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 18歳の位置づけが今年大きく変わる。選挙権年齢が引き下げられ、18歳以上が投票できるようになるためだ。とかく大人は若者を軽く見る。世間知らずと批判するのはたやすいが、その純粋さは大きな可能性も秘める。今年18歳を迎える男女は約120万人。日本や社会の将来を拓(ひら)く高校生を2回にわたり紹介する。まずは起業を夢見る若者の現場から。
最終選考に向けプレゼンの練習を繰り返す河本咲実さん(中央)ら三国丘高校のメンバー(堺市)

最終選考に向けプレゼンの練習を繰り返す河本咲実さん(中央)ら三国丘高校のメンバー(堺市)

「通信制大学の経済学部に進みたい。大学に通う時間を浮かせて、その分、ビジネスプランをできるだけ早く実現したい」

東京都の青稜高校3年、河崎奎太(17)は昨年12月に進路希望を変えた。「高校生ビジネスプラン・グランプリ」(日本政策金融公庫主催)で今月10日に開かれる最終審査に残った。応募総数約2300件の中で最終審査に進んだのはわずか10件。国産杉を利用した「ユニットタイプの箱型教室」の開発・販売プランを立てた。その過程で知り合った建設・林業関係者らに「応援するから具体化しては」と背中を押された。

高校2年の秋に校舎が改築された。真新しい教室で授業が始まると間もなく、級友が「鼻水が止まらない」「気分が悪い」と訴えた。床ワックスや塗料などが体に影響する化学物質過敏症だった。

興味を持って調べてみると、国内には症状が重篤なため、学校に通えない児童・生徒が多数いると知り、心が動いた。河崎は過敏症ではないものの、当時原因不明の痛みに悩み、病欠が続いていた。「学校に行きたくても行けない。そのもどかしさは人ごとではなかった」

過敏症の原因と対策を徹底的に調べた。インターネットで分からなければ国や自治体、建設業者などに電話して尋ねた。杉材が化学物質の浄化作用に優れていると聞き、その活用をひらめいた。「校舎を丸ごと建て替えるとコストも工期もかさむ」。教育関係者のそんな本音も聞き、教室単位で改修・改築可能な商品にした。建築士や木材業者の助けを得て試算したプランによれば教室1つを約300万円でつくれる。

 「僕にとってビジネスは金もうけではなく、困っている人のために何かすること」

手本は母だ。2年前に会社を辞めて学童保育を突如立ち上げた。子どもたちのために何かしたいとの思いからだという。その母も応援してくれている。「資金集めなど課題は山積。でもせっかくの縁。前に進みたい」

同グランプリは高校生の創業意識向上を狙い2013年度に始まった。応募は年々増加、大人顔負けの問題意識で事務局をうならせるアイデアが目立つ。「少子高齢化や地域活性化など社会問題への関心が予想以上に高い」と日本政策金融公庫創業支援部の斎藤健一は話す。

プランには既存商品・サービスとの差異、想定する顧客層、収支計画などを盛り込む。高校生なので即、起業は難しいが、目ぼしいプランは同公庫が継続的に支援し、創業機会を探る。

少子高齢化の恐ろしさは、社会全体が守りに入りやすいこと。年齢を重ねると人は過去の経験や常識にとらわれ、リスクを避けたがる。若い世代の斬新な発想は次代を担う貴重な種だ。産業創出につながる可能性の芽を、上手に育てていく必要がある。

河崎と同様に最終選考に残った大阪府立三国丘高校はフィリピンの貧困問題解決を目指す。現地で若年層にオンラインで日本語を教えて職業教育(福祉や建設など)を受けさせた後、日本の就職先をあっせんする。受講料は就職後の後払い。労働力人口が減っている日本にも益がある。プランは同校2年の6人グループがつくった。河本咲実(17)はその中心メンバーだ。

 「世界には紛争や貧困が日常的な国がある。なぜなのか。解決に関わるのが夢」

三国丘高校は国の「スーパー・グローバル・ハイスクール」の指定を受けている。英語で国際問題を学び、海外でフィールドワークもする。河本は昨夏、フィリピンに行き、貧困の現実を目の当たりにした。「信号待ちのクルマに幼い女の子が花を売りにくる。貧しくて学校に通えない。でも教育を受けていないから就ける仕事も限られる」

ビジネスとして何か支援はできないのか。グループ6人で議論を重ね、アイデアを練り上げた。年末年始は最終審査に向けて準備に追われた。目指すはグランプリ。ただ河本のゴールはそこではない。

「平和な日本にいれば楽。でも自分の目でもっと世界を見て回り、世界の役に立ちたい」(文中敬称略)

日本の活力低下を実感

今年18歳を迎える1998年生まれは男性61万人、女性59万人の計120万人。98年は長野冬季五輪が開かれ、高校野球では松坂大輔投手を擁する横浜高校が春夏連覇した。米国同時多発テロの時は3歳くらいで記憶にないだろう。

日銀によるゼロ金利政策のスタートは99年。低金利が当たり前で好景気にわいた経験は乏しい。小学生のころ日本の人口が減少に転じ、中学生では国内総生産(GDP)が世界3位に転落。日本の活力低下を目の当たりにしてきた。

物心ついたときからインターネットが普及し、デジタル能力には長(た)けている。ネットを駆使して世界中の情報に触れられるため国際感覚に優れた一面も持つ。

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