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「ハラル対応ホテル」が浅草にオープン ムスリム重視

2016/1/23

日経トレンディネット

 2015年10月に発表された国土交通省・観光庁の観光統計によると、2015年7~9月のインバウンド(訪日外国人)の旅行消費額は1兆9億円。前年同期より約82%増え、1四半期で初めて1兆円を突破したという。

 そんなインバウンドブームに対応すべく、2015年12月17日にオープンしたのが、「リッチモンドホテル プレミア浅草インターナショナル」。全国34カ所で展開しているビジネスホテル「リッチモンドホテル」初のインターナショナルブランドのホテルだ。

2015年12月17日オープンの「リッチモンドホテル プレミア浅草インターナショナル」(台東区浅草2-6-7)。6階~13階が客室(270室、うちツイン119室) 。向かいには2012年にオープンした「リッチモンドホテル浅草」があり、宿泊客の約4割が外国人観光客だという
5階のラウンジからはスカイツリーも見える

 同ホテルを運営しているアールエヌティーホテルズ(東京都世田谷区)によると、近年増加しているムスリム(イスラム教徒)観光客への対応を重視し、同ホテル内のレストランで日本イスラーム文化センターの認証を受けたハラル対応メニュー4種を販売するなど、独自のサービスを展開するという。

 アールエヌティーホテルズは「ロイヤルホスト」などを運営するロイヤルホールディングスのホテル事業部門。リッチモンドホテルは、民間調査会社(J・D・パワーアジア・パシフィック)による2015年国内ホテル満足度調査の1泊9000~1万5000円の価格帯で最も高評価を得ている。過去3年にわたるロイヤルホールディングスの増益・増収を牽引しているのも、好調なこのホテル事業だそうだ。

 増加する外国人観光客に配慮した宿泊施設は都内を中心に増えているが、ほとんどが中国や台湾、韓国などのアジア諸国や欧米からの観光客向け。ハラル対応ホテルの中身とはどんなものなのか。

客室「ビュールーム ツーベッド」(27平米、2万円~)
13階の「プレミアムビュールーム」(27平米・30平米、2万2000円~)の窓からは浅草寺とスカイツリーが間近に見える

■“礼拝”対応サービスが充実、手足を清める洗い場も

 同ホテルがあるのは伝法院浅草寺裏という浅草観光には絶好のロケーション。1階エントランスを入りエレベーターでフロントがある5階に上がると、スカイツリーが臨めるラウンジがある。フロント奥には、多言語に対応できるコンシェルジュが待機。3台配置されている端末機では、目的地を検索するとホテルからの最短交通ルートとQRコードが表示され、個人のスマホにデータが伝送できる。また12カ国の通貨に対応する外貨両替機も置かれている。

 こうしたサービスはほかのホテルでも見かけるが、目を引いたのが5階に設置された「洗い場」。ムスリムは礼拝の前に手足を洗い清める習慣があるため、水場が必須なのだという。客室には、海外の約9割の国の規格に対応可能なマルチコンセントが3カ所に配置。アイロンなどの無料貸し出し備品のひとつに、ムスリムの礼拝に必要なマット、礼拝するときの方向を調べる「キブラコンパス」などが用意されているのも特徴だ。

5階には礼拝前に手足を洗うための洗い場がある
フロントに申し込むと無料で貸してくれるムスリムの礼拝キット

エレベーター内のコインランドリーや自動販売機の表示は文字ではなくピクトグラム(絵文字)
フロントには12カ国の通貨に対応できる外貨両替機がある

■厳格な基準に則って作られた「ハラルミール」の味とは

 日本を訪れるムスリムの観光客が最も困るのが食事だという。というのも、「豚肉と豚由来のもの」「イスラムの作法に則らずに屠畜された家畜」「野生動物の肉及び各部位」「お酒」などを口にすることが禁じられていて、ハラル(戒律で許されたもの)しか食べてはいけない。

 この戒律は非常に厳密で、アルコール由来の調味料、豚肉を調理したものと同じ製造ラインで作られた加工品を食べることや、ほかのものといっしょに洗った食器を使うこともご法度だ。

 そこでロイヤルホールディングスの子会社「ロイヤル」(福岡市)では、福岡セントラルキッチンに日本イスラーム文化センター(東京都豊島区)の認証を受けた専用の製造ラインを設置。同センターの助言・支援を受けながら半年かけて開発を進め、4種類の弁当「ハラルミールBOX」のハラル認証を取得した。このホテルでは当面、宿泊客のプレミアラウンジでの朝食ブッフェメニューのひとつとして、「ハラルミールBOX」(弁当)を販売する(前日21時までの予約が必要)。

 4種類のうち、和食の「白身魚の柚子餡&鶏めし」、洋食の「バターチキンカレー」を試食した。和食は全体的に上品な味付けでおかずのバランスが良く、バターチキンカレーはスパイスの効いた本格的な味。弁当としてはかなりハイレベルな味で、普通の料理との違いは全く分からなかった。

朝食ブッフェで食べられる「ハラルミールBOX」。和食が「鰆の照り焼き&ごぼう飯」「白身魚の柚子餡&鶏めし」、洋食が「ハンバーグ&ビリヤーニ風」「バターチキンカレー」の計4種類
ハラルに基づいた調理をしたあと、誰も手が触れていないことを証明するため、密封した状態で提供される。洗い物が禁じられているものに触れてもいけないため、すべて使い捨て容器

 店舗では調理をせずに電子レンジで弁当を温めてご提供する形をとったのは、日本イスラーム文化センターの厳格な基準に基づいたハラル専用厨房をレストランに設置するのが難しいと判断したため。電子レンジによる仕上がりにムラができないよう、各食材の量、配置、包材などに調整を重ねたという。

 ハラル認証を得た弁当はなんば大国町(大阪市)や、プレミア武蔵小杉(川崎市)などの既存のリッチモンドホテルでもテスト販売しており、今後は全国のリッチモンドホテルで順次展開していく計画。さらに空港内レストラン、社外にも販路を拡大していく予定で、すでにムスリムが参加する研修会、ムスリムの学生が通う学校などから引き合いが多くあるそうだ。東京五輪など今後もハラル食の需要が増えると想定されるため、さらにノウハウを蓄積していきたいという。

 東南アジアの人々の多くは、日本に好意や憧れを抱いているといわれる。にもかかわらず、東南アジアの富裕層が旅行先としてタイやマレーシアを選ぶのは、「日本でハラル食を提供する飲食店がほとんどないから」だと日本イスラーム文化センターのクレイシ・ハルーン・アフマド事務局長は指摘する。

 全世界のムスリムの食マーケットは全世界で約60兆円ともいわれ、日本は大きなビジネスチャンスをみすみす逃しているともいえる。日本でのハラル食市場が拡大すれば、インバウンドの主役は大きく変わるかもしれない。

(ライター 桑原恵美子)

[日経トレンディネット 2015年12月22日付の記事を再構成]

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