アニメの続きは現実で 自治体・企業、コラボで広がる

音楽に、舞台に、観光に、ものづくりに――。2015年はアニメの楽しみ方が大きく広がる1年となった。熱心なマニアだけでなく普通の若者や大人にも受け入れられ、さまざまな企業や自治体が目を向け始めたことも背景にある。「大人の趣味としてのアニメ」の最前線を点検しつつ、今後の展開を予想してみた。(編集委員 石鍋仁美)

<音楽>

声優がアイドルに

「ラブライブ!」声優のグループ「μ’s」(ミューズ)は今年末の紅白歌合戦に出演

12月15日、東京・秋葉原のビルを巨大広告が飾っていた。映画「ラブライブ!The School Idol Movie」のブルーレイ発売日。店頭の展示も目立ち、200万人を動員、興行収入28億円を超えた映画の人気ぶりを映す。

同作品は学園アイドルグループの活躍を描く。出演声優のユニット「μ’s」(ミューズ)は、31日のNHK紅白歌合戦に出場が決定。ストーリーの展開をなぞり、来春には活動を停止するという凝りようだ。

ほかにも「アイドルマスター」「うたの☆プリンスさまっ♪」など、アイドルを描くアニメ作品と、音楽CDやコンサートといった興行の世界が複合的に展開する動きが広がった。

<舞台>

宝塚にルパン登場

宝塚歌劇 雪組公演「ルパン三世」(2015年)(C)宝塚歌劇団

この秋「ルパン三世」の新テレビシリーズが30年ぶりに始まり、ファンを喜ばせた。男性向けのイメージが強いルパンのオリジナル作を今年は宝塚歌劇団が上演しヒットさせた。なじみの曲が流れ、マリー・アントワネットやカリオストロ伯爵といった、宝塚とアニメそれぞれになじみのある2人も登場する。

2014年のミュージカル市場は13年比で13.7%増(ぴあ調べ)。アニメや漫画など2次元作品を現実の俳優が演じる「2.5次元」作品はけん引役の1つで、15年も同傾向が続く。ちなみにポップスコンサート市場の拡大もアニメ主題歌や声優の歌が柱の1つだ。

<観光>

聖地の地位狙う

2015年秋公開の映画「心が叫びたがってるんだ。」は埼玉県秩父市が舞台 (C)KOKOSAKE PROJECT

10月17日、土曜。さいたま市の複合施設、ソニックシティは「第3回アニ玉祭(アニメ・マンガまつりin埼玉)」の来場客でごったがえした。「『埼玉県=アニメの聖地』としての地位を確立する」狙いで同県などが始めた催しだ。

古くは「クレヨンしんちゃん」から、同県久喜市の鷲宮神社を全国区にした「らき☆すた」、今秋公開の映画「心が叫びたがってるんだ。」まで、埼玉が舞台の作品が多いからだ。

アニメでの街おこしが全国で広がる。金沢市の湯涌温泉は「花咲くいろは」の「ぼんぼり祭り」を再現し5回目の今年も好評。聖地争いはますます激しい。

<ものづくり>

「エヴァ」伝統と融合

鉄の展示館(長野県坂城町)で開かれた展示会では刀匠が作中の武器を再現

1995年に初放映された「新世紀エヴァンゲリオン」が企業の集客戦略や伝統的なものづくりを変えている。JR西日本は作中のメカ「初号機」をイメージした新幹線の運行を開始。セブン―イレブン・ジャパンはやはり初号機をあしらったスマートフォン(スマホ)を限定発売した。

日本刀の刀匠とコラボした「ヱヴァンゲリヲンと日本刀展」は岡山県の博物館を皮切りに国内外を巡回。海外も含め40万人超を集めた。謎めく展開、宗教や文学の要素を入れたセリフにひかれたインテリ志向の少年が、20年を経て社会の中堅になったせいか。

井上雄彦「リアル」は車いすバスケットボールがテーマ

今後、期待できるテーマ

アニメ業界は少し前まで、一定数の熱心なファンにDVDや関連商品を大量に購入してもらうことで成長してきた。だが若年層の雇用不安などもあり、このビジネスモデルは色あせつつある。幅広く他の業界や自治体などと手を結び、ライト(軽い)なファンを呼び込む「脱オタク」戦略は、さらなる人気拡大には必然ともいえる。

今後アニメそれ自身はどう変わっていくのか。美少女とメカ頼みだけでは、先行きは厳しい。

期待できる分野は2つある。ひとつは障害、差別、貧困などを正面から描く作品だ。聴覚障害者を描く大今良時の漫画「聲の形」(こえのかたち)を、「けいおん!」などで知られる制作会社、京都アニメーション(京都府宇治市)が映画化するそうだ。

アニメ原作となることが多い漫画の分野では、他にも、車いすバスケを描く井上雄彦「リアル」、作者自身の経験をもとにきつ音症を描いた押見修造「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」、生活保護担当の自治体職員が主人公の柏木ハルコ「健康で文化的な最低限度の生活」、通信制高校を描く佐々木ミノル「中卒労働者から始める高校生活」などの秀作が生まれている。

性的少数者を描く作品でも、読み手がオタク女子に限られる「やおい」漫画とは一線を画した普通の作品が生まれてきた。田亀源五郎「弟の夫」、鎌谷悠希「しまなみ誰そ彼」などだ。2020年には東京でパラリンピックもある。貧困や格差の問題も深刻さを増している。こうした作品がうまくアニメ化されて家庭で視聴されれば、人々の問題意識に一石を投じる。

生活保護の現場を描く柏木ハルコ「健康で文化的な最低限度の生活」

もうひとつの期待の分野は「老いと死」だ。若者が担い手だったアニメは主に恋愛や冒険を描き、死は戦争や難病による非日常な要素として描かれた。しかしオタク文化を引っ張ってきた先頭世代も50代後半。人生の終盤が近い。

小説、映画、フォークソング、さらには漫画と、いずれも担い手と受け手の高齢化とともに、このテーマに取り組む作品が生まれた。作家の小島信夫や映画監督の黒沢明の晩年の作品が代表例だ。世代を問わず多くの日本人の感性に溶け込み、文化の「インフラ」(社会的基盤)になったアニメでもそろそろ、こうした流れが起きてもいい頃ではないか。

[日本経済新聞夕刊2015年12月26日付]