
過去に掲載した「実は怖い「やせのリスク」 生まれてくる子供にも影響」でも触れたように、摂取カロリー不足でやせている若い女性は5人に1人を超えている。また、食が細くなった高齢者の栄養補給源としての間食の重要性も指摘されている。「積極的にとるべき間食」のあり方が問われているのだ。
日経BP社が20~30代の女性300人を対象に行った間食に関する調査では、間食をよくする人とまあまあする人を合わせると80%を超え、多くの人に間食習慣が定着していることがわかる。しかし、その目的は50%が「気分転換」、48%は「ストレスの緩和」で、62%の人が「たくさん食べると太ってしまう」と答えていることから、少し引け目を感じながら手を出している様子がうかがえる。まだまだ「栄養補給源」や「過度な空腹を抑える」といった目的でとっている人は少ないようだ。
一方2015年に、企業の責任において安全性と機能性を担保し、その科学的根拠についての届出を消費者庁が受理すれば、商品に「ストレスをやわらげる」「疲労感を軽減する」「肌の調子を整える」といったこれまで食品類では認められなかった機能性表示が可能になったこともあり、健康に配慮した菓子の登場が目に付くようになった。
たとえば、「間食から、適時食へ」をスローガンに、新しいスイーツシリーズとして「SWEETS DAYS(スイーツデイズ)」を2015年3月に発売したのがロッテだ。果実入りグラノーラタイプとクランベリーを丸ごとチョコレートで包んだ2商品を皮切りに、12月8日にはチョコレートで乳酸菌を包むことで生きたまま腸に届くように設計した「乳酸菌ショコラ」の2タイプを相次いで市場投入した。
同シリーズの責任者である同社マーケティング統括部第二商品企画部新商品企画室の山下幸治室長は、「朝食欠食率が高くなり、21時以降に夕食をとる人が増えている現代日本人の食事傾向を踏まえると、健康維持のために間食が果たすべき役割の重要性が高まっている。そこで、食事と食事の間においしく栄養補給できるように考えたのがこのシリーズ」と語る。2015年4月~12月末までの同シリーズの売り上げは、当初計画を130%上回る好調な出足を見せている。
また、おつまみや珍味などの水産加工品を中心に製造販売を行う合食の砂川雄一代表取締役社長は「このところスティックタイプのスルメの売上が急激に伸び、年間5億円に達している。調べてみると、購入層の中心は、従来あまり珍味を購入していなかった30代の若い主婦層。我々の知らない間に新しい顧客と新しい食シーンが生まれていたようだ。今後も、低カロリーでしっかり噛むことのできる健康的な間食という市場が一層拡大していく手ごたえを感じている」とする。
同社はこうした市場の動きを受けて、「ひとくちするめスティック」「ひとくちごぼうチップ」といった加工度が低い自然素材の菓子シリーズ「ハレル」の展開を始めている。
健康的なスナッキングの条件
冒頭で触れたように、間食の意義は食事と食事の間にお腹が減りすぎて次の食事でドカ食いをするのを抑えること、一度に大量の糖を摂取しないようにして血糖値の急上昇を避けることなどにある。が、間食のとり過ぎは逆効果であり、また夕食後夜遅い時間帯に間食をするのも生体リズムを司る体内時計を狂わせる原因になる。
では、望ましいスナッキングとはどういうものか。「空腹物質である遊離脂肪酸は、糖が体に入ると分泌が止まる。そのため、間食にはある程度糖が含まれる方がいい。しかし、血糖値が急上昇したら太りやすくなり元も子もないので、食物繊維やたんぱく質が多いものを選びたい」と青江教授。
こうした間食は、胃の中の滞留時間も長くなり、お腹もすきにくくなるという。噛む回数が多くなるため満腹中枢の刺激作用もある豆やナッツ、ドライフルーツ、スルメといった加工度の低い素材を使った菓子や、高たんぱく低カロリーのヨーグルト、食物繊維が多いカカオ高配合のチョコレート、バータイプの菓子などがよさそうだ。
また、間食1回あたりのカロリーは200kcalくらいにとどめるべきと専門家は口をそろえる。ナッツやドライフルーツなら片手の平に乗るくらいの量が目安だ。青江教授は、「間食したらその分のカロリーを3食から引き算するようにしたい。間食分のカロリーを3食にプラスオンするような食べ方をするとやはり肥満してしまう」。
整理をすると、ヘルシー・スナッキングのポイントは以下のようにまとめられそうだ。
●「質」 食物繊維やたんぱく質が多く血糖値が急上昇しない。噛み応えがあり、現代人に不足しがちなビタミンやミネラルの補給ができるとさらにベター
●「量」 1回200kcal程度までとし、食べた分のカロリーは3食から引く(1日の摂取カロリーは増やさない)
●「タイミング」 お腹がすき過ぎる前にとり、間食をする時間帯は朝昼晩の3食の間が基本
最後に、ちょこちょこ食べるのは歯に悪い、という指摘があるので、こまめなマウスケアは忘れないようにしたい。

日経BPヒット総合研究所 上席研究員・日経BP社ビズライフ局プロデューサー。小学館を経て、91年日経BP社入社。開発部次長として新媒体などの事業開発に携わった後、98年「日経ヘルス」創刊と同時に副編集長に着任。05年1月より同誌編集長。08年3月に「日経ヘルス プルミエ」を創刊し、10年まで同誌編集長を務める。早稲田大学非常勤講師。