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年末といえば古典落語「芝浜」だ

立川談笑

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NIKKEI STYLE

 年末といったらこの一席。今回は古典落語「芝浜」の話をします。今年も大変お世話になりました。みなさまよいお年を。

「芝浜」は以前この欄で扱った「文七元結(ぶんしちもっとい)」と同じく、「人情噺(にんじょうばなし)」の代表格です。三題噺として誕生したといいます。三題噺とは、主に人、場所、物品のお題をお客様からいただいて、その場で落語に仕立てるものです。題は「酔っ払い、芝浜、革財布」。作者は大円朝と称された三遊亭円朝ともいわれるが確証はないそうです。なんだかあやふやですが、成立当時はさほど注目される演目でもなかったのではないかと想像できます。

というのも、のちに三代目桂三木助師匠が施した演出によって、味わい深い人情噺になったとされているからです。さらにその後も、あまたの名人たちが話に磨きをかけ、それぞれの人生観なりを反映させて「芝浜」は今に受け継がれています。師匠談志の「芝浜」は、時代によって演出がずいぶん変わっていて、残っている音源を聴き比べるとその変化に驚きます。

「芝浜」のあらすじを紹介します。

主人公は、魚屋稼業の勝五郎さん。通称うおかつ。天秤(てんびん)棒を担いであちこちの町内を売り歩くのが商売です。ところがこの男、酒が大好きで長らく仕事に行かなくなってしまった。

そんな冬のある朝、女房が嫌がる男を起こしてようやく魚河岸に行かせます。寒い中、しぶしぶ出ていった男が河岸に着くと、まだ刻限が早かった。

「時を間違えて起こしやがった。戻るのもナンだし、浜にでも下りてみるか」

芝の浜に出て、朝日を拝んだり海水で口をゆすいだりして、タバコを一服。ふと海中に何かを見つけて拾いあげてみると、革の財布。中を見てみると大金が入っていたから、もう仕事どころじゃない。慌てて家に持ち帰って、女房とふたりで金勘定が始まります。

「いくら、ある?」

「四十二両」

「そうか、うわっはっは!」

亭主はさっそく友達を呼び集めて、飲めや歌えのドンチャン騒ぎ。もちろん今後一切仕事に行く気なんかはありません。なにしろ大金があるんだから働かなくたっていいんだ。飲んで笑って寝てしまう。

その翌日。女房が、亭主を起こします。

「おまえさん、稼ぎに行っておくれ」

「昨日芝の浜で拾った金があるだろう」

「拾ってないし、仕事にも行ってないよ。そんな夢でも見たのかい」

女房はウソをついて、亭主が金を拾ったことをすべて夢のせいにしてしまいました。押し問答の末。

「そうか、夢か。金を拾ったのが夢で、散財したのは本当ってことか。すまねえ。俺が悪かった。もう二度と酒は飲まねえ。勘弁してくれ」

勝五郎はすっかり心を入れ替えて仕事に精を出します。

そして数年の月日がたった、大みそかの夜。すっかり羽振りがよくなった魚屋夫婦が、除夜の鐘を聞きながら福茶を飲んでいます。もう昔のように借金取りを怖がることもない。穏やかな年の瀬です。そこで古い革財布を持ち出す女房。

「この財布に見覚えはない?」

「そういや、昔こんな財布を拾った夢をみたことがあったっけ」

「夢じゃなかったんだよ。あたしがウソをついていたんだよ」

当時、大家さんに問い詰められて、拾った金を着服したら罪に問われるからと仕方なく奉行所に届けて、と涙ながらの打ち明け話がはじまります。

「こんなに長い間、俺をだましてたのか!」

「ごめんね。だってあの頃のあんたは」

話を聞かされるほどに、亭主はかつての自分のふがいなさを思い出し、また女房の深い愛情に心を打たれます。

「いや、俺が悪かった。いいから、もう手を上げてくれ」

「怒ってないの?」

「おまえは出来た女房だ。礼を言うのはこっちの方だ。ありがとう」

夫婦の間にはわだかまりも隠し事も、もうありません。

「おまえさん一杯飲む?」

「よし、飲もう」

久しぶりの酒を目の前して、勝五郎がぽつりとひとことつぶやいて、幕となります。

うーむ。あらすじはあらすじですね。実際の高座に接して、ぜひとも空気感を味わっていただきたいところです。落語家それぞれで味わいが違って、聴き比べるには絶好の演目だと思います。

かくいう私も「芝浜」を演(や)ります。「芝浜」と「芝浜・改」とのふた通り。「芝浜」にもずいぶん手を入れているので、上に記した一般的なあらすじとは違う箇所がいくらもあります。さらに「芝浜・改」の方は、なんと現代版です。魚屋ではなくてトレーラーの運転手。酒じゃなくて、違法薬物という。とんでもないことになっているのですが、これはこれでおかげさまで評判が良いのです。これについてはエピソードがあって。

数年前、その評判を耳にした師匠談志に尋ねられました。

「どんな話なんだ?」

「トレーラーの運転手が早朝の公園でジュラルミンケースを拾って……」

「あはは。面白いじゃねえか」

とその時は収まったのですが、3日ほどして電話がありました。

「あのな。『芝浜』っていうのは、俺も含めて数々の名人が大切にしてきた話なんだ。それを薬物とはけしからん。禁演とする」

「はい」

と、禁演落語の処分と相成ったのです。これには私の周囲もずいぶん面白がったものです。そうなると師匠の命令ですから、私としても高座にかけるわけにはいきません。とはいえ困るというより、むしろ楽しい気分でした。演目と引き換えに、ネタがひとつ増えたみたいな。

しばらくして、談志の雰囲気が変わってきました。どうやら、わりと評判のいい落語を弟子から取り上げたことを気にしているようでした。

「いくら『やるな』って言ったって、どうしてもやりたきゃやるもんだよな」

「ダメだって言っても、どうせ隠れてやるんだよ」

うはは。遠回しに何か言ってるな、とはわかるのですが気づかない風を貫きます。そのうちに、しびれを切らしたようで。

「シャブでも何でも、やりたきゃやれい!」

知らない人が聞いたら何事かと驚くセリフです。

芝の浜とは、場所でいうと今や東海道線や新幹線が通る線路のあたりでしょうか。そこに正伝寺さんというお寺があって、年末になると「江戸前☆芝浜落語会」と称して私の独演会を開いていただきます。初代立川談笑の墓石があるのが縁です。

「芝浜」は落語家である私にとって、様々な思いに満ちた一席でもあります。

さてと、今夜は師匠の若い頃の音源を聴きながら一杯やろうかな。

(次回は1月13日の公開予定)

立川談笑(たてかわ・だんしょう) 1965年、東京都江東区で生まれる。海城高校から早稲田大学法学部へ。高校時代は柔道で体を鍛え、大学時代は六法全書で知識を蓄える。予備校講師など様々なアルバイトを経験し、93年に立川談志に入門。立川談生を名乗る。テレビの情報番組でリポーターを務めながら芸を磨く。96年に二ツ目昇進、2003年に談笑に改名。05年に真打昇進。古典落語をもとにブラックジョークを交えた改作に定評がある。十八番は「居酒屋」を改作した「イラサリマケー」など。
<今後の予定>ゲストも参加する「新春談笑ショー」2016年1月12日に開かれるほか、独演会2月6日、3月6日、4月13日の予定。吉笑(二ツ目)、笑二(同)、笑坊(前座)の弟子3人とともに武蔵野公会堂(東京都武蔵野市)で開く一門会は1月29日の予定。
立川談笑HP http://www.danshou.jp/

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