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凍結した卵子で将来妊娠できる確率は低い

日経DUAL

2016/2/5

不妊治療専門施設の黒田インターナショナル メディカル リプロダクション(東京都中央区)院長の黒田優佳子先生に「卵子の凍結保存の難しさ」と「採取した精子を凍結するタイミングの重要性」について詳しく聞きました。

■なぜ卵子の凍結保存は難しいのか

――精子の凍結に比べて、卵子の凍結はさらに難しいそうですね。それについて詳しく教えてください。

黒田優佳子さん 産婦人科医師。生殖医療(不妊治療)・生殖生理学を専門とし、ヒト精子の受精における情報伝達機構の解明や、顕微授精に供する精子選別法・評価法の確立を研究している。1987年慶應義塾大学医学部を卒業。2000年に黒田クリニック・リプロダクション リサーチセンターを開設、2003年に黒田インターナショナル メディカル リプロダクションに改称、院長に。最新著書は『不妊治療の真実―世界が認める最新臨床精子学―』。

卵子の凍結と、精子の凍結は、性質が全然違うのです。それは、そもそも卵子と精子の細胞の構造が大きく異なっているからです。

精子はとても特殊な細胞です。

人間の一般的な細胞は、細胞膜という袋の中に色々な器官が細胞質という溶液に浮いているイメージです。

一方、精子はオタマジャクシ形で、頭部には核、すなわちDNAがぎっしり詰まっており、細胞質(液体)がありません。実は、精子が精巣で作られる最初の段階では、精子も一般の細胞のような形をしているのですが、徐々に形が変わって最終的にオタマジャクシの形になるのです。

細胞の凍結に際しては、この水分が少ない細胞であるということが大きなメリットになります。ですから精子の凍結保存は、数十年前から実用化され、例えば、世界中で生まれるウシのほとんどは凍結精子を用いています。

凍結保存しておいた卵子でヒトが妊娠する確率は、極めて低いのです。これまでに、ある自治体が卵子の凍結に助成金を出すという報道もありましたが、私は賛成できません。「卵子を取っておけば大丈夫」と若者たちに誤解させてしまうだけです。

繰り返しますが、例えば45歳になって、自分が25歳のときに凍結保存しておいた卵子を使っても、妊娠する確率は限りなく低い。しかも、正常な妊娠ができる保証はどこにもないのです。私の病院の患者様も、卵子は誰一人として凍結保存していません。

ART(生殖補助医療)を行う施設では、胚(受精卵)の凍結保存を行っています。一方、未受精卵の凍結保存はまだ実験的な治療です。

細胞を凍結するときに、その体積は重要な要素となります。ヒトの卵子は直径約0.1mmで、ヒトの細胞の中で最大です。実際、肉眼で見えるほど大きいのです。細胞を凍結するときは、凍結保護剤を細胞に浸透させますが、これは体積が大きいほど不利になります。

また、未受精卵の凍結保存で最も大きい問題は、卵子内にある「表層顆粒」と呼ばれる特殊な小器官が凍結融解の過程で壊れてしまうことです。この表層顆粒は、受精に際して精子が1匹卵子に侵入すると、2匹目は入ることができないようにする重要な役割を果たします。従って、凍結した未受精卵を融解して精子と受精させるときは、顕微授精が必須となります。

2つ目の問題は、未受精卵をどのように採取するかです。うまく妊娠できるのが何番目の卵子なのか分からないため、妊娠の可能性を上げるためにはたくさんの未受精卵を凍結保存しておく必要が生じます。ヒトが一度に排卵する卵子の数は、生理的には1個。ホルモンを注射して卵巣の中でたくさんの卵子を育てようとしても、最大で10個程度です。毎月採取することはできないため、100個の卵子を得るためには、3年以上かかることになります。

3つ目は、実は非常に重要なのにもかかわらず、なかなか話題として取り上げられることがない問題です。それは、未婚者が未受精卵を凍結保存する際、その時点ではまだ、将来その女性の夫になる男性が決まっていないという点です。配偶者がいて、現時点ではまだ妊娠できないというときは、夫の精子で受精した胚を凍結すればいいわけです。今や不妊原因の約半数は男性側が占めますので、将来結婚した男性が、精子形成障害による男性不妊である確率は決して低くはありません。この場合、妊娠する確率はさらに低下します。

■精子は採取した直後に凍結しなければいけない

―― 精子の凍結保存の話に戻ります。精子を採取したら、その直後に凍結するものなのでしょうか。

はい、採精してからすぐに凍結作業に入らないといけません。精子は時間がたてばたつほど「先体反応」といって、卵と接着するための機能が自然力で発現するように、細胞の形態的変化が起こってきます。射精した状態のまま、2時間も3時間もいるわけではありません。

また、通常の性交渉だと、精子が空気に触れることがほとんどありません。でも、治療だと自慰で採精するので空気中に精子が置かれます。それで生体の中のメカニズムからズレが生じるわけです。そこも考慮しなければいけません。

―― それほどタイミングが重要であるにもかかわらず、自宅での自己採取を許可する医療施設があるのですね。

そうです。自宅採精は絶対ダメです。特に夏は、精液の中に入っている雑菌が繁殖するというリスクもあります。

―― 少し話が戻りますが、なぜ精子の一番外側の細胞膜が剥がれるのでしょうか。

精子の一番外側の細胞膜には「糖鎖(とうさ)」と呼ばれる“手”みたいなものが伸びていて、そこに卵子の“手”がくっつく。そのときにカルシウムイオンの細胞内情報伝達物質が活性化される。これがトリガーになって精子の一番外側の細胞膜が取れて、先体というものが露出し、そこでカルシウムイオンのやり取りがなされて受精していく。その一連の動きを先体反応といいます。

―― 精子もまるで一人の人間であるかのように、生きているのですね。

そうなんです。卵子は水分含有量が多くて凍結保存には向いていないと説明しましたが、培養液の中に入れて、pHや温度を管理すれば、採取した後に一定時間放っておいても問題は無い。その点では、精子の保存のほうが難しいとも言えるのです。

(日経DUAL 小田舞子)

[日経DUAL 2015年11月26日付記事を再構成]

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