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介護現場 「辞めない」職場づくり 技能磨いて給料アップ

2016/1/6

大量に必要な介護の担い手を確保できるのか。政府は「介護離職ゼロ」を目標に掲げるが、現場からは「仕事がきつい割に賃金が低い」「働き続けても給料があまり上がらない」と不満の声が上がる。働きたい人の意欲をどう後押しし、働きやすい環境を整えていくか。工夫をし始めた事業者の動きを追った。

「人手が足りず、入居者に話しかけられても向き合う余裕がない」。都内の特別養護老人ホームで働く男性職員(27)はこう漏らす。週5日勤務で、職員2人で担当する夜勤を月4回こなす。月給は手取りで20万円強だ。「30代後半の同じ正規職員の月給も僕とそんなに変わらない」。親の反対を押し切って介護の仕事に就いたが、「このまま続けるべきか悩んでいる」という。

介護労働安定センター(東京・荒川)の2014年度の労働実態調査によると、介護に従事する人の平均勤続年数は5.1年。施設などで働く介護職員と訪問介護職員を合わせた年間離職率は16.5%だ。厚生労働省の14年の調べでは施設で働く介護職員の平均賃金は月約22万円と全産業平均より11万円ほど低い。景気の回復に伴い、介護以外の業種に転職する人も増えている。

介護の現場で働く人たちに聞くと、「責任の重い仕事なのに給料が安い」(神奈川、28歳男性)、「長く勤めて技能を磨いてもちゃんと評価してもらえない」(大阪、29歳女性)、「非正規労働者はがんばっても権限のある役職に就けない」(東京、31歳女性)という声が目立つ。

そんな中、職員の処遇を改善しながら働く意欲を後押しする独自の制度を取り入れる動きが出てきた。関西で特養などを運営する社会福祉法人、あかね(兵庫県尼崎市)は「ケアマイスター制度」として、「マイスター」「プラチナ」「ゴールド」など5段階の認定資格を設けている。職員に定期的に筆記と実技の試験を受けさせ、介護の専門知識や技能の習得度などに応じて資格を与える。

試験問題は熟練者が作り、合格した職員には資格の階級に応じて月収に一定の金額を上乗せする。勤務中に首からぶら下げたり胸元に付けたりするカード型の認定証は資格によって色が違う。誰がどの資格なのかが互いに分かる。

最高位の認定資格「マイスター」に合格した福田さん(写真(右)、兵庫県尼崎市のアマルネス・ガーデン)

あかねの特養、アマルネス・ガーデン(兵庫県尼崎市)で働く福田望さん(36)の胸元には黒地に白い文字で氏名を示したマイスターの認定資格証が光る。通称「ブラックカード」で、総勢500人超の中で試験に合格した精鋭8人だけが持つ最高位の証しだ。

大学を卒業して02年に入社した当時は「介護の仕事は不安だった」。だが次第に介護の専門知識や技能に興味がわき、国家試験の介護福祉士やケアマネジャーの資格を取った。09年にケアマイスター制度ができてからは「技能を磨いたら評価され、月収も上がるので励みになる」と話す。

福田さんはマイスターに合格してから基本給のほかに毎月3万円が上乗せされるようになった。年収は約560万円。「夫と同じぐらいもらっているので、もう仕事を辞めるという選択肢はない」とほほ笑む。

派遣労働者やパートなど非正規で働き始めた人も、技能を磨いて社内の認定資格試験に合格すれば給料が上がり、責任ある仕事に就ける会社が現れた。関西に40カ所以上の施設を運営するスーパー・コート(大阪市)だ。

派遣社員から正社員となり技能を磨く諸橋さん(写真(右)、大阪府八尾市のスーパー・コート八尾) 

同社の有料老人ホーム、スーパー・コート八尾(大阪府八尾市)で副主任として働く諸橋由香さん(29)はもともと派遣社員だった。5年前に働き始めた当初は「こんなに続けられるとは思っていなかった」。だがパートから正社員に転換し施設長になった松谷直巳さん(50)らと働くうちに「介護のプロになりたい」と思い始めた。

10年秋には正社員になり、13年には副主任に昇格。国家試験の介護福祉士の資格を取り、今では高齢者の介護計画を作る責任者として活躍する。キャリアが上がり月収も増えた。諸橋さんは現在、副主任や介護福祉士として1万4千円、社内の認定資格合格者として8千円の計2万2千円を毎月上乗せしてもらう。同社の山本晃嘉社長は「こうした取り組みが社員の定着率向上につながってくれれば」と話す。

政府は15年度の介護報酬改定で全体の改定率は切り下げたが、介護職1人あたり月1万2千円相当の給与増につながるように加算金を手厚くした。それでも全産業の平均との差は大きいままだ。

介護保険制度はサービスの内容と提供する時間で報酬額が決まっており、事業者はその範囲内で職員に賃金を払う。経営コストを減らし、その分を賃金に回そうと努力する事業者は限られている。

介護人材を確保するにはどうすればいいのか。「お客さんに選んでもらうという姿勢でサービスの質を高め、増えた利益を職員に給料として還元する好循環にすることが重要だ」とあかねの松本真希子経営統括本部長は話している。(編集委員 阿部奈美)

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